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もしも明日が雨ならば 10

 ―――そうして、呪いが解け真実の姿を取り戻した王子様は少女と結ばれ幸せに過ごしましたとさ。



「……これが醜い獣の王子と村娘の奇妙な恋愛劇の顛末だ」

 そう結び、ダミーはおもむろにズボンのポケットを探ろうとし、やめた。室内での喫煙はまずかろうと気が付いたのだ。

 ―――こりゃあ、病気だな。

 自嘲気味に笑う。それまで気を張ってダミーの話を聞いていた少女は物語の余韻を味わうように長い長い吐息を吐き出した。

「……疲れたかい」

 尋ねると、少女はぶんぶんと首を振った。長い髪がふわりふわりと揺れ、微かに甘い匂いがダミーの鼻をくすぐる。

「いえ、とっても面白い話なので、夢中になってしまいました」

「そう思ってもらえるなら、語る側にしても冥利につきるね……」

 屈託のない賞賛の言葉にダミーは頬をかき、膝からずれ落ちそうになっていたアイリを再び抱きなおした。

「他には、他にもありますか?」

「あるといえばあるが、その前にあちらさまの話を聞いてやっちゃどうだい」

 ぐいぐいと身を乗り出してくる少女にダミーは曖昧な笑みを返し後背を示した。書斎の入り口に、アニスが立っていた。右手に提げられた小ぶりなハンドベルをちりんと鳴らし、アニスの金色の瞳がじっと一同を見つめてくる。

「夕食が出来たみたいですね」

「先にいっておくよ。御馳走になります、とね」

「心配しなくても、お客様の分もちゃんと出しますよ」

 心外だと頬を膨らませる少女に曖昧に笑い、ダミーは手元の本をぱたりと閉じた。




『野菜スープと、ローストビーフと戻し野菜のサンドウィッチでございます』

 真っ白なテーブルクロスの引かれた長テーブルに座る一同の前でアニスがミニサイズの黒板を高々と頭上に掲げた。いつもの鉄面皮もどことなく誇らしげに見える。

「こしやさい……?」

「もどしやさい、な」

 自信なさげな少女の言葉をやんわりと訂正し、ダミーは自分の席に置かれた料理に目を落とした。

 アニスの掲げる黒板に記された通りのメニューがそこに並んでいた。


 ・野菜スープ。スープ皿の底が見えるような澄んだスープ、匂いからしてチキンブイヨンと何某かのハーブそして味のアクセントに胡椒が少し振られているようだ。具は、一口サイズに切られたジャガイモ、ニンジン、タマネギ、ほうれん草、マッシュルーム。火を通されてもなお鮮烈なほうれん草の青さと見るからに柔らかそうに仕立てられた琥珀色のタマネギが目に嬉しい。


 ・戻し野菜とローストビーフのサンドウィッチ。表面をさっと焼いた厚切りのパンにローストビーフ、タマネギ、レタス、トマトが挟まっている。こちらは砕いた胡椒とソースで味付けをされているようだ。ソースは匂いからするに、果物と野菜を刻みスパイスと一緒にからめたもの、だろうか。


 予想以上にしっかりとした料理が出てきたことに、ダミーは思わずほうと感嘆の声をもらしていた。

「うまいもんだな。正直驚いた」

「あ、エウナさんはどうしましょう」

 料理を前に味への期待を膨らませていたダミーは少女の言葉を聞き、席から腰を浮かせた。

「俺が聞いてこよう。手が離せなくても、このメニューなら向こうでも食べられそうだ」

「一緒に行く?」

「いや、時間がかかるようなら先に食べていていいぞ。あまり待たせて料理を冷ますのも悪い」

 アイリの同行を断り食堂に続く扉に向かうダミーは、扉の近くに立つアニスの掲げる黒板に新たに文字が増えていることに気が付いた。

『向こうにサンドウィッチを持っていくときはそれ用に包むので早めに知らせて下さい』

「ああ、その時はよろしく頼むよ」

 食堂の扉をくぐり、ダミーはカリーナ女史の寝室に向かった。


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