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最強じゃない俺たちと真実の鏡 第3話



 マリカは私と違って、すぐに人と仲良くなる。

 昼休みにマリカは友達と他愛もない話をして笑う。

 学生食堂では今まで食べたことのない料理を注文する。

 マリカがパンを食べる。

 私も食べる。

 止められない。


「やめて」


 心の中で叫んでも、体はマリカに付いて行くだけ。

 平日の授業で先生に当てられる。

 マリカは笑って答える。

 私も答える。

 文芸部では女の子たちが恋愛話で盛り上がる。

 私は聞いているだけ。

 そして明日は休日という日に、複数の女の子に取り囲まれた。

 ちょうど廊下の曲がり角を曲がろうとして、衝突防止用のカーブミラーがあるところだった。


「ちょっと、あんた」


 用件にぴんときた私はすごく怖かった。

 顔ぶれは主に二年生だ。

 彼女たちはマリカを睨みつける。


「一年のくせに、アズラクくんに近づくな!」


「……!」


 マリカの肩が小さく震えた。


「違う、私は……」


「白々しい」


「一年のくせに」


 女の子たちから目線を逸らしたマリカが、曲がり角のカーブミラーを見る。


「え?」


 周囲の女の子たちは鏡に映っている。

 でも、マリカだけが映らない。

 私は我が目を疑う。

 

「何やってるんだ!」


 アズラク·ダジネーユの登場に女の子たちは笑顔になる。


「アズラクくん!」


 女の子に囲まれたというのに、アズラクは彼女たちでなくマリカを見る。


「大丈夫か?」


 一瞬で女の子たちの空気が張り詰めた。

 私たちは嫉妬されて優越感を覚えるような人種じゃない。

 背中に冷や汗をかいた。


「もう下校時間だ。みんな寮に帰るように」


「……はい」


 女の子たちは渋々といった様子で玄関に向かうが、その中の一人が吐き捨てるように言った。


「またアズラクくんに庇ってもらったんだ」


 さすがのマリカでも為す術がない。

 私にも刺さった。

 女の子たちを見送ったあと、マリカは御礼を言った。


「ありがとうございます」


「いや……」


 マリカは深々と頭を下げた。

 アズラクは苦笑する。


「気にするな」


 沈黙。

 そして。


「あの……」


 私は、マリカを止められなかった。


「アズラク先輩。明日、商店街のカフェに行きませんか?」


 マリカは何を言ってるの?

 男の子を誘うなんて。


「今回の御礼に」


「きみは、どっちなんだ?」


 アズラクは私たちが思ってるより冷静だった。


「ミナ·ハーカーか? それとももう一人の?」


 返事ができない。

 呼ばれているのは自分なのに。



*



 放課後の図書館は人気が少なく、静かだ。

 ブラム先生が言う。


「鏡は魂を映す道具ではない。魂を入れ替える道具だ」


 それを踏まえたうえでアズラクは推理を述べた。


「マリカは最初から存在しなかった。ミナ·ハーカーが想像した、架空の友達じゃないですか」


「いや、存在した」


「……!」


 アズラクが目を見開く。

 ブラム先生が取り出した古い冊子は、カンドール寮の寮生名簿である。


 カンドール寮一年 


 マリカ·クナット


 死亡


 享年十五


 アズラクは思わず息を呑んだ。


「ブラム先生、これはどういうことでしょうか?」


「私にもわからんが、すべての鍵は鏡にあるのだろうな」


「鏡……旧校舎の」


「きみが抱え込む必要はない」


「わかっています。でも、他に方法が」


「アズラク、行くな! 鏡はもう……」


 アズラクは最後まで聞かなかった。


「まだ鏡が残っていれば……」


 玄関を出て、旧校舎へと走って行くが、やけに人が多い。

 旧校舎は現在使われていない建物なのにだ。


「ミラ様が」


 女子学生たちが上擦った声で言った名前に、アズラクは嫌な予感を覚えた。

 急いで旧校舎の階段の踊り場に辿り着くが。


「鏡が、ない」


 壁には四角く色の違う跡だけがの残っていた。


「ミナ!」


 壁を探す。


「ミナ!」


 手で触る。

 何度も。


「ミナ……」


 廊下に声だけが響く。

 呆然としたアズラクは、周りの学生たちに注目されていることに気付かない。


「こらこら!」


 体育教師が声を張って割り込んでくると、学生たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 だが、アズラクは鏡があった場所を凝視している。


「今すぐ出るんだ。旧校舎は立ち入り禁止だぞ!」


「放してください!」


「危険なんだ!」


 体育教師は無理矢理アズラクを追い出した。

 旧校舎の玄関に鍵がかけられ、窓に板が釘付けされる。

 教師たちの監視の目があるので、サフィラス寮に帰るしかなかった。


「お帰りなさーい」


「アズ、何か飲みますか?」


 バルトシュとニアレシュが先に帰ってソファにくつろいでいた。

 すでに入浴を済ませたようでラフな服装になっている。


「アズアズ?」


「どうしたんです?」


「え?」


「手が震えてる」


 自分の手が震えていると初めて気付いた。


「今日は何やってたんだ?」


「普段通りですよ」


「アズアズはどうだった?」


「図書館に行ったり、二年生に絡まれていた一年生を助けたり」


「なーに? 急に英雄活動に目覚めたの?」


「柄でもないことはやるもんじゃないですよ」


「そうそう」


 妙に双子の機嫌がいい。

 長年付き合っているせいか、微妙な変化が気になる。


「ニアレシュ、バルトシュ!」


 本名で呼ぶと双子の動きがぴたりと止まった。


「何か、やらかしたな」


 ニアレシュとバルトシュが初めて笑わなかった。

 それだけでアズラクには十分だった。



 続く







 お読み頂き、ありがとうございます。

 次の更新は2026/07/20です。

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