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第5話「負けられない戦い」



 シャニの命のタイムリミットが迫っている。

 アズラク、ニアレシュ、バルトシュの三人は再びシデラ寮に出向いた。

 前回は逃げるしかなかったが、今回は司書のブラムから預かった銀製のナイフがある。

 シデラ寮はカーテンが閉め切られ、廊下の照明も半分は壊れているので、妙に暗い。

 地下から男の歌うような声が聞こえてくる。


「アルノルトだね」


「シャニ先輩の言う通り、聞くだけで頭が痛くなるな」


 アズラクたちはランプを持って探索を始めた。


「地下室の場所を探そう」


「はーい」


「そこにアルノルトが」


「いるだろうな。でも、逃げるわけにはいかない」


 地下室に続く階段は、二階へ行く階段の裏手にあった。

 地下への階段を下りるごとに床が軋むが、アルノルトには聞こえているだろうか。

 いよいよ地下へ続く扉だ。

 扉には鍵がかかっていなかった。

 扉を開くと、アルノルトの声が止んだ。


「うわ……!」


 地下室の左右に棺が十二基並んでいる。

 まるで墓標のように、蓋には一人ずつ名前が刻まれている。


 ガアンフラク……

 ヴィノム……

 ズーナ……


 それぞれの蓋には学生の名前が刻まれている。

 どれも見覚えのある名前だった。

 そして十三番目の棺の名前を見た瞬間、


 シャニ·ジンラウト


 アズラクは恐怖より怒りを感じた。


「まだ生きている人間の名前を刻むな!」


 暗闇から拍手がした。

 一人分しか聞こえない。


「その通りだ」


 声の主はもちろん、ペーター·アルノルトだ。

 アズラクたちは反射的に身構えた。

 アルノルトは奥の祭壇の前に立っている。

 祭壇には奇妙だが、不気味な意匠が施されている。


「次に入る予定だからな」


 アルノルトはアズラクたちを睥睨するが、怯む者はいなかった。


「後輩を家畜扱いする気か?」


「私は食事のために血を吸っているわけではない」


「こんなことが許されると思ってるのか?」


「羊は狼を裁かない。ただ食われるだけだ。それに…

…」


 アルノルトは両手を広げて、半ば恍惚としながら言った。


「地下に眠る『神』を目覚めさせるには、生きた学生の血が必要なんだ」


 地下に満ちていた悪意の正体を、アズラクはようやく理解した。


「そんなことのために、シャニ先輩とシデラ寮の人たちの血を奪ったのか」


「彼らが人間じゃなくなったら、どうやって責任を取るんです?」


「愚問だ。吸血鬼になったら吸血鬼の生き方をする。それだけのことだ」


「それが弱い学生を狙う言い訳か。かっこ悪い」


「……!」


 アズラクの挑発にアルノルトは乗らなかったが、眉をひそめるあたり、それなりに効いたようだ。


「きみたちの血はいらない」


 アルノルトが踏み込む。

 石畳が砕けた。

 次の瞬間には鉤爪が目の前にあった。

 咄嗟にかわしたが、鉤爪が刺さった石壁が裂ける。

 尋常ではない素早さにアズラクたちは回避するだけで精一杯だった。


「つーか、まだ日が暮れてないのに、なんで動き回れるんだよ?」


 バルトシュの疑問にアルノルトは答えてくれた。


「私は純血ではない。少しなら不便なくらいで済む。だが……」


 鉤爪がバルトシュを狙うが、アズラクが銀のナイフを振りかざして牽制した。


「証拠も目撃者も、あと少しでいなくなる」


「それがペラペラ喋った理由かー」


 アルノルトは素早い動きで三人を翻弄し、急所狙って鉤爪を突き立てようとする。

 その度にアズラクが銀のナイフで対抗するが、なかなか刺せない。


「どうした? 吸血鬼ハンター見習いくん」


「くっ……」


 近づけば鉤爪で攻撃してくるし、遠くなると銀のナイフが当てられない。

 日暮れまで残された時間は少ない。

 無理をしてでも、銀の刃を届かせるしかない。



 続く




 

 お読み頂き、ありがとうございます。

 次の更新は2026/07/09です。

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