01-19.身だしなみの大切さ
「私は少し前まで二つしか呪文を使えなかったんです」
もちろん知っている。
その二つとは炎属性初級攻撃呪文の『ファイヤ・ボール』と風属性中級攻撃呪文の『ウインド・ブレード』だ。
何故いきなり中級呪文なのかとかは気になるけど、真っ先に攻撃手段を獲得したのは至極一般的な選択だ。特になりたての冒険者なら尚の事だ。
実際には水属性の使い手や、治癒・探知などのサポート系魔術師が重宝されるものだけど。そうは言っても、いきなり良いパーティーと巡り会えるかもわからないので、大抵は攻撃手段を身につけるものだ。
「お師匠様のお陰で六つになりました♪」
フィーアの才能も凄まじいものだ。普通は見て聞いただけで覚えられるものじゃない。ただ呪文を口にすれば魔術が発動するわけじゃない。ましてや、師匠とフィーアが出会ってからまだ一月だって経っていない。
「……以前のパーティーの皆さんにはとても迷惑を掛けてしまいました」
これも仕方がない。当時のフィーアはレベルも低かった。今以上に前衛の存在が不可欠だった。なのに使えるのは何処へ飛ぶとも分からぬ一撃必殺の魔術。フィーアと同じ若い前衛が恐怖するのも当然だ。
だからといってフィーアを前に出して魔術を連射させたって、パーティーの成長には繋がらない。女神様は公平だ。時として非情とも言える程に。魔石を捧げてもフィーアだけが成長するだなんて、パーティーの子どもたちからすれば納得出来る筈もないだろう。だからって装備まで剥いで放り出すのはやりすぎだけれども。
「そうだフィーア。そろそろ装備を揃えないか?」
今更だけど。
「お師匠様が不要だと」
確かに言った。「いらんいらん」と。「フィーアが防具なんぞ身に着けても一撃で死ぬだけじゃ」と。
師匠は最初から俺たちをミノタウロスと戦わせるつもりだった。だからこの言葉も正しかった。あの頃のフィーアなら防具の上からでも容易く殺されていただろう。
そもそもフィーアが前に出る状況なんて想定されていなかった。俺と組むことを前提に師匠は育成プランを考えてくれていたからだ。
もちろんこれからも基本的な戦い方は変わらない。フィーアとそう約束した。必ず俺が守り抜こう。二人の夢を叶えるその時まで。
「そうだな。フィーアには俺が指一本触れさせない」
「ベランさん!!」
なんか普通に抱きつくようになってきたなぁ……。
「ダメだよ、フィーア。誰かに見られたらまた迷惑を掛けてしまうからね」
「ごめんなさ~い♪」
明るくなってくれたのは何よりだ。……最初からそんなに暗くはなかったけど。良い子だな。フィーアは。
「見た目を整えるのも大切だよ、フィーア」
「えっ!? っ!!! ベランさん好みになります!! ですから!!」
何か勘違いしてる。
「フィーア。ギルド長も言っていたろう。俺たちのレベルは上級冒険者相当だと」
「え? ……ああ。そういうことですか」
理解してくれたようだ。
「今更見返したいとも思いませんが」
え?
「そうですね。私が立派な装備を身に着けていれば、彼らも悔しがるかもしれません」
……あれ? 結構恨んでる? ついさっき迷惑を掛けたと言っていたのに?
「レベルは見えませんから。見た目で強さを示すのも大切なことなのかもしれませんね」
ちょっとニュアンスは違うけど、まあ言いたいのはそういうことだ。俺たちが不審者扱いされてしまうのは社会的な信用が無いからだ。もちろん俺たちの振る舞いにも問題はあるけれど、強い冒険者は一目置かれるものだ。振る舞いも直すし、印象も良くする。どちらも必要なことだと思うのだ。
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「どうですか♪ ベランさん♪」
「うん。似合ってる」
「もう♪ さっきからそればっかりじゃないですかぁ~♪」
嬉しそうにしてくれるからつい。
「ここはアベックが冷やかしで来るとこちゃうで~」
いけない。騒ぎすぎてしまった。
「すみません、店主さん」
「お、兄ちゃんよく見たらええ身体しとるやないの♪」
「むっ!!」
フィーアが急いで回り込み、店主さんと俺の間に立ち塞がった。
「おうおう♪ こっちも元気な嬢ちゃんやねぇ~♪」
「ひゃっ!?」
遠慮なくフィーアの身体に触れだす店主さん。女性同士とはいえ、本当に遠慮がない。
しかもそれだけじゃない。身のこなしが只者じゃない。レベル三十八のフィーアが避けることすら出来なかった。
店主さんも元冒険者なのかもしれない
「きゃっ!? やめっ!?」
「ふむふむ♪ おっどろいたぁ~♪ なんや♪ なんでそんなカッコしとんのや♪ こりゃ詐欺やろ♪ 見た目新人やけど、実際はCランクってとこやな♪」
驚いた。触っただけで言い当てた。
ただレベルはともかく、実際には俺がDランクでフィーアがFランクだから、もっとややっこしかったりもするけれど。
今はダンジョン拡大騒動でそれどころではないけれど、色々落ち着いたら昇給試験を受けさせてもらえるかもしれない。
「アンタらに合う装備なんざそこにゃ置いてないよぉ♪ こっち来ぃな♪ 良いもん見せたるから♪」
「えっ!? 力強っ!? きゃー!! 助けてー! ベランさーん!!」
「ほれ♪ ぼさっとしとらんで♪ 兄ちゃんもこっちや♪」
攫われた……。
いや、唖然としてないで付いていかねば。どうやら俺たちに合う装備を見繕ってくれるみたいだし。
少し遅れて、二人の入った店の奥の部屋に入っていく。
「きゃーー!!! ダメです! ベランさん!! 入ってこないで~~~~!!」
「アッハッハ♪ な~に恥ずかしがってるんや♪ 本当に新人みたいやなぁ~♪」
部屋の奥からポイポイと服が飛んできた。
下着姿に剥かれたフィーアが、見事な手際で採寸されている最中だった。
「ごめん」
放り投げられた服を拾い上げながら、フィーアたちに背を向ける。
「なっ!? 少しは照れてくださいよぉ~~~!」
……ごめん。




