最強じゃない俺たちと真実の鏡 第2話
「きみは、いつ『真実の鏡』を見た?」
アズラクは知ってるんだ。
アズラクなら、何かわかるかもしれない。
その期待だけで胸が一杯になった。
「朝、マリカと一緒に登校して……」
言葉が止まらなかった。
話せば話すほど、アズラクなら理解してくれる気がした。
「昨日の夜、マリカに誘われて『真実の鏡』を見たの。朝も一緒に登校して」
「えっ? 朝、一緒に登校した?」
アズラクの顔から血の気が引いた。
「行くぞ!」
手を引かれたので一緒に走り出す。
「待って、どこに行くの?」
「図書館だ」
あのアズラクが慌てている。
運動が苦手な私のせいで、そんなに速く走れない。
私は息が上がる。
それでもアズラクは一度も足を止めなかった。
「どうして?」
「この話は、人目のある場所じゃできない」
「マリカがどうしたの?」
「その名前を口にするな!」
その瞬間、マリカが寂しそうに目を伏せた。
「ブラム先生!」
閉館間際の図書館に駆け込んだアズラクが司書の先生を呼んだ。
山積みの本に囲まれたブラム先生が、静かに老眼鏡を外した。
「……その顔は吸血鬼事件以来だな」
「はい、緊急事態です」
息を切らしている私を置いて、二人は話を進める。
「何があった?」
「彼女が『真実の鏡』を見たという生徒です」
「……本当に『真実の鏡』を?」
ブラム先生は私だけを見ていた。
それはアズラクも同じだった。
二人とも、私の隣に立つマリカへ一度も視線を向けない。
「私だけじゃない。マリ……」
「その名は言うな」
「……!」
なんでブラム先生もアズラクも同じことを言うんだろう。
隣のマリカを見ると、彼女は悲しそうに俯いている。
「私たちが何をしたというんですか?」
「落ち着いて答えてほしい」
アズラクが深刻な顔をしているから、答えるしかなかった。
「名前は?」
「ミナ·ハーカーです」
「学年は?」
「一年三組です」
「所属している寮は?」
「カンドール寮」
「親しい友達は?」
「マリカ」
アズラクとブラム先生が視線を交わす。
「他には?」
「え?」
「マリカ以外だ」
「……」
嫌。それ以上聞かないで。
「落ち着いて聞いてほしい。きみの記憶がおかしいわけじゃない。きみ自身がおかしくなってるわけでもない。問題は鏡だ」
反射的に肩がびくっと震えた。
「鏡は、きみを向こう側へ引きずり込もうとしている」
しばらくの間、沈黙が流れた。
それは私がアズラクの言葉を理解するために必要な時間だった。
「そ、そんな」
私は笑おうとした。
笑えば終わる話だ。
そう思った。
でも笑えなかった。
「子ども向けの怪談じゃない」
笑い飛ばそうとしたのに、うまくいかなった。
「今ならまだ助かる。鏡を俺に渡してくれたら、きちんと処分する」
「処分!」
自分の大声に驚いてしまった。
アズラクとブラム先生が驚いた。
ふと、気付いた。
隣にいるマリカが大声に反応しなかった。
マリカはまっすぐ立っている。
まさか……。
「悪いことは言わない。今すぐ鏡を渡してくれ」
「大丈夫!」
口を押さえた。
違う。
今の声は私じゃない。
「お騒がせして申し訳ありません。もう大丈夫です」
「……誰だ、おまえは?」
アズラクは眉をひそめる。
「え?」
私の口角が勝手に上がる。
「もちろん、ミナ·ハーカーですよ」
普段の私はこんな明るい口調じゃない。
もしかしてと思い、隣を見るが。
「私の気のせいでした。お手間をとらせて申し訳ありません」
「あ!」
「失礼します」
私の足が勝手に動き出し、あとを追ってきたアズラクを軽くいなすと、図書館から出て行った。
私の隣に、私がいる?
「おまえは誰だ?」
私は答えようとした。
私は…………
「マリカ」
「な……!」
アズラクの驚愕した表情を見たあと、視界が暗転した。
気が付くと、昼間の運動場にいた。
「かったるいねー」
え?
「雨が降ったらいいのに」
隣の三つ編みの少女は空を見上げながら言った。
「ねえ、ミナ。一緒にサボらない?」
隣にいるのはマリカじゃない。
私がマリカの隣にいるんだ。
「ミナなら来てくれると信じてた」
マリカが歩く。
私も歩く。
止まりたい。
止まれない。
やめて!
声も出ない。
「あなたがあたしにしたことが返ってきただけよ」
あ……。
私、マリカを傷つけるつもりじゃなかったのに。
『今ならまだ助かる。鏡を俺に渡してくれたら、きちんと処分する』
アズラクの言葉だけが、何度も頭の中で響いていた。
続く
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次の更新は2026/07/19です。




