最強じゃない俺たちと真実の鏡 第5話
夜明け前。
アズラクは一人で旧校舎へ向かう。
鍵は、かつてバルトシュから習った鍵開け術で開けた。
階段の踊り場に鏡はない。
壁には鏡を取り外した跡だけが残っている。
職人が取り外したことは事実だった。
アズラクは安心しかける。
「……終わった?」
壁に近づく。
誰もいない。
それなのに耳元で、
『アズラク先輩』
と囁かれる。
振り返るが、誰もいない。
『助けて』
声だけが聞こえる。
アズラクは凍り付く。
「まだ生きてる」
アズラクは確信する。
「待ってろ」
思わず声が出た。
誰もいない壁に向かって。
旧校舎を出ると、双子が合流してきた。
「やっぱり」
ニアレシュが呆れたように溜め息をつく。
「無事で良かった」
バルトシュは胸を撫で下ろしていた。
「帰れ」
「嫌」
「嫌です」
短いやりとりだが、喧嘩はこれで終わった。
「済まない」
「知ってる」
「絶対一人出行くと思ってましたよ」
「だから追いかけた」
ようやく三人が揃った。
三人は休日の街に出て、鏡を取り外した業者を訪ねた。
「確かに外したぜ」
「そのあとは学園の倉庫に運んだな」
ごつい職人たちが身震いした。
「あの鏡、なんか気味が悪かったな」
「運んでる途中、一人が気分悪くなってよ」
「ありがとうございます」
つまり、鏡は旧校舎にはない。
ここで疑問が浮かび上がる。
「なんで怪異が終わらないんだ?」
「それは調べてみないと」
三人は学園に戻り、学園長の許可を得て倉庫へ入る。
布がかかった大鏡は、間違いなく『真実の鏡』だ。
バルトシュが布に手をかける。
誰も息をしない。
布が床に落ちる。
ギィ……と鏡が軋んだ音がした。
しかし何も起きない。
「え?」
鏡に禍々しさはない。
「ミラ様」
呼びかけて見るが、まったく変化がない。
鏡はただの古い鏡になっている。
「よかったー」
「これで安心ですね」
双子は安心するが、アズラクは違和感を覚える。
そこで図書館に行くことにした。
ブラム先生に頼んで、古文書を紐解いてもらう。
「鏡は怪異そのものではない。入り口だ」
ブラム先生は古文書の右側を指さす。
昔の人が鏡に吸い込まれる挿し絵だ。
「入り口を閉じても、向こう側へ渡り始めた者は帰れない」
つまり、鏡を撤去した時点でミナはもう向こう側へ足を踏み入れていた。
「だから、怪異は止まらない」
バルトシュとニアレシュが目に見えて動揺した。
「オレたちが鏡を外させたから」
「もっと早ければ助かったんでしょうか」
初めて双子が自分を責める。
「……」
アズラクが沈黙した。
双子がおずおずと表情を窺っている。
「違う」
アズラクの言葉に双子が、はっとした。
「ニア、バル、おまえたちは間違っていない」
「アズ」
「アズアズ」
バルトシュが笑う。
ニアレシュが小さく頷いた。
一段落済むと、ブラム先生が古文書を読む。
「鏡に奪われた魂は、鏡ではなく、鏡像へ閉じ込められる」
「鏡像?」
「つまり、助ける場所は鏡ではない。鏡の向こうの世界だ」
*
その夜。
ミナはマリカの世界で空を見上げる。
ミナの世界にはないものが空で輝いている。
「太陽が、二つある」
立ち尽くしているミナにマリカが声をかけた。
「ねえ、変でしょ?」
マリカが笑っている。
ミナは笑えない。
再び空を見上げる。
鳥が逆さまに飛んでいる。
「う、うん」
曖昧に頷いたミナにマリカが畳み掛ける。
「今日は三つ目の太陽が出る日なのにね」
ミナは初めて理解する。
ここは、現実ではない。
続く
やっと仲直りして、ほっとした人もいるんじゃないでしょうか?
お読み頂き、ありがとうございます。
次の更新は2026/07/22です。




