第6話「祭壇」
戦うといっても、相手は吸血鬼だ。
人間より俊敏なアルノルトにアズラクのナイフが当たらない。
ニアレシュもバルトシュも防戦一方だ。
しかしアルノルトは余裕である。
「その程度か」
「くそっ……」
アルノルトに隙はない。
「怖くないのか?」
「怖いさ」
アズラクは笑った。
「だから三人で来たのさ」
三者三様の覚悟が問われる。
「アズアズ!」
バルトシュがアルノルトへ一直線に駆けて、アズラクたちは息が止まるかと思った。
「他人の血を吸わなきゃ生きていけないなんて効率悪すぎ!」
「黙れ」
「ぐっ!」
アルノルトの鉤爪をかわしきれず、咄嗟に腕を交差して防御したが、バルトシュの腕が切り裂かれた。
「バル!」
アルノルトがまた鉤爪を放ったので、アズラクとニアレシュは肝が冷えた。
「今だ、アズアズ!」
それを逆手に取ったバルトシュはアルノルトの手首を掴んだ。
アルノルトを捕まえられたのは三秒程度だが、アズラクには充分だった。
「はっ!」
アズラクが銀のナイフ出切りかかる。
避けようとするアルノルトと揉み合いになる。
蹴られたバルトシュが壁際に転がる。
アルノルトが鉤爪をアズラクに向けたその時、いきなり地下室が異常に明るくなった。
バチバチッと燃料が燃え上がる音がする。
「おやおや。吸血鬼も火事が怖いんですか?」
「貴様……!」
ニアレシュがランプを壁に叩きつけて壊したのだ。
飛び散った燃料に火が走る。
すかさず棺を倒してアルノルトの邪魔をする。
「やったな、ニア!」
アズラクは迷わず踏み込んだ。
アルノルトの心臓目掛けて銀のナイフを突き刺す。
「ああっ!」
傷口から黒い煙が浮かび上がる。
しかし、アルノルトは倒れない。
「銀か。忌々しい……」
アルノルトが鉤爪を突き出してくるが、アズラクはその腕を掴んだ。
鍔迫り合いのような拮抗状態になる。
「銀だけでは足りないんだ!」
慌てて二撃目を入れようとしたアズラクをニアレシュが制した。
「先輩にお見舞いを」
ニアレシュがアルノルトに向かって花束を投げた。
「ひ………………」
一瞬、アルノルトの動きが止まった。
薔薇の香りが、ふわりと漂った。
「アルノルトぉ!」
アズラクは全力を込めてアルノルトの心臓に銀のナイフを、ぐさりと突き刺した。
「……そんな。この私が人間ごときに」
倒れたアルノルトの左胸から黒い煙が吹き上がる。
「や、やった!」
勝利を確信した直後。
「うっ?」
アズラクの額が激しく痛んだ。
「アズ?」
「アズアズ?」
ニアレシュとバルトシュが気遣う声が遠くに聞こえる。
祭壇が赤く光る。
その禍々しい光にアズラクたちは戦慄した。
ドク……
ドク……
と、正体不明の巨大な鼓動がする。
地下よりさらに下から恐ろしい歌声が聞こえてくる。
そして地鳴りがする。
「アルノルトは倒したのに」
「なんでー?」
アズラクの勘が告げる。
もうじき『神』が出てくる。
その根源は。
「祭壇だ」
「アズ?」
「祭壇を壊すんだ」
「オッケー」
バルトシュが力任せに祭壇を押し倒し、ニアレシュが魔法陣を破壊し、アズラクが銀のナイフを何度も突き刺した。
祭壇の破壊が進むと、鼓動が止まる。
さらに壊し続けると、地鳴りや恐ろしげな歌声も止まった。
それなりに時間はかかったが、祭壇が面影をなくし、ガラクタと化した。
神の気配が消えると、赤い光も消えた。
「も、もう疲れたー」
「同感です」
「俺たちはできるだけのことをやったよ」
換気口から夕日が射し込む。
そしてアルノルトは灰になって消える。
感慨に浸る間もなく、棺の蓋が開く。
シデラ寮の学生たちは助かったのだ。
「これならシャニ先輩も……!」
三人は転がるように地下室を飛び出した。
息を切らせながら、図書館へ駆け込む。
扉を開けると、
「あ、アズラク氏!」
意識を取り戻したシャニが小さく笑っていた。
続く
エピローグも投稿しているので、そちらもぜひご覧ください。




