01-15.すれ違う決意
やっちゃった! やっちゃった! やっちゃったぁ!!
ベランさんと同室!! 誘っちゃった! 私から!!
お師匠様! 私やりました! お師匠様の教えどおりに!
けどこの後どうすればいいの~!? 聞いてないよ~!
はっ!? 押し倒すの!? 私から!?
そりゃぁ物攻は倍以上あるけど! 出来るかもだけど!
いやいや! そんなことしたらベランさんきっと泣いちゃうよ!? 気にしてるんだから! この前だって涙ぐんでたし! 絶対ダメだって! 何か他の方法考えないと!!
けどけど~! 考えるったって~!!
「あ、師匠」
「うむうむ♪」
え!? えぇ~~~~!?
なんで!? なんでこのタイミングで戻ってきたの!? その笑顔はなんですか!? よくやった的な!? 褒めてくださってる!? もしや!? 更なるアドバイスを頂けるのですか!? そのためにお戻りに!?
「師匠も戻ってきたなら俺は新しい部屋を」
やばい!!
「待たんかい」
お師匠様!!
お師匠様がベランさんの腕を掴み、引き止めた。
「宿代が勿体ないじゃろうが。一部屋あれば十分じゃ」
流石です! お師匠様!!
「ですが」
「なに。心配は要らん。女将も承諾済みじゃ。それにワシはそちらのベッドを使うでな。ヌシらはそっちを使え。フィーアは小柄じゃし十分じゃろ」
お師匠様ぁ~~!! 一生ついていきます!!!
「い、いえ流石にそれは……」
「何を馬鹿言っておるのじゃ。宿に泊まれるなんぞ稀なことと心得よ。ヌシらは冒険者の端くれであろうが。寝床程度でビビっておるでないわ。この先水浴びだって共に出来んでどうする。何が出るかも分からぬ危険な水辺にフィーアを一人で赴かせる気か? 寒さに凍えるフィーアをその腕で温めてやろうとはせぬのか? 傷を負ったフィーアの手当に一々躊躇するのか? くだらん羞恥心にいつまでも囚われておるでないわ。ヌシらはパーティーを組んだのじゃ。その自覚を持つのじゃ。これはそのための修練じゃ。わかったな」
お師匠様ぁ……私……泣きそうです……。
なんて……なんてお優しい……ここまでお膳立てして頂けるなんて……。
私もビビっている場合ではありませんね!! 心を入れ替えます!!
「ベランさん! 私の覚悟は出来ています!!」
バサッと上着を脱ぎ捨てる。
「なっ!? フィーア!?」
「背中を!! どうか背中を拭いてください!! 私もベランさんの背中を磨かせて頂きます!!」
「い、いや!! ふ、服を着てくれ!! まだ湯だって用意してないだろ!?」
「なんじゃ。湯が欲しいのか。ほれ」
すかさずお師匠様が魔術を放ち、桶にお湯を張ってくださいました!
「師匠!?」
「ありがとうございます! お師匠様!!」
「うむうむ♪ ワシも頼むぞ♪」
誠心誠意磨かせて頂きます!!!
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……どうしてこうなった。
目の前にはフィーアと師匠の一糸纏わぬ背中がある。
どちらも子どものようだ。実際フィーアはまだ子どもだ。法律上成人はしてるけど、まだスキルを貰ったばかりの年若い少女だ。
……落ち着け。相手は子どもだ。過剰に緊張する方がどうかしている。
師匠も似たようなものだ。それに師匠は母親のような人でもある。なんなら水浴びを共にした経験だって数え切れない程だ。今更緊張するような背中じゃない。
……うん。大丈夫。落ち着いた。
元々師匠が人肌を好むことは知っている。
同族から長く離れて暮らしている師匠は、エルフ同士の正しい接触である魔力通しが出来ず、もどかしい思いをしているようだ。本当なら誰かから魔力を流してもらわないと、十分に触れられている感じがしないのだ。
その辺はエルフ特有の感覚だから本当の意味で理解しているわけではない。けれど言いたいことがわからないわけじゃない。飢えとは恐ろしいものだ。少しでも慰めになるなら、師匠の背に触れるくらいのことは喜んでしよう。師匠には返しきれない恩がある。決して躊躇するような話じゃない。
きっとフィーアも同じなのだ。まだまだ親に甘えたい盛なのだろう。フィーア……その名前の由来は数字の四。こういうのもあれだけど、とてもありふれた名前だ。特に田舎の大家族にありがちな名前だ。
きっとフィーアには兄弟姉妹が大勢いるのだろう。口減らし同然で、たった一人で田舎を出てきたのだろう。
きっと俺を兄や父に重ねてくれているのだろう。だからこうして甘えてくれるのだろう。
なら俺のするべきことは突っぱねることじゃない。変な勘違いで距離を置くことじゃない。兄や父の代わりに優しく受け止めてあげよう。それがパーティーを組み、一蓮托生となった男のすべきことなのだ。
師匠はそれに気づけと身を持って示してくれたのだろう。自分を母同然と思うように、フィーアを娘同然に思えと言いたいのだろう。
なんて恥ずかしい勘違いだ。猛省しよう。誠心誠意向き合おう。もう大丈夫。覚悟は出来た。
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あ……あれぇ? なんか黙々と……というか手慣れた感じで……? 思ってたのと違う……?
ずっとドキドキしてたのに。いざ始まってみると、すぅーって抜けて行っちゃった……。
たぶんベランさんにその気が無いからだ。そういう躊躇というか、遠慮みたいなものが無いからだ。まるでお父さんみたいに……え? そういうこと?
「お、お師匠様ぁ……」
「うん? なんじゃ?」
ダメだ……気づいてない……。
お師匠様、言う程機微がわかってない……。
「フィーア? どうかしたかい? まだ痒いところでもあったかな?」
あ、ベランさんの手が……肩に……そんな遠慮なく触れてくださるんですね……嬉しいけど……それはそれで……。
「……ぐすん」




