もしも明日が雨ならば 2
―――大丈夫、大丈夫なの。きっと、大丈夫だから。
雨の降る野を息をきらせて駆ける。溢れそうになる冷たい涙をこらえ、雨で重たくなった外套の裾を跳ね上げる泥で汚しながら必死に走る。早く、速く、はやく、疾く、と。
―――大丈夫だって言っていたの。心配ないって。だから、きっと大丈夫なの。
嵐の様で吹く風に舞う大粒の雨粒がばたばたと顔を叩く。目に入った雨を払うためにこすると、鼻の奥がつんと痛んで涙がこぼれそうになるけれど、唇をぎゅっと噛み締めてこらえた。
本当は泣きたかった。冷たい、疲れた、痛い、と、走るのをやめて大声で泣きたかった。私は弱いの、可哀相なの、誰か助けてと泣きたかった。
それでも泣かなかった。今泣き出したらきっとすぐに動けなくなって、取り返しのつかないことになるとわかっていたから。
だから、一生懸命になって暗い野を駆けた。大丈夫、大丈夫と呪文のように唱えながら。
―――大丈夫、大丈夫なのよ。
―――きっと大丈夫なの。
―――でも、でも、誰か……
―――誰か、助けてください。
ぬかるんだ泥に足をとられ、転ぶ。
痛い、冷たい。
それまで我慢していた涙が溢れて止まらなかった。
―――ダメ、駄目なの。泣いては駄目なの。立って、走って。
―――大丈夫なの。きっと大丈夫なの。だから……
泥にまみれ、溺れるように手足に力を入れるけれど、立ち上がれない。自分の体なのに、まるでそうでないみたいにいうことをきかない。
「大丈夫、大丈夫だから。立って、歩くの」
そうでなければ、そうでなければ……
「お母さん……」
真っ暗闇の中、どしゃりと何か重たいものが泥の中に落ちる音がした。




