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最強じゃない俺たちと真実の鏡 第7話



 ブラム先生が古文書の内容を読み上げる。


「鏡像世界から魂を連れ戻すには、現世の者が自ら境界を越えなければならない」


「つまり、誰かが鏡の世界へ入るしかない」


「任せて」


「準備はできております」


「しかし、続きがある。境界を越えた者は、帰れぬ可能性が高い」


 アズラクは古文書から目を離した。

 誰も口を聞かない。

 重苦しい沈黙を破るように、


「俺が行く」


 と、アズラクが言った。

 双子が即座に反対した。


「駄目だってば」


「死ぬどころか、魂が帰ってこれないリスクがあります」


「私も反対だ」


 しかしアズラクは、


「見捨てる理由にはならない」


 三人を粘り強く説得する。


「怖くても、行くんだ」


「アズ……」


「ねえ」


 バルトシュの提案で双子は少し離れた場所に移る。


「吸血鬼の時も、一人で飛び出しましたね」


「また同じことする」


 双子は笑う。


「だから放っておけない」


 そして決意する。


「今回も三人で行こう!」


 それを見届けたブラム先生が「生きて帰ってこよう」と言った。

 四人は夜になると、こっそりと旧校舎に入った。

 階段の踊り場の鏡は撤去されている。

 しかし、古文書には、


「鏡があった場所にも境界は残る」


 と書かれている。


「鏡よ、鏡よ、境界の向こう側へ導きたまえ」

 

 ブラム先生が術式を行う。

 床の魔法陣が光る。

 建物の中に風が吹き流れ、壁に波紋が広がる。

 床まで揺れる。

 耳鳴りがして、時計が逆回転する。

 壁がゆっくりと銀色へ変わっていく。

 三人の姿が映った。

 次の瞬間、壁が水面のように揺れた。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 ブラム先生は、アズラク、ニアレシュ、バルトシュの三人を、鏡像世界へ送り出した。

 空には二つの太陽が輝き、水面は空を映さない。

 空気が冷たい。

 犬がこちらに近づいてくるが、足音がしない。


「違う。うしろ歩きで遠ざかっていく」


「こわ……」


 鏡像世界に引きながら、奥へ進んでいく。

 足音だけが異様に響く。

 逆さ文字の看板。

 逆向きに進む時計。

 影がない、町。


「なんだか気味が悪い」


「長居したくないなら、ミナ·ハーカーさんを早く見つけましょう」

 

「行くぞ」


 アズラクたちはミナを探して町中を歩き、学校に辿り着いた頃には息が荒くなっていた。


「無事だったか!」 


 ミナを見つけた時、アズラクは思わず駆け寄った。


「……誰?」


 ミナはアズラクたちのことを忘れていた。

 アズラクはミナの肩を掴む。


「ミナさん。俺だ。アズラクだ」


「あずらく?」


 ミナがきょとんとする。


「きみの名前はミナ·ハーカーだよ」


「ミナ?」


 彼女が首を傾げる。


「いえ、マリカよ」


「そんな……!」


 アズラクたちがぞっとした直後、校舎から三つ編みの少女が現れた。


「やっと来てくれた」


 彼女がマリカだということはわかる。


「堂々と出てくるとは」


「オレたちに勝てる方法でもあるの?」


「いいえ」


 マリカは逃げない。

 むしろ泣きそうな顔で言った。


「あたしも帰りたかった。何百回も」


 その言葉は真剣で、アズラクは事情を汲むべきだと思った。


「マリカさん、きみも被害者なんだな」


「うん……」


 突然のことだった。

 鏡像世界の空間が揺らぎ、マリカが怯えた表情で空を見上げる。


「来ないで!」 


 彼女の視線の先には、空いっぱいに広がった鏡。

 無数の人影が、外へ出ようとするするように鏡面を叩いている。

 ドン、ドン、ドン、という激しい物音がする。


「今までの犠牲者か?」


「そうだとしたら」


「グロすぎる」


 恐るべき光景だが、怖がっていられない。


「あれは?」


「お願い、名前だけは言わないで!」


 マリカはもう、パニック寸前だ。

 アズラクの胸が痛む。


「あたし……一人はもう嫌だった」


 マリカがとつとつと語り出す。


「誰でよかったの。だから、来てくれた子を帰せなかった」


 本音を聞いたら、マリカを責めるような真似はできなかった。


「アズ、あれがこちらを見ています」


「ああ」


 宙に浮かぶ巨大な鏡がこちらを見ている。

 鏡の中の人影が鏡面を叩いている。


「マリカ」


 アズラクの声と表情は落ち着いている。


「きみも帰ろう」


 と言った瞬間、空いっぱいの鏡にひびが一本入る。

 マリカが青ざめる。


「駄目よ!」



 続く




最終回も更新してあるので、ぜひ読んでください。


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