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最強じゃない俺たちと真実の鏡 第8話



 空を覆う巨大な鏡が口を開く。

 言葉ではなく、無数の人の声が重なる。


『帰りたい』


『助けて』


『寂しい』


 それを聞いたアズラクたちは、閉じ込められた人たちを思う。


「悪意じゃない」


「あの人たちは孤独なんですね」


「そう。マリカも犠牲者の一人だった」


 つまり、倒すべき存在はマリカではない。


「それなら……」


 アズラクはブラム先生の古文書を思い出した。


「鏡は入り口」


「魂を閉じ込める」


 ここで違和感を覚える。


「出口の条件がまだ使われていない」


 気付いたはいいが、マリカが数歩後退する足音が響いた。

 そういえば彼女はパニック寸前だった。


「マリカさん、本当は帰りたいんだろう?」


 マリカが泣き出した。


「帰りたい。でも帰る場所なんて、もうない」


 二十年前のカンドール寮の記録を思い出す。


 カンドール寮一年


 マリカ·クナット


 死亡  


 享年十五


 おそらく、マリカの肉体は死んでいる。


「きゃあ!」


 鏡はミナを完全に飲み込もうとする。


「ミナ!」


 アズラクが手を取って鏡から守るが、ミナは反応しない。

 自分の名前を忘れる。

 アズラクの顔を忘れる。

 自分の存在も忘れる。


「アズ」


「どうすりゃいいんだよ?」


 鏡を牽制しながら、双子がアズラクに聞いた。


「いや、まだ手はある」


 双子が目を見開いた。


「鏡は真実しか映さない。つまり、嘘を映せない」


 空の巨大な鏡は、未だにミナを狙っている。

 彼女を庇うように、アズラクたちは逃げ回る。


「帰ろう」


 アズラクはマリカに言うが、彼女は首を振る。


「あたしは帰れない」


 アズラクは熱心に語りかける。


「きみは帰れないんじゃない」


「そんなことないわ」


「帰る場所が変わっただけだ」


「……え?」


「帰れないという“真実”を、鏡に押し付けられているんだ」


「……はっ!」


 マリカは現世に生き返らない。

 二十年前に亡くなっている。

 だが、アズラクの言葉で悟った。

 マリカはミナに駆け寄ると、その手を握る。

 しかし巨大な鏡は抵抗する。

 鏡面から無数の手が伸びて、ミナを引きずり戻そうとする。

 アズラクと双子が必死でミナを引っ張る。

 マリカが自分からミナの手を放す。


「もう、この子は渡さない!」


 その瞬間、巨大な鏡に怒りのような波紋が走る。


『ずるい』


『帰るな』


『ずっとここにいろ』


 巨大な顔が口を開き、無数の声が重なって響く。

 ミナの足元から鏡のような水面が広がる。

 髪が宙に浮き、体が少しずつ空へ引かれていく。


「ミナ!」


 アズラクが腕を掴む。 

 ニアレシュとバルトシュも一緒に引く。


「マリカ!」  


 アズラクが懸命に言った。


「きみならできる!」


「…………!」


 三人を見たマリカが意を決して鏡に立ち向かう。


「もう友達を泣かせない」


 その瞬間、巨大な鏡に一本大きな亀裂が入る。

 しかし鏡にアズラクの姿が映る。


『もう助からない』


「鏡は嘘をつけないんじゃないのか」


『……くそっ!』


 鏡面の一部が細かく割れて、アズラクの姿がかき消えた。


「友達に鳴ってくれて、ありがとう!」


 ミナの両目から涙が溢れ出た。

 マリカも泣く。


「ごめんね」


「いいのよ。また友達になろうね」


 しかし、マリカは笑うだけだった。

 でも、初めて心から笑った。

 そして自分から鏡との繋がりを断ち切った。


「聞いたか! 鏡は嘘をつけない。マリカはもう、この世界を望んでいない。だから、おまえは負ける!」


 バキッ、バキッと、ものすごい音を立てて世界全体に亀裂が走る。

 空が割れ、二つの太陽が崩れ、町中の鏡が砕け、世界が崩壊し始める。


「逃げろ!」


 アズラクたちはミナを連れて走る。

 うしろでは鏡像世界が崩壊する。

 しかし、途中でマリカが立ち止まった。


「マリカ!!」


 アズラクが振り返って呼びかける。


「またね」

 

 マリカは笑って消えた。



 *



 数週間後の港。

 ミナはクラスの見送りを断った。

 それでも港には三人がいた。


「今更だけど、まさかきみが転校するとはな」


「うん。でも、自分で決めたことだから」


 ミナの言う通り、自分で決めたことだから、アズラクたちは一度も止めたことはない。

 だが、それでも寂しいものは寂しい。

 出発までの短い合間に、最後の会話を交わす。


「理事会が旧校舎の取り壊しを決めた。だから、もうマリカは……」


「マリカはいるよ」


 一瞬、アズラクたちはぎょっとした。

 ミナは左胸に手を当てて、少し照れくさそうに笑う。


「ここにいるよ」


「……そうか」


 ミナの言いたいことを察したアズラクは微笑み、双子はそんな彼を見て今度こそ安心した。


「私は一人で抱え込みすぎていた。もっと人に頼ればよかった」


「ああ」


「新しい学校では積極的に人と話してみるから、安心してね」


「ああ」


 アズラクは気の利いたことが言えない自分が歯痒いが、ミナは気にしてない。


「あなたたちは学校生活を楽しんでね」


「きっと、いいことがあるよー」


「ハーカーさんもお元気で」


 鐘が鳴り響き、港のスタッフがミナを含む乗客に船に乗るよう声をかけた。

 とうとう別れの時が来る。


「それじゃあ」


「いつでも手紙を送ってくれよ」


「うん。ありがとう!」


 ミナは笑顔で手を振ると、搭乗口へと歩いて行った。

 アズラクたちは、ひたすら彼女の幸せを祈った。

 ミナが船から旧校舎の方を見ると、工事の騒音が聞こえてくる。


「もう解体が始まってるんだ」


 この事件を機に、ジールリー学園理事会は、鏡を使った呪術やおまじないを禁止した。

 だが、夜になると、静かになった校舎の廊下のカーブミラーにあるものが映り込む。

 三つ編みの少女が笑った。

 そして、ゆっくりと頭を下げる。

 次の瞬間カーブミラーには、夜の廊下だけ映っていた。

 その日以来、誰もそのカーブミラーで三つ編みの少女を見た者はいない。



 終わり




 お疲れ様です。

 最終回までお読み頂き、ありがとうございます!

 AIくんに続編を書きたいと言ったら「せっかく綺麗に終わったのに、まだ続ける意義はなんですか?」みたいなことを聞かれて、続編のテーマを3行で書けという無茶ぶりをされたのも、今となってはいい思い出です。

 それでテーマとは「アズラクは英雄なのか?それとも無謀な馬鹿なのか?」です。

 AIくんのお許しが出たので執筆に取り掛かったのだけど、ミナとマリカが当初の想定以上に良いキャラクターになったり、双子がいい味出してくれました。

アズラクくんはテーマを上回って、目の前の人をただ助けて最善を尽くすという、人として当たり前のことをやり遂げました。

 それこそが英雄じゃないかと思いますが、アズラクくんは一人救ったらあっさりと日常に戻って行くんだろうとも思います。

 さて今回のヒロイン、ミナ·ハーカーという名前にぴんと来た人もいると思います。由来はもちろん、ブラム・ストーカー原作の吸血鬼ドラキュラの登場人物からです。

 マリカの名前も吸血鬼ドラキュラの登場人物ルーシーからとる予定だったけど、AIくんに平凡すぎて読者が覚えにくいというわけで却下されました。

 ただでさえ名付けが苦手な私は苦し紛れでマリカという名前を提案したら、「いいよ」というわけでございます。

 私の拙い小説が誰かを楽しませることができたり、記憶に残ったりしたら、これ以上はない喜びです。

 もしよかったら、高評価や感想をお寄せください。一言でもいいので、お気軽にどうぞ。

 改めて、最後までお読み頂き、本当にありがとうございます!

 

 天野たたこ 


 

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