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もしも明日が雨ならば 4

 雨風の中薄闇に黒く浮かぶ建造物のシルエットは、ちょっとした豪邸のような様であった。

「ここが私と母の家です」

 ダミーの手を借り竜車の荷台から降りながら、少女は言った。

「あなたのお母様はどこに?」

「こっちです!」

 エウナの手を取り矢も盾もといった様子で『薬師小屋』に引いていく。二人の後ろ姿を眺め、それが豪邸の扉の内に入るのを見届けると、視線を移し竜車の御者台の座るポーリーに向かってダミーは軽く手を振った。

 それに応えるように片手を上げると、ポーリーは手綱をぐいと引き竜車を動かし、豪雨でけぶる闇の中に駆け消えていった。

「さあ、俺たちもお邪魔させてもらおうか」

 ダミーの横にぴたりと張り付きそれらのやり取りを不思議そうに眺めていたアイリの頭に馬車からおろしていた丈の長いマントをかぶせると、ダミーもエウナの消えていった扉の方に歩き始めた。



「薬師『小屋』ってのは、ここまでくるとあまり適切な表現ではないよな」

 玄関の豪奢な両開き扉をくぐったダミーは目の前に現れたいかにもな感のする屋敷のエントランスにそう感想をもらした。シャンデリアを吊るされた高い天井、ほうぼうに見える大きく多い扉の数々、ホールの真ん中にでんと鎮座する真っ白な階段とテラスなどは、絵画や壺などの調度品こそ無いがダミーにとってそれこそテレビや映画でしか見たことが無い光景であった。

「さて、エウナ嬢とお嬢さんはどこにいったかな」

「こっちだ」

 アイリがダミーの手をとり引いた。引かれるに任せ、小柄な少女の歩幅に合わせ歩んでいくと彼らはエントランスの階段をのぼりすぐの場所にある一室の扉の前で止まった。

「ここだ」

「まてまて」

 なんの躊躇もなく扉に手をかけようとしたアイリをダミーが止めた。

 そして怪訝そうな顔で見上げてくるアイリの目の前で、ちっちっ、と指を振ってみせる。

「こういう場合はいきなり扉を開くんじゃなくまずはノックで中の人間におうかがいをたてるのが紳士淑女的な対応というもんだぜ」

「そういうものなのか?」

「そういうもんさね」

 ゆるく握った右手の甲でこつりこつりと見た目にも重たげな白い硬木の扉を叩く。分厚い扉越しに何かが動く気配がし、少し間を置き内側から扉が開いた。

「ほら―――」

 そして開いた扉の内から飛び出した影が弾丸のような勢いでダミーの首に取り付きそのまま地面に押し倒した。

「―――な?」

 直後、首を捻るダミーの、直前まで頭のあった筈の場所に耳を張る破裂音とともに穴が空いた。

 ―――火薬の匂い!

 改めてダミーの顔に押し付けられようとしている、独特の刺激臭のする煙をまだ引く暗い穴にダミーは顔を引きつらせた。―――穴に繋がる筒状の構造、そしてそこに繋がるどうにも見覚えのある持ち手と―――今際の走馬灯よろしく、どこか冗長にも感じられる刹那のその間に視線を辿りそれの正体が判然とすると、さらにその目が見開かれた。

「銃!?」

「ダミー!」

 引き金にかかる指に力がこもり、いざや第二射というところで横合いから割り込んできたアイリがダミーの胸の上にいた人影を蹴飛ばした。

 おおよそ、小柄な少女の蹴り一つで出るものとは思えないような音を発しインパクトを伝えた蹴擊に襲撃者は地面と平行に吹き飛び、しかししなやかな仕草で空中で身を翻すと豪奢な絨毯の地面を滑りながら着地した。

「大丈夫か?」

「ああ。危うく鼻の穴が増えるところだったがね」

 素早く身を起こしながらダミーはそう答えた。

「ここじゃあ丸腰の相手にノックのかわりに銃弾をご馳走するのかい。まったくいかした場所じゃないか、ええ?」

 馬車に置き放しにしたままの剣のあった筈の虚しい空白に手を滑らせ、しかしそれを押し込みダミーは不敵にそう言い放った。

 対する襲撃者はそれを察しているのか、悠々とした所作で身を起こし両手に構えた銃のマズルをまた改めてダミーとアイリの二人に向けた。

 襲撃者は、真っ黒なエプロンドレスに身を包んだ見た目に十代前半といったところの幼い少女だった。肩口で切り揃えられた蜂蜜色の髪、それに縁どられた幼い容貌は可愛らしいといってもいい整ったものだったが、どこまでも怜悧な色の宿った金色の瞳がその印象をどうしようもなく冷たく無感情なものへとかえていた。

 しかし、その容姿は―――。

「……お嬢ちゃん?」

 襲撃者の容姿に先まで同行していた少女の影をみつけ、ダミーは思わずそう声を発していた。

 だが、あの少女の髪はもっと長くなかっただろうか。あの少女の瞳はたしか青かった筈……困惑し、混乱するダミーの心の間隙を縫うように、少女の姿をした襲撃者はするりと流れるように発砲を行った。

 橙色の軌跡が過たずダミーの額に吸い込まれ、その途上でまた横合いから飛来した青い光線によって撃ち落とされた。

 先程襲撃者が飛び出してきた扉から、腰まで届く蜂蜜色の長髪と雨よけのマントを翻し青い瞳の少女が駆け出てくる。

「ダメー!」

 少女は、冷えた容貌に僅かに困惑を浮かべ射撃体勢でかたまる襲撃者のもとに一目散に駆け寄るとその腰に飛びかかり、そのまま押し倒した。

 どすん、と派手な音を立て助走の勢いもそのままに絨毯を転がっていく二人の少女の姿にダミーは手持ち無沙汰に頭を一つ掻き、件の扉に何気なく視線を向けた。

「何事ですの?」

 発する言葉のそのままに表情にはてなを浮かべたエウナが扉の内からふらりと顔を出した。

「いやさ、由緒正しきレッフェルト家のおもてなしというやつを堪能していたところだよ」

「訳がわかりませんわ」

 はてなを深めるエウナに曖昧な微笑を返し、ダミーは未だ警戒をとかず襲撃者のほうに尖った視線を向けているアイリを伴い件の部屋の方に足を進めた。

「まあ、落ち着いてからおいおい話すよ。まずは家主殿に挨拶をしないとな」

「それも紳士淑女的対応というやつか?」

 硬い声で紡がれたアイリの言葉に、ダミーは乾いた笑いをもらした。


ぶつ切りでも短いスパンでやるか、時間をかけてもいいから一話毎のボリュームをあげるか、それが問題デス

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