最強じゃない俺たちと真実の鏡 第1話
最強じゃない俺たちの吸血鬼退治の続編が「最強じゃない俺たちと真実の鏡」になります。いきなり女の子視点から始まりますが、アズラクもちゃんと登場するのでご安心ください。
新キャラのミナと吸血鬼を見分けるらしい鏡の謎を追うというストーリーです。
カンドール寮の朝は忙しい。決まった時間に起きて、朝食を取り、洗面所の鏡争奪戦のあとは遅刻しないように校舎へと急ぐ。
「ミナ」
「おはよう、マリカ」
私がいつものように校舎へ行こうとしたら、友達のマリカから話しかけられた。彼女はいつも髪を三つ編みにしている。
「ねえ、ミナって人間なの? 吸血鬼なの?」
無邪気な顔してえぐい質問をしてきた。
「な、何を言って?」
想定外の質問に面食らっている私に、マリカは謝ってきた。
「ごめんね。ここしばらくは学園全体が落ち着かなくてさ」
「あー。あれね」
マリカの言いたいことはわかった。
私たちが通うジールリー学園は、一ヶ月前に吸血鬼事件が起こった。
学園長や理事会は保護者に対してハンターを呼んで退治したと吹聴しているけど、私たちは知っている。
吸血鬼は、三人の男子学生が退治したのだ。
彼らはハンターでもなければ、超能力者でもない。
「あ、いたいた」
「わぁ……」
私とマリカは柱の陰から“英雄”を盗み見した。
全寮共通路が静かになる。
女の子たちが憧れの目で見ている。
誰も声をかけない。
一年生の男子が道を譲ると、あの人が「ありがとう」と礼を言った。それだけで一年生は、ぽーっとする。
アズラク·ダジネーユ、ニアレシュとバルトシュ·ヴァミレンは全寮共通路を通って行き、頭を下げた教師に恐縮して「顔を上げてください」と言っていた。
よく見ると、私たちみたいに彼らに見惚れていた女の子が何組もいる。
集合の鐘が鳴ると、全寮共通路が喧騒を取り戻し、混雑がピークに達する。
「あっ、そうだ。ミナはどっちなの?」
今の時期、大事な質問だ。
「私は人間だよ。太陽も薔薇も平気」
「そうだよね。あたしも人間。だから……」
マリカには悪気がなかった。
「夜になったら、旧校舎に行こう」
「えっ、あの七不思議の?」
「約束だよ」
驚く私を置いて、マリカは自分のクラスに向かった。
私たちは寮は同じだけど、クラスは別々なのだ。
それに。
この状況でマリカの提案を断れるわけがない。
今のジールリー学園は、吸血鬼を見分ける方法ばかりが話題になっている。
*
消灯時間を過ぎて、舎監が眠りについた深夜。
私とマリカはこっそりとカンドール寮を抜け出し、学校に侵入する。
目的は旧校舎の階段の踊り場にある、大きな鏡だ。
私たちは小声で会話を交わす。
「『呪いの鏡』に映って大丈夫なの?」
「何言ってるの。これは『真実の鏡』だよ」
「え?」
私が知ってる学園七不思議じゃないの?
「ほら、手を繋いで」
「うん」
私たちは手を繋ぐと鏡の前に並んだ。
「ミラ様、ミラ様」
マリカが鏡に向かって語りかける。
「ミラ様に映し出せない真実はありましょうか?」
当然のことだが、鏡は答えない。
鏡はただ、その前に立っている者たちの姿を映すだけだ。
「あたし映ってる」
「私も」
「よかったー」
安心したマリカは奇妙なことを言った。
「あたしの友達の中に吸血鬼はいない」
微笑むマリカは普段と様子が変わらない。
でも、彼女の中で決定的に変わってしまったものがある。
私を吸血鬼と疑うなんて……
でも、あんな恐ろしい事件が起こったのだから、仕方ないよね。
だけど、マリカはすっきりしたのに、私はモヤモヤを抱えている。
だからというわけじゃないけど、翌日、私はある女の子を誘った。
「あなた鏡は平気?」
「も、もちろん」
結論を言うと、彼女は『真実の鏡』に映った。
私はすっきりするけど、彼女はモヤモヤを抱えて次の女の子に声をかける。
あとは連鎖するだけだった。
それから……。
「それから、朝、マリカと一緒に登校して、ミラ様の話を聞きました。それで夜中に寮を抜け出して、マリカが「ミラ様、ミラ様。ミラ様に映し出せない真実はありましょうか?」と言って」
「またマリカ?」
気がつくと私の対面に、生活始動を受け持つおばさん教師がいた。
「さっきからずっと、その名前しか言ってないじゃない」
私は思わず笑う。
「朝、マリカと一緒に登校して」
「……また最初から?」
「え?」
「あなたは十分ほど前から、何度もマリカと言っています」
「十分前? 私は今ここへ来たばかりです」
先生は困ったように溜め息をつく。
「では、確認しましょう」
先生は書棚から取り出した学生名簿と、カンドール寮名簿を渡してきた。
ページをめくる。
「カンドール寮……一年……ミナ·ハーカー」
さらにページをめくる。
私は自分でも眉間にしわが寄るのがわかった。
「……いませんね。本当に、いません」
先生が困惑している。
私は横を見る。
そこには、ちゃんとマリカが立っている。
マリカはいつも通り笑っている。
「インターンに出てる四年生も含めてね。マリカという女子学生はいないの」
先生は私だけを見ていた。
まるで隣に誰も立っていないように。
「どこを見てるの? とにかくですね。この問題は学園長の方に上げますから、きちんと説明しなさい」
マリカが怯えている。
お父さんに知られたらどうしようって。
大丈夫、これくらいでいきなり退学になったら、学園の方がおかしいよ。
でも。
だって私たちは成績は悪くないし、素行は入学した時から良い。
自信を持って。
「ちょっと聞いてます?」
「……はい」
「そう。それじゃ、学園長のお部屋へ行きましょうか」
「……はい」
横を見ると、マリカが目で合図を送ってきた。
私たちは椅子から立ち上がると、勢いよく走り出した。
「お待ちなさい!」
先生の声を背中で跳ね返して、私たちはひたすら走った。
目指す場所は同じ、ボードゲーム部の部室。
“英雄”アズラク·ダジネーユがいる確率が一番高い場所。
アズラクならきっと私たちを助けてくれる。
私は期待に胸を膨らませて部室のドアをノックした。
しかし、いつまで経っても返事がない。
私たちは何十回ドアを叩いたのだろう。
気が付いたら日が暮れて、街灯が光り出していた。
「あ、あの?」
うしろから声がして振り返った。
「ボードゲーム部に何かご用で?」
見覚えのある少年が不審そうに私を見ている。
制服のネクタイの色出わ二年生だとわかる。
「あ……ああ……」
アズラク·ダジネーユだ。
やっと会えた。
私の目から涙が流れる。
「こんなところで一人でどうしたんだ?」
私の脳内でノイズが大音量で響いた。
マリカが見えないなんて、そんなのありえない。
「マリカ? 誰のこと?」
「マリカ、マリカ、返事をして」
私は隣を見た。
マリカは、そこに立っていた。
「きみ……」
アズラクは初めて見るような恐怖の表情を浮かべた。
「きみ、その子が見えるのか?」
続く
続編もお読み頂き、ありがとうございます。
次の更新は2026/07/18です。




