ep2-16.出会って一分経たずGood Bye!
「うーん。うめえっ! うんめっ!」
未知留が料理を次々に口へと運んでいく。僅か68.09秒で料理は平らげられ、八枚の空皿の山に新しく積み上げられる。
「ああー、すっごい良い~」
未知留の食事を眺めて、天女は頬を緩ませていた。一方で彼女の料理はまだ76.39%も残っていた。
「天女も食うか?」
「ううん。大丈夫だよ。わたし、未知留ちゃんが食べるの見てるだけで満たされるんだ」
「そ、そうか?」
未知留は不思議そうにしていたが、2.88秒するとすぐに一心不乱に料理を食べ始めた。天女はその様子を笑顔で見つめている。
僕は天女が頼んだネギトロ丼を、未知留の前に出した。すると彼女は、天女の物だと気づかずすぐさま料理を平らげてしまった。
「あ、え? あ、あ、あああーーーっつ!」
4.11秒後、空の皿を指差しながら天女が叫んだ。
「ど、どした?」
「な、なんで人の料理を食べさせるの?」
天女は涙目で未知留でなく、僕を糾弾した。
「君は自分よりも未知留が食事をすることを重視しているようだったからな」
——通知:user:『堕天した黒ちゃん』がShabetter!!!にて、shaberiました。
——アプリ:Shabetter!!!:user:自分の料理まであげたいって意味で言ってねえわ! まあ可愛かったけど! 可愛かったけど! てめえこのアホンダラ!!!!!
「え? これ天女の料理だったのか? わ、わりぃ。詫びに今度なんか奢るわ」
「う、うう、あ、ありがとう」
天女は目元を擦りながら、何度も何度も未知留に頭を下げていた。
さて、ファミレスに来たのは何もただ食事の為だけではない。
パーティーの加入を希望する冒険者を、面接するためである。天女が我々に加入した当日、未知留が出した募集に応募してきた人材がいたのだ。
「なーなー、どんな奴が来るんだろうなっ!」
未知留はコウ・コウラを飲み干しながら、そう言った。彼女は先刻からしきりに身体を震わせている。ソファにかけているのに、今にも立ち上がりそうな勢いだった。
「ふふっ、凄い人が来ると良いね」
隣に座っている天女が緩やかに微笑んだ。
「や、ただすげーだけの奴は駄目だ。未踏に堪えられるガッツが無きゃな」
「あ、確かに、じゃ屈強な人が良いか」
不必要かつ非合理な会話が成され続ける。
「事前資料に目を通してはどうだ? 応募者の経歴と特徴はそこに纏められているだろう?」
僕はより効率的な方法を提案した。そう、昨夜、僕は応募者の資料を作成・送付した。そこから情報を得ていれば、経歴や特徴は自明のものとなるだろう。
「ま、まあ見たけどさ、実際に会ってみるのと違うっていうか……、いやそもそも資料長すぎるっていうか……」
「アタシ読んでねーぞ」
「え???」
「やはりそうか」
天女のデバイスには87ページ中12ページ読んだ形跡があった。が、未知留のウォッチには資料の閲覧履歴が無い。
「? なぜそうした?」
「どんな奴が面接に来るか、会う前にわかんのもなんかつまんねーって思ってな」
「ふむ」
「つーか、資料なんて見てもそいつの全部がわかるわけじゃねーしなっ」
未知留は背中で腕を組み、背もたれに寄りかかった。面白さを軸にした判断、か。
それよりは事前情報を深く読む方が良いとは思う。主観に左右されず、客観的な判断を下せるからだ。
しかし、僕自身、未知留の手法を取ったことはなかった。一度試してみるのも良いかもしれない。
いや、そもそも僕は何かを面白い、と考えたことはあっただろうか? 面白い、とは何だろうか?
「あ、あの人だよね……」
天女はファミレスに入ってきた応募者を指さした。
「そうだ。彼だ」
「う、うう……」
首肯すると、なぜか彼女は呻き始めた。
「どうした?」
「や、やっぱこ、怖いなって……」
天女は応募者の容姿についてそう評価を下した。ポケットからサングラスとマスクを取り出し、いそいそとつけ始める。ふむ、そうだろうか。
後ろで軽く束ねた茶髪に、切れ長の瞳。顔立ちは精悍で、濃い。体格はがっちりとしていて、鍛え抜かれている。着用している黒のYシャツの隙間から筋肉が覗いていた。
一般的に恐れられる風体をしているのは確かだが、天女がなぜ怖がっているのかはよくわからない。いや、汎的な評価を軸に、恐怖すべき相手だと捉え、実際に行動に移しているのか。
「は、光栄だな」
「ひっ!」
隣を見た天女が悲鳴を上げる。未知留はぱっと笑顔になり、手を振った。大木はいつの間にか相好を崩して、彼女のすぐ横に立っていた。
「殺戮を引き立てるのは、恐怖の感情だ。お前は、労せずとも殺戮を愉しめる俺の才能を認めているに等しい」
「え? え? ななな、なんて」
天女の全身が震え、大木から距離を取り始める。スペースはソファのごく狭い空間しかないに関わらず。ふむ。殺戮という言葉は普通、使われない言葉だ。しかし、彼は一度の発言で二度も用いている。独特な言葉の使い方をする彼に驚いたのだろうか。
「俺は大木空ってもんだ。お前らが電算巡のパーティー、の一行で合ってるか?」
彼は僕の隣に腰かけた。
「そうだ。僕が電算巡だ。よろしく頼む」
「アタシ、柳山未知留っ! よろしくなっ!」
「ま、真黒天女ですっ! 今日はよろしくお願いします」
それぞれが挨拶をしていく。天女だけが深々と頭を下げた。
「では、早速だが面接結果を伝えよう。不採用だ。君は僕が求める人材とマッチしない」
「「「は?」」」




