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最強じゃない俺たちと真実の鏡 第6話



 空には二つの太陽。

 マリカは何事もないように歩く。

 町には人がいる。

 カフェもある。

 学校もある。

 でも少しずつ変。

 影がない。

 鳥が鳴かない。

 水面に空が映らない。

 ここに何時間いるんだろう? 

 時計を見るが、時計の針は逆周りしている。

 ちょっと目眩がしまそうだ。


「マリカちゃん」


「おはよう」


 マリカは楽しそうだ。

 友達もいる。

 先生もいる。

 しかし、誰も“ミナ”を知らない。


「マリカちゃん、今日も元気だね」


「はい!」


 私は? と聞きたいけど、口が動かない。

 人々が瞬きをしない。

 犬がうしろ向きに歩く。

 子どもたちが笑っているのに声が聞こえない。

 風が吹くのに木が揺れない。

 看板の文字が左右反転している。


「そっちは裏通り。迷子になるよ」


 マリカが手を繋いで、私を表通りに戻してくれた。

 でも、自分の意思とは関係なく、足だけはマリカに付いて行く。



 *



 一方、アズラクたちは図書館で、古文書をさらに調べるブラム先生を見守る。


「鏡像に落ちた者は、自分を忘れる」

 

「時間が経つほどミナは自分がミナだったことを忘れるということか」


 アズラクは焦る。


「急がないと」


「まあ、待て」


 ブラム先生が黄ばんた紙をめくる度、乾いた音が図書館に響く。


「……あった」


 アズラクたちはブラム先生の言葉を待つ。


「鏡像の世界へ入るには、鏡像に触れよ」


「普通の鏡じゃ駄目だよね」


 バルトシュが携帯用の小さな鏡を見るが、もちろん普通の鏡である。


「必要なのは、その世界と繋がった鏡である」


「……『真実の鏡』か」


「でも、倉庫の鏡はただの鏡。どうやって入り口を開くんですか?」


 ニアレシュの疑問に一同は考え込んだ。



 *



 私はカフェでマリカと食事を取る。

 野菜が脂っこくて歯応えがあって、肉が若葉のように軽くて新鮮だ。

 おいしいと思う。

 でも、頭ではおかしいとわかる。


「ねえ?」


 マリカが言う。


「あなた、名前はなんだっけ?」


 私は答えようとする。


「わ……」


 言えない。


「み……」


 名前が出てこない。

 そんな私にマリカは優しい眼差しを向けてくる。


「ずっと一人だったから、友達ができて嬉しかった」


 そういえば、私はマリカのことを何も知らない。


「みんな卒業していった。でも、あたしだけが一年のまま」 


 ああ。マリカは寂しかったんだな。


「新しい校舎ができたら尚更だったけど、急に人が来るようになって、向こう側から「ミラ様、ミラ様」って呼びかけてくるようになった」


 それって、まさか。


「あなたもひとりぼっちだったのね」


 そうだった。

 だから私は鏡に向かって話しかけたんだ。

 入学当初から学校に馴染めなくて、いつも一人だったから、友達が一人いればいいなって思っていた。

 でも、それが鏡の中に閉じ込められたマリカを呼び出すことになるなんて、知る由もなかった。


「こちらに名前をお願いします」


 店員が伝票を持ってきた。

 私はペンを持ち、名前を書こうとする。

 しかし、Mまでは書けるが、そこで止まる。



 *



 図書館でアズラクは推理を語る。


「鏡は入り口なら、出口もある」


「うむ」


 ブラム先生が推理を肯定した。


「あることはある。だが、一度も成功シたことはない」


「成功例がないなら、俺たちが最初の成功例になる」


 ニアレシュとバルトシュが愉快そうに笑った。


「方法は?」


 ブラム先生が古文書を閉じる。


「一つだけあるが、成功した記録はない」


 アズラクたちは息を呑む。



*



 学校で先生が出席を取る。


「マリカ·クナット」


「はい」


 マリカが返事したあと、先生が首を傾げる。


「もう一人、いたような?」


 そして、首を振る。


「いや、気のせいか」


 私の名前は呼ばれない。

 クラスの誰も気付かない。

 私だけが涙を流す。


「私…………誰だったっけ?」

 


 続く

 



次回、鏡像世界に突入!

次の更新は2026/07/23です。

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