01-09.初勝利
「ファイヤぁー!! ボール!!!!!」
背後から凄まじい熱量が迫ってきた。
通知を聞くまでもなくわかる。直撃コースだ。
「グォォォォォォォオオオオオ!!!」
牛頭が巨大なナタを振り上げた。少女一人分はあろうかというナタだ。掠れば当然命は無い。
それでもギリギリまで引きつける。背後から迫る炎弾を身体で隠し、勇気を振り絞って一歩だけ前へと踏み込んだ。
「ベランさん!?!」
フィーアの悲鳴のような声が届いた。俺の行動に心底驚いたことだろう。当たらないから撃てと告げたにも関わらず、避ける様子も見せていないのだ。少なくとも彼女からはそう見えたことだろう。そして牛頭からも。
「くっ!!」
背中に炎弾が掠める。ギリギリで前へと倒れ込んだ俺の背を僅かに焼きながら、直撃を避けて牛頭の顔面に直撃する。
「グゥァァァァァアアアアア!!!」
ドシンと音を立てて、牛頭が後ろに倒れ込む。
フィーアの魔術は凄い威力だ。コントロールには難があるようだけど、そんなの補って余りある才能だ。
「ガァァァァアアアア!?!?!」
倒れ込んだ牛頭はナタすら手放して、顔の炎を拭いさろうと必死に掻きむしっている。
しかし炎は消えない。まるで際限なく油を注ぎ込まれているかのように燃え続けている。
その炎は段々と牛頭の全身に回っていった。ガムシャラに振り回す手足からも火の粉が飛び散るが、そちらは何故かすぐに消えてしまう。あくまで燃料を浴びせかけられているのは牛頭に纏わりついた炎だけらしい。
「ギャァガガグァガァアアアアア!!!」
結局牛頭は立ち上がることすら出来ず、最後に断末魔の叫びを上げて息絶えた。
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「ベランさん!!」
フィーアが駆け寄ってきた。
俺の背中に手を当てて、叫ぶように魔術を唱えた。
「アクアヒール!!」
全身が水に包まれる。彼女の込めた過剰な力が強引に流れ込んでくる。
「ヒール! ヒール! ヒール! アクアヒール!!」
ちょっと落ち着いておくれ……。元々掠り傷だから……。
そう口にしたいのに言葉が届かない。全身が水に包まれているからだ。ぶくぶくと泡が吹き出すだけだ。不思議と息苦しさは感じない。この水の中でも呼吸は出来るようだ。
「やめい」
「えっ!?」
師匠が止めてくれたようだ。
一瞬で水が消え去っ……たわけではなく、バシャンと床に落ちて広がった。
全身ビショビショだ。風邪ひきそう。
「ふむ。これはこれで」
師匠?
「服を脱げベラン。そのままじゃと風邪ひくぞ」
ですよね。けど。
「安心せい。ボスを倒せば部屋から出ぬ限りは安全じゃ」
なるほど。そういうものなんだ。
「手伝います!!」
正気に戻った? フィーアが手を貸してくれた。
濡れた服に苦労しながら、どうにか一枚一枚脱いでいく。
「ふむふむ♪ むふふ♪ ほうほう♪ ぐふふ♪」
師匠は見ているだけだった。
「きゃっ!?」
おっとあぶない。ついうっかり全部脱ぐところだった。
「何をしておる。全部脱ぐのじゃ」
「勘弁してください。師匠」
「ワシらは目を背けておるとも。絞っておかんと乾かんじゃろうが」
ほんとぉ?
「べ、ベランさん!! ぬ、脱ぎましょう!!」
指の隙間からチラチラ見てるよね。フィーア。
仕方ない……乾かないのはその通りだし……。
二人が後ろを向いたのを確認し、自分も二人に背を向けて最後の一枚を脱ぐ。
「「はわわ~!?」」
おいこら。
手早く下着を絞って履き直し、他の服も一つ一つ絞っていく。
「て、手伝います!!」
フィーアが手の平を向けてきた。
「待って。それは降ろして」
その手の平から何を放つつもりなのかな? あの威力のファイヤーボールなんて放たれたら消し炭になってしまうよ?
「構わん! やるのじゃ!!」
「師匠!?」
「よいからやれ! ワシがサポートする!!」
なんの!?
「ふぁ、ファイヤーボール!!」
放った!?
と思いきや、炎弾は空中でほどけて輪っかになった。
「ふむ。ふむふむふむ」
その炎の輪っかを指先で操るように指揮を振るう師匠。
「えぇ!? どうして!?」
「良いスキルじゃな。ほれ」
炎の輪っかが俺と服を包みこんだ。
「ベランさん!?」
「……熱くない」
ちょうどよく……温かい……。
炎が全身を包んでいるのにちっとも熱くない。程よい温もりが過剰な水分だけを取り除いていく。
「フィーア。おヌシ、エルフにモテるぞ♪」
「えぇ!?」
なんの話だろう。
「この魔力は我らエルフの好むものじゃ。人間のおヌシには扱いづらいじゃろうがのう」
なるほど。
「喜べ♪ エルフはみな美形じゃ♪ 美男美女がよりどりみどりじゃぞ♪」
「なっ……!?」
真っ赤になっちゃった。何を想像したんだろう。
「だ、ダメですそんなの!!」
何故こちらをチラチラ見るんだろう。
「ほうほう♪ ふむふむふむ♪ なんじゃなんじゃ♪ 見る目があるのう♪」
「お師匠様!?」
師匠?
「ほれベラン。いつまでそのような格好でおる。とっくに乾いたじゃろう」
あ。
「ありがとう。師匠、フィーア」
二人に礼を言ってから服を身につけていく。
上着の背中に大きな穴が空いている。掠っただけだと思っていたから驚いた。どうりでフィーアが慌てるわけだ。興奮のせいかそれ程の痛みは感じなかったけれど、相当な傷を負っていたようだ。面目ない。
「……痛みませんか?」
「ああ。痛みは全く無いな。フィーアは凄い魔術師だな♪」
「……えへへ♪」
「によによ♪」
師匠。なんですか、その顔は。




