01-13.二人の夢
「ベランさん凄いです!!」
今日も今日とてフィーアは元気いっぱいだ。
「マッピングまで出来るんですね!!」
「何度か依頼を受けたことがあるんだ」
他の冒険者パーティーについて行く形ではあったけど。場所もダンジョンじゃなかったし、普通の森や洞窟の定期調査程度ではあるけど、調査して地図を作った経験ならある。
たぶんギルドは、そのまま俺にパーティーを組ませたかったのだろう。思えば色々と気を遣ってもらっていたものだ。改めて感謝しよう。お陰様で経験が役立ちました。
「えへへ~♪ お陰で二人きりです~♪」
そういえば師匠も戻ってこなかったなぁ。
ギルドからお目付け役を任された筈なんだけど。放っておいていいのだろうか。でもギルドからの依頼だしなぁ。
「フィーアは索敵を頼む」
「らじゃです♪ アースフィール!!」
フィーアが地属性の索敵魔術を発動した。
地面に沿って魔力を流し、敵の大体の位置を捕捉する呪文なのだそうだ。
他にフィーアが使える呪文は四つ。
破壊力抜群、ファイヤー・ボール。
どんな重症もなんのその、アクア・ヒール。
唯一の範囲攻撃、フロスト・バインド。
まだ見ぬ最速呪文、ウインド・ブレード。
地水火風全てを扱えるなんて、世界中で見ても片手の指で数えられる程度なのだそうだ。師匠がそう言っていた。
ちなみに師匠もその一人なのだそうだ。流石です。師匠。
「フィーアは防御呪文を覚えた方がいいんじゃないか?」
物理防御がかなり低いみたいだし。
「ベランさんがいてくれますから♪」
そういう問題じゃないと思う……。
「ほら。フィーアが防御呪文で俺を守ってくれれば、師匠から禁じられている風の魔術も使えるかもだぞ」
「なるほど! ベランさんを守る! それも良いですね!」
ちゃんと聞いてた?
「でもベランさん。私は相変わらず魔術を狙った方向に発動出来ないんです」
そうだった。しかもなんか普通の魔術と違うんだよな。威力が段違いというか。炎なんて一度当たれば相手が力尽きるまで消えないし。本来拘束呪文に過ぎないフロストバインドは、相手を凍らせてから砕く一撃必殺呪文になってるし。
「仮に岩の壁を出したら……」
下から生えてくるやつだよな。それならフィーアのじゃないけど見たことはある。
フィーアがあれを使うと、たぶん無作為な地面が凄まじい速度で上下することになる。
もしうっかりでもその上に乗っていたら、跳ね飛ばされて天井に叩きつけられるのではなかろうか……。
「……結局攻撃呪文になってしまいそうです」
「けどそれなら、あの巨大蟹にも通用するんじゃないか?」
「かもしれませんね♪」
何か良い方法を考えておかないとな。このままでは三十階層より先が調査出来ないし。
「そうです♪ ベランさん♪」
はいはい。
「ミノタウルスには一人で挑んでみてもいいですか?」
十階層のボスか。確かに今のフィーアなら一人でも十分倒せそうだ。……けどなぁ。
「挑戦するのは師匠が居る時にしないか?」
「了解です♪ ベランさん♪」
あっさりだな。
「いいのか?」
「はい♪ 心配してくれて嬉しいです♪」
答えになってるんだか。
「やっぱり試してみるか?」
「どうしたんです? 何かお悩みですか?」
逆に心配されてしまった。
「いや。余計なお世話だと思ってな。フィーアはいつかSランクにだって届くだろ。なのに俺に合わせてしまうのもな」
「何を言ってるんですか」
「もっとフィーアに相応しいパーティーが見つかるといいんだけどなぁ。いつまでもこの町に縛るのは違うよなぁ」
それともダンジョンが成長したから強い冒険者たちも集まってくるのだろうか。それなら都合が良いな。きっと今のフィーアにだって見劣りしないパーティーと出会える筈だ。
「……何を言ってるんですか?」
あれ? フィーア? 怒ってる?
「ベランさん? まさかまだ自分が足手まといだとでも思っていらっしゃるんですか?」
……怒ってる。絶対怒ってる。
「い、いや。俺も強くなったさ。自分でも驚いている程だ。ありがとう、フィーア。君と組んだお陰だ。感謝してもしきれない」
「そんなの!! 私だって!!」
「けれど俺と君の成長速度は違うんだ。現にレベルも追い抜かれていただろう?」
「それは……!!」
鑑定水晶で見た俺のレベルは『34』で、フィーアは『38』だった。俺の方が十年も早く冒険者を始めていたのにだ。
「これからもその差はどんどん広がっていく。女神様は公平だ。フィーアの頑張りを正しく見守ってくださっている」
「ベランさんだって上がってます!! 頑張ってます!! 私が成長出来たのだってベランさんのお陰です!!」
「ああ。けれどいずれ必要はなくなるんだ。実際フィーアはもうミノタウルスを倒せるだろ。一人でも」
「私はそういう意味で言ったんじゃ!!」
「わかってる。別にイジケているわけじゃない。悲観しているわけでもない。足を引っ張りたくないから、なんて言うつもりもない。ただ俺が見てみたいんだ。最高の冒険者になったフィーアの姿を。誰より強い、最強の魔術師の姿を。師匠の全てを受け継ぐ、最上の弟子の姿を。これは俺の我儘だ。無理強いするつもりはない。ただそういう道もあるのだと知っておいてほしい。俺の夢を伝えておきたかったのもある。それだけの話だよ」
「……夢……ですか」
「ごめんな。夢を託すなんて。親子でもないのに勝手過ぎるよな」
ぶっちゃけ気持ち悪いよなぁ。数日行動を共にした程度の十も下の少女に、いきなり自分の夢を託すなんて。
「……私決めました」
「そうか」
わかってくれたか。
「私が!! ベランさんを最強の冒険者にしてみせます!」
……えっと?
「夢は自分で叶えてください!! 私も支えますから!!」
……フィーア。
「これが私の夢です!! 私も勝手に夢を叶えます!! ベランさんにだってとやかく言わせません!!」
……この子は。
「先ずはSランクパーティーを目指しましょう!! お互いの夢を叶えるために! ベランさんも本気で頑張ってください! 私を最強の魔術師にするために!!」
……あはは♪
「負けたよ。フィーア」
手の平を差し出す。
「はい♪ 改めてよろしくお願いします♪ ベランさん♪」
フィーアが力強く握り返してくれた。




