帝国Ⅺ-3
作戦を聞いた兵士たちは、驚きか、呆れか・・・声も出ない様子だ。
「質問いいか?」
一人の冒険者が手を上げる。
「ああ、かまわない。何でも質問してくれ。」
「じゃあ、遠慮なく。どうやってそんな大きな物を描くんだ?それからドラゴンはどうやってその魔法陣だっけ?それに移動させるんだ?」
「それは・・・今から決める。」
部屋の中のトーンが一段階下がったような気がする。同時に部屋がざわつく。
別に考えていなかったわけじゃない。
ドラゴンという存在が未知数すぎて、作戦が定まらないのだ。
「そんなことでは困る。私にも家庭があるのだ。最強と噂のある魔獣を相手に作戦も定まっていないまま戦いに行くなどできようものか。」
一人の冒険者がしっかりと反論する。
真っ当な指摘だ。
もちろんこのまま何も決めずに戦いを始めるわけじゃない。
「もちろん、このまま戦うわけではない。まずは皆さんの能力を知りたい。同時に相手も知らなければならない。これよりドラゴンについて良く知る人物や我々と同じく準備をしている者たちの元を訪ねる。」
「準備していた者たち?」
「ニッホンの政府、天守だ。」
会場は再び静寂を取り戻した。
会議を終えて数日後、魔導四輪の車列はニッホンを目指していた。
ニッホンは長年、ドラゴンへ対処するため研究をしていた経歴がある。
その研究成果と、これまでにわかっている事を統合し共同で捜索討伐を実施する。
既に連絡を取り合っている。
遠目に見えてきたニッホンの街並みから、色々な記憶がよみがえってきた。
天守と刀幻は元気にしていると聞いているが、ここ最近は会っていなかったから様子が気になるところだ。
道にできたくぼみにタイヤが引っかかり大きく揺れる。
しかし、何ともないのか力強く走り続ける。
改良の成果か、最新式の魔導四輪はとてつもない出力で駆け抜け帝国から王国まで数日とかからずたどり着いた。
ニッホンを囲う城門に辿り着くと、待ってましたと言わんばかりに開かれる。
幸いにも大きな損害は無いようだ。まだドラゴンはここら辺に来ていないのか?
俺はすぐに天守と刀幻のもとへ向かう。
二人は国の中央にある城に住んでいるかと思ったが、城からちょっと離れたところにある平屋に案内された。
「久しいのう。魔王よ。謙遜にしておったか?」
いつもと変わらない様子の天守だが、その腕には依然と変わったところがある。
赤子であった。
誰の子か。そんな無粋なことは聞かなくてもいい。
天守の隣には刀幻が少し大きくなった子供と手をつないでいた。
「変わらないよ。そっちはそっちで元気そうだね。」
「ふん、誰かさんが分別もつけず、暴れるからのう。」
ジロリと視線を流す。
刀幻はそれをさも当然のごとく、受け止める。まだまだ子供は増えそうだ。
「惚気話も大概にして本題に入ろう。」
天守からは惚気てなどと抗議があったが構わず続ける。
「早速だが、戦闘の結果次第ではあるがドラゴンの最終封印地は王国で行う。異論はあるか?」
「構わん。好きにするといい。」
なぜ、最終封印地を決めるのか。それは討伐のかなめである魔素拡散の魔法陣に由来する。
拡散した魔素は何処へゆくのか?
再びドラゴンに戻ってしまっては意味がない。
そこで、拡散した魔素を凝集し魔石化を行うのだ。
当然、析出した魔石は利用可能である。
これは事前の実験で確認済みだ。
つまり疑似的にダンジョンが出来上がることと同じことなのだ。
戦闘地域となる可能性がある。しかし、同時に大量の資源を得ることができる。
天秤にかけニッホンは身を引き、王国は手を挙げた。
このような状況にあってもニッホンからは兵を出してくれる。
その理由はなぜか。
タロウは知っていたが、改めて聞いた。
「単純な話だ。ドラゴンは人のささいな思惑をおして勝てる相手ではない。
それに追いつめられた者達をより追い詰めるような事をすべきじゃない。いづれ牙をむかれるもの。自然の掟じゃの」
天守の目線はクララをとらえている。
「それにただで身を引いたわけではない。ちゃんと王国とも連絡をとれている。」
ルイスひいては王国の中枢と取引はできているようだ。こちらとしても、特に手を出すような事ではない。
両者で話しがついているならばそれで良しとしよう。
「それでは、具体的にどうやって封印までもっていくか。」
「課題は、誰が先頭に立って、ドラゴンの前に立つかじゃの。」
「それについては考えている。基本的には誰も目の前には立たない。」
「誰も?・・・」
「俺は魔法が使える。中でも光の魔石に関する魔法は得意なんだ。・・・そうだなー見せた方が早いか・・・」
俺は光の魔石を取り出し、魔法を発動する。
俺の隣の景色がゆがみ始める。次第に人の形を模した影が出来上がる。
背丈、恰好は完全に俺そっくりだ。
「ほう、身代わりか。」
「その通り、ドラゴンの認識力がどれほど高いか、分からないけれどある程度注目を引くことは出来るだろう。ドラゴンといえど生物だ。目の前にある巨大な存在から目を話せないはずだ。」
「ふむ、かのドラゴンの全てを把握しているわけではないから、太鼓判を押せるわけではないが・・・。おそらく視覚以外の感覚も持っていると思う。・・・おぬし魔素も似せることはできるか?」
「魔素を?なるほど・・・了解した。やってみよう。」
さらに具体的な案を詰めていく。
「そうだ、魔王。今回は僕も戦闘に参加するよ。」
ふと思い出したように刀幻が話す。
「いいのか?その・・・子供だって生まれたばかりじゃないか。」
「キミだって同じだ。子供がいる。それに僕の国でも戦闘がおこるんだ。後ろに隠れてはいられないじゃないか。何よりあのドラゴン。ニッホンの元首として目は背けられない。」
「お前がそれでいいなら、良いけどよ。」
俺は思わず、天守の方を見てしまう。
「そら、いいよね?」
「もう何度も話した話した事じゃ。もうよい。」
少し顔を赤らめつつ、そっぽを向く。しかし、すぐに向き直り真面目な顔をする。
「良いか二人とも、おぬしたちはまだ死ねぬ。これからの世界にとって必要な人々じゃ。完全な勝利を求める。」
自然と背筋が伸び、拳を強く握った。




