第196話 王様の尋ね人
久々の男子だけの昼食を楽しみ、時刻はもうすぐ十三時。
例の謎のフード少女と話す時間が迫って来た。
その子はどうやら僕に様子があるらしい。
素性もわからないので、慎重に行かねば。
「お待たせしました。主様が入られます。」
僕が応接室に向かうと、そこにはメイドがいて、彼女が先に部屋に入った。
開いたドアから一礼して、丁寧に僕を紹介するメイドの姿が見える。
なんかこう.....召使に先に行かせる感じが、いかにも偉い人になった感じがするな。
「入るよ」
僕も一声かけつつ、応接室の中に入る。
視線を少し移動させると、ソファに例の尋ね人の姿がある。
全身を少しボロくなった外套で纏い、フードを深く被っている。
確かに、その状態では何も見えないな。敵意はなさそうだ。
僕は視線を動かし、メイドを下がらせると、二人っきりになった。
それからローテーブルを挟んで向かい側のソファに座り、自己紹介を始める。
「初めまして、僕の名前は仲居律。律でいいよ。
一応、ここでは一番偉い立場になるかな。
でも、気を楽にしてくれたらいいよ」
「へぇ、あんたが一番偉い人なの? 随分と若い王様なのね」
目の前の尋ね人は、思ったよりフランクに返答を返してきた。
それどころか若干舐めているような雰囲気すらある。
まぁ、それで腹を立てるほど、僕の器は狭くないけどね。
それよりも、声質的に確かに女の子の声だ。
「私はキャルメル......キャルメル=ヘルナーゼ。
どうぞ、よろしくお願いしますね。お・う・さ・ま♡」
少女――キャルメルはそう自己紹介して、フードを取った。
ピンクがかった赤い髪を、黒いリボンでツインテールにしている。
ピンク色の瞳をし、目は細く切れ長だ。
顔立ちは可愛いと美人を均等に分けたような感じ。
また、右目下まぶたの中央辺りに黒いホクロがある。
そんな彼女の僕を見る目は、少しだけ小バカにしている感じがある。
例えるなら、よわ大人を煽るメスガキキャラの目というか。
それがデフォなのかどうか判断つかないから、今は放っておこう。
「......可愛らしい顔立ちだね。とても魅入られそうな雰囲気もそうだけど」
「ふふっ、ありがとう♡ そう言われると、これまで頑張った甲斐があったわ」
僕の誉め言葉を、言われ慣れてると言った感じで、キャルメルは軽く受け流した。
ちなみにだが、僕が言ったのはただのお世辞だ。
もっと言えば、彼女の反応から種族を確かめたかったというべきか。
―――コンコンコン
「失礼します」
メイドが部屋に入り、僕達の前に紅茶を置いた。
すると、キャルメルは「ありがとう」とお礼を言い、紅茶を手に取る。
「ん~、美味しい♪ 良い茶葉を使ってるわね」
左手に皿を持ち、右手にコップを持つ姿勢はとても品がある。
日頃からそういう環境に身を置いていたような感じだ。
加えて、飲む際の姿勢も良いし......これはどこかのお偉いさんで決まりかな。
っと、僕も考え込むのは程ほどにして飲もう。
せっかく持ってきてもらったのに口をつけないのはもったいない。
でも、紅茶の飲み方なんてわからないな.....とりあえず真似るか。
「ところで.....先程私のことを可愛らしいって言ってくれたけど、顔立ちだけ?」
「へ?」
その時、キャルメルの口から飛び出た突然の質問に、一瞬思考が停止した。
ピンク色の瞳がジロッとこちらを見る。
さながら誘っているかのような視線の送り方だ。
なぜそう思うかって?
そりゃさっきから僕の<魔法探知>のアラートが鳴りっぱなしだからだよ。
.......なるほど、彼女はそういう種族か。
となれば、目に<魔法反射>の魔法陣をセットしておこう。
今は空気汚染だけだが、なんか調子乗って来そうな雰囲気あるし。
あ、ついでにかかったフリもしておこう。たぶんボロが出る。
「......もちろん、それだけじゃないよ。
初対面の女性にこういうのも失礼かもしれないけど、すごく男ウケしそうなプロポーションだ」
「フフッ、そうでしょう! ま、私からすればこれぐらいは当然ね。
それじゃあ早速だけど――私の下僕になりなさい」
*****
―――キャルメル視点―――
―――ノアが来る数分前
私はキャルメル。今はしがない旅人をしている。
といっても、その役職もきっと今日で最後になるでしょうけど。
「......にしても、森の中にこんな立派な国なんかあったかしら?」
応接室の作りは、私が知ってる王族の応接室そっくりだ。
つまり、ここにはどこかの王国なんだろうけど......地図のどこにもこんな国は無かった。
というか、本当に国なの? 国民の誰も国の名前を答えられないなんて。
「本当はたまたま街が見えたから、適当に休もうとしてただけなんだけど」
私はとある目的で、戦力を欲している。
そしてその戦力として、巷を騒がせている「悪役の偉業」という組織を探しに来たんだけど......。
その人物達が見つからないので、適当なこの場所で、王様でも誑かして戦力にしようというのが現在だ。
―――コンコンコン
その時、ドアがノックされる音が聞こえた。
ドアが開くと同時に、メイドが入り、王様がやってきたことを教えてくれた。
まさかこんな不審な人物にこんなにあっさりと面会してくれるなんて。
お人好しなんだか、警戒心が無いんだか。
ま、こっちにとっては都合がいいので問題なし。
「入るよ」
そう言って入って来たのは、同い年ぐらいか少し年下ぐらいの黒髪の少年だ。
王様にしては若すぎる......早くに父親が死んでしまったとか?
それに、王族としての気品もなければ、覇気もない。
え、この国大丈夫?
前に出会った鍛冶職の大男の方が、よっぽど凄み合ったけど。
ん~~~......でもまぁいっか。
若い方がきっと都合がいいだろうし。
どうせこの私の美貌の前ではだぁ~れも勝てないんだから!
「......」
目の前に、王様ことチェリー君がソファに腰掛けた。
気品や覇気はないけど、やたら場慣れしてる感じはある。
まるで何度も緊張する場面に立ち会ってきたみたいだ。不思議。
ま、それはそうと、さっさと仕掛けちゃいましょ。
私もベッドでゆっくりと羽を伸ばしたいし。
「へぇ、あんたが一番偉い人なの? 随分と若い王様なのね」
私はそう言いながら、深く被っていたフードを取った。
ふふん、どうよこの数多の同族同性を惚れさせ、同族異性に嫉妬の嵐をもたらした最高偏差値フェイスは?
そこへさらに追撃アタック!
「私はキャルメル......キャルメル=ヘルナーゼ。
どうぞ、よろしくお願いしますね。お・う・さ・ま♡」
決まった......完璧に何の狂いもなく決まった。
この情欲を誘う目に、相手をとろかすような言葉。
そして、あえて顔以外を見せないということで容姿の妄想を掻き立てる。
まさにサキュバスの真骨頂とも言えるこの妙技。
ま、私にかかれば、普段の一挙手一投足で男なんてイチコロだけどね。
さてさて、この言葉の反応は――
「......可愛らしい顔立ちだね。とても魅入られそうな雰囲気もそうだけど」
「ふふっ、ありがとう♡ そう言われると、これまで頑張った甲斐があったわ」
はい、キター! これはキター!
チョッロ、こんなあっさりかかるなんて。コイツ、チョロすぎっ!
うっわ、これでもう私の仕事は終わったも同然だわ。ラクが一番!
にしても、案外ストレートに褒めてきたわね。
インキュバスの野郎どもなんか、やたらクサいセリフで例えてくるけど。
こう正面から言われるのも案外悪くないものね。
ただまぁ、表情に全く出てないのが気がかりだけど。
もしかしたら緊張したら顔に出にくいタイプなのかもね、アハハ。
「失礼します」
私の気分が良くなっていると、メイドが紅茶を運んできた。
色合い的にはうちで使ってる茶葉と似てる。
でも、香りは若干違うみたい。こっちの方が少し強い。
さてさて、お味の程は――
「ん~、美味しい♪ 良い茶葉を使ってるわね」
香味が少し強いけど、口触りはマイルド。
味も似てるおかげで飲みやすくて助かる♪
ハァ~、久々にこの味が味わえるなんてここに来た甲斐あったわ~。
「......」
私はチラッと正面に座る少年を見る。
紅茶を飲む姿が様になってない。
普段あまり飲まない感じね。
たぶん私を真似てそれっぽく飲んでるだけ。
いよいよもってここが国かどうか怪しくなってきた。
もしここが国じゃないとしたら......ただの拠点? この規模で?
ハッ、もしかしてここが例の「悪役の偉業」の拠点だったりして!(※正解)
って、そんなわけないか~。
これだけ世間を騒がせてるんだし、きっと相当なキレ者だろうし。(※不正解)
それはそうと、やっぱりコイツの表情が先程から変わらないのが気になる。
男なんか私を見ただけで、デレッデレのでろんでろんになにはずなのに。
「ところで.....先程私のことを可愛らしいって言ってくれたけど、顔立ちだけ?」
せっかくこっちは良い気分になってるところなの。
どうせならコイツの赤面した顔でも見て悦に浸ろうじゃないの。
「へ?」
ふふっ、「へ?」だって。明らか純情チェリー君の反応ね。
しかし、表情には出ないのね。耳すら赤みを帯びてない。
......もしかして純粋な困惑? まっさかぁ。
「......もちろん、それだけじゃないよ。
初対面の女性にこういうのも失礼かもしれないけど、すごく男ウケしそうなプロポーションだ」
「フフッ、そうでしょう! ま、私からすればこれぐらいは当然ね」
相変わらずストレートに褒めてくれるのは嬉しい。やるじゃん。
.....って違う違う! 嬉しいのだけども!
そうじゃない! そうじゃないのよ、私が欲しいのは!
おっかしいな、サキュバスはいるだけで多少フェロモンを振りまく。
そのフェロモンは、例え相手が堅物でも、私に好意を寄せるようになるほどには強い。
にもかかわらず、反応がずっと淡白だ。
むしろ、こっちがそのフェロモンにかかってるみたいじゃない!
くっ、こうなれば<催淫眼>でも使ってやろうかしら。
「それじゃあ早速だけど――私の下僕になりなさい」
「それは僕のセリフじゃないかな?」
「あ、そうだったわね.......私ったらつい......ん?」
あれ? 今私なんつった?
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)




