ep2-17.危険人物第二号
僕が口にした言葉に一同が同時に困惑をみせた。? 今の僕の行動のどこにおかしな点があったのだろうか?
「僕らが求めているのは魔法アタッカーだ。彼は物理アタッカー。我々の要望には適していない」
「結果伝えるだけなら、ここまで呼びつける意味ねーだろーがっ!」
事実を述べると、言葉だけは正しい反論がなされた。
「君が面接をしたいと言うからだろう? 実際に彼と対面し、接した。要求は満たしている」
彼女が面接の意思表明をしていなければ。時間を節約しながら、要件を満たすのはこれが一番だったのだ。そもそも十分な情報さえあれば、面接の必要などないのだから。
——通知:user:『堕天した黒ちゃん』がShabetter!!!にて、shaberiました。
——アプリ:Shabetter!!!:user:ああん? 言葉遊びしてんじゃねんだぞ?? てめぇの脳みそには偏ったデータしか詰まってねえのか? ノンデリサイコクソメガネっ!
「メンバーはアンタだけで決めるんじゃねーんだぞ。アタシたちの意見も大事だ」
我々のパーティー、『電算巡のパーティー』のリーダーは僕だ。システム上、最終決定権は僕にある。当然、僕が決めても良いと思っていたが、そうではないらしい。
「ちゃんと時間取って面接させてくれよなっ」
「わかった」
未知留から見た意見を理解しておくのは悪くないだろう。僕の改善に繋がる。
それに、もし無根拠な意見を出したとすれば、僕から彼女らを説得すればいい。この中では大木に関するデータは最も多く保有しているのだから。
「お前ら、なんというか、大変だな」
僕らのやり取りを見ていた大木がそこで息をついた。
「巡は五分に一回、変なこと言うって思った方がいいぜ」
「……よく驚かされるばかりです。あはは」
未知留は僕を指差して、天女は苦笑交じりにぼそりと呟く形で、それぞれ僕を評価した。それほどまでに異質な人物だと思われていたのか。
天道から指摘された通り、やはり僕には一般的な常識データが不足しているのかもしれない。あとで、Grugruフォームで二人にアンケートを送付しておこう。
「じゃっ、気を取り直して、面接始めっか」
「よろしく頼む」
未知留の笑顔に大木は一礼で返した。
「じゃっ、早速だけど、アンタ、なんで未踏を目指してんだ?」
大木は2.38秒ほど経って、口元を微笑に歪めながら答えた。
「血沸き肉躍る戦いが出来ると思ったからだ」
「おおーっ!」
「……へ、へ???」
感嘆する未知留に対して、天女は戸惑いを見せた。
「戦い、死合、殺し合い。昔から俺は、互いの命に迫り合うやり取りってのに焦がれてた。誰かを傷つけるのも、誰かから傷つけられるのも好きだった」
話しながら大木の笑みはどんどん深まっていく。……驚いたな。データにない情報だ。未知留の言う通り、実地データでなければ完璧な情報を得るのは難しいのかもしれない。
「満足いく闘争を求めて、俺は冒険者を始めた。最初の内はなかなか楽しめていた。再現とはいえ、冒険には殺戮と闘争がつきものだからな」
「おおーっ!」
「ええ……」
大木が過去を話すにつれ、未知留は感嘆の呟きを漏らした。一方で天女の表情はみるみるうちに青ざめていった。
「だが、結局は偽物の体験だ。難易度が上がっていくにつれ、強まっていた緊迫感も次第に作り物めいて見えて、いつか完全に消えた。当然だ。四肢を斬られて達磨にされても、結局、迷宮から出たら元通りだからな」
言葉から受ける印象は、配信していた未知留に近かった。経歴は違えど、進もうとする方向は近しいのかもしれない。
「本物の殺戮と闘争の世界に身を置きたい。俺が未踏を目指す理由はこんなところだ」
大木は口の端をもう一度歪めて、話を締めた。
「おおーっ! すげーっ! アンタ最高じゃねーかっ!」
「……」
大木の話を最後まで聞き終えると、未知留は立ち上がって指を押し上げた。天女は小さく拍手していたが、顔からは生気が失われていた。
——通知:user:『堕天した黒ちゃん』がShabetter!!!にて、shaberiました。
——アプリ:Shabetter!!!:user:やばいやばいやばいやばいめめめめっちゃおかしい人じゃん! なんで喜んでんのっ! 絶対入れちゃダメえええ!
「なー、もうパーティー入れて良くね? こいつ、絶対スゲー奴だぜっ!」
「実地データは不要なのか?」
以前、未知留は実地データの不足を理由に、僕の勧誘を保留していた。天女を積極的にパーティーへ勧誘したのも、彼女との共同探索を終えてからである。
未知留の行動パターンと照らし合わせると、矛盾した行動を取っているように見える。
「じ、実地データ? んだそれ?」
「? なぜ単語の意味を理解していない? 君は先日、実地データの重要性を理解した上で発言していただろう?」
でなければ、あんな発言は出てこないはずだ。しかし、伝達性を踏まえて、平易な語彙に置き換えたのだと思っていたのだが。
「あの、そんな単語、辞書にも載ってないんだけど……」
天女がそこで口を差し挟んだ。『ユング・プログラム』で調査すると、四つの有名なネット辞書のどれにも実地データ、という単語は掲載されていないと結果が出た。
ふむ、これは説明が必要だな。
「実地データとは、自身の体験から直接的に得られるデータだ。一次データと換言しても良いだろう」
「ほえー」
詳細に説明すると、未知留は納得した様子をみせた。
「へっ、今回はダイジョブだろ」
未知留は得意げにそう言った。
「根拠は何だ?」
「あいつ、アンタと同じ匂いするからな」
「それはあまりに正確さを欠いた表現だ。彼と僕の匂い合致率は……」
「あーちげーって、たとえだよ、たとえっ!」
未知留の補足により、僕はようやく正確な意図を理解できた。
「常識外れなぶっ飛んだ奴ってことだぜっ!」
未知留はまともな裏付けのない評価指標を、自信満々に言った。普段なら非合理だと却下するだろう。
しかし、他でもない彼女の発言だ。常識からどれくらい外れているかと、冒険者の強さの相関性を調べるべきだろう。早速、僕は『ユング・プログラム』に命じ、調査を開始した。
「で、結局、大木はメンバーにして良いか?」
「あ、ちょっ」
僕が反対だと言う前に、天女が口を挟んだ。
「ん? 天女はまだ気になることあんのか? じゃ、次、質問していいぞ」
「ご、ごめんね。って、わわわ、わたしも聞いていいんですかっ!???」
「なぜ当然のことを訊く? 君にも決定権があるだろう?」
そう言うと天女は虚を衝かれたように呆然とし始めた。
「そ、そっか。わ、わたしも仲間だもんね。訊いていいんだ。当たり前じゃん。ふふっ、うふふふふっ」
2.04秒して天女はぶつぶつと独り言を呟き始めた。そして、居住まいを正し始める。サングラスとマスクを外し、改めて大木に向き合う。
「では、大木空さん、我がパーティーへの志望動機を簡潔に教えてくださいっ!」
「? わかるだろ。俺の目的はお前らと同じだ。それで俺とお前らと実力は近しい」
「ノンノンノン、ちょっと浅くありませんか? 類似したパーティーがあったらどう選ぶんでしょうね~。ほらあ、もっと詳しく詳しくっ!」
天女は「ちっちっちっ」と口ずさみながら指を振る。
「そこにいる、柳山未知留」
大木は未知留を指さした。
「あいつはAランク冒険者到達時のレベルで新記録を出したと聞いた。そのうえ、ライジングカップでの優勝実績。未踏冒険者を目指す上で、自分を磨く環境としてこれ以上のもんはない」
「へっ、及第点です。まあ、よしとしましょう」
天女は薄く笑みを浮かべ、肩をすくめた。
「ソロ時代に一番力を入れたことは何ですか?」
「ソロ時代で力を入れたこと? まぁソロだから、なるべく色々な面に気を回すようにはしているが」
「ふんふん、言葉に詰まりますか。なるほど、なるほどぉ~」
天女はにやにやと笑みを浮かべながら、手をせわしなく動かしている。ACのアプリを使って、メモでも取っているのだろう。
「自己PRを教えてくださいっ!」
「あ? 自己PR? おい、その質問にはどういう意図があるんだ?」
大木は天女の態度に苛立ちを覚え始めたようだった。
「へえ? 面接官にそんな態度取っていいんですか?」
天女が挑発的な笑みを浮かべた。
「お、おい、天女!」
「しーっ」
未知留の唇に天女の指が当てられる。
「いいですか? メンバーの決定権はわたしにあるんです。貴方の将来はわたし次第。ですから」
「おい」
ドスの効いた声がその場に響いた。天女の表情が引き攣り、額から汗が生じる。
「俺はお前のままごとに付き合うつもりはない。真剣にやれ」
大木は天女に顔を近づけ、一層、声音を深くしてそう言った。天女の肌から汗がだらだらと流れ、全身をがたがたと震わせる。
「ひ、ひいいいい。ごめん、ごめんなさい。ごめんなさああああい」
天女は悲鳴を上げ、鼻水を垂らしながら、その場で頭を下げた。一度のみならず何度も何度も繰り返し下げた。
「おい、脅すなよ! 天女も悪気があったわけじゃねぇんだ。 な?」
「う、うん。悪気なんてありません。あるはずがありません。信じてください。お願いですから」
天女はティッシュで鼻水を拭きながら、こくこくと頷いた。
「? 今のやり取りに何か問題があったのか?」
天女の謝罪と大木の怒りに納得できる説明がどうにも思いつかない。今後、対人関係を改善するため、理由を知っておく必要があるだろう。
「アンタが関わると余計に話がこじれるって!」
しかし、話の進行を優先してか、未知留に突っぱねられてしまった。
「とにかく、わかったならいい。さて、続きだ」
「わ、わたしからもう一つ。こ、今度はちゃんとお聞きします」
躊躇いがちに天女が挙手した。
「大木さんのステータス、そして貴方様自身が思われる特徴をどうか聞かせて頂けないでしょうか?」
天女が口にしたのは、89.27%の確率で最初に聞かれる質問だった。
「は、ようやくまともな質問が来たな。あと、もう畏まらなくていい。お前の取り乱しぶりで鬱憤は晴れた」
「は、はひ……」
と言いながらも震えは止まっていなかった。
「レベルは116。ジョブは【路地裏の悪夢】。攻撃した敵に、【畏怖】状態を付与し、弱体化させるのが特徴だ。細かいステータスやスキル構成は事前に送ったのを見てくれ。俺は曲刀と、機関魔弾拳銃を使ってる。刀を爆ぜさせて、小規模な爆発を起こすことも出来るな。だから、近接戦闘と中距離戦闘が得意ってところか」
「な、なるほど」
「あと、俺は半獅子人だ。目で分かる特徴は受け継いでないが、腕っぷしは生まれつきかなり強かった。暴力の強さも俺の特徴だな」
彼はなぜ腕っぷしの強さを、不自然な言い回しに換言したのだろうか?
「あ、ありがとうございます。これで質問は以上です」
天女は深々と頭を下げた。
「んじゃ、決を採るぞ。大木のパーティー参加に賛成の人は手上げろ」
賛成対反対は二対一だ。天女と未知留は賛成し、僕だけが反対した。
「天女、未知留、君たちは本当にそれでいいのか? よく考え直すんだ。彼ではなく、魔法アタッカーを引き入れる場合、僕らの攻略効率は43.123%上昇する」
「ううっ……」
天女は手を下げた。よし、これで一対二だ。
「天女っ! 巡っ! 大木はきっとすげえ奴だぜっ! アタシが保証するっ!」
「そ、そうだよね。そんな気がするもん、うん」
天女は再び手を上げた。また票数が戻ってしまった。追加のデータでなんとか説得しなければ。
「ステータスとスキルを鑑みると、現行のメンバーが持てる役割と彼のそれは47.290%が重なる。パーティーでの役割分担を考えると、彼を選ぶのは適切ではないだろう」
「そ、そうかもしれないね」
天女は手を下げた。
「大木には熱意があるっ! あいつならきっと未踏の先までついてきてくれるっ!」
「熱意、うん、確かに熱意もあるね」
天女は手を上げた。
「いや、その指標はまだ有効性が立証できていない。用いるならば厳密な精査が必要だ」
天女は手を下げた。
「そうだね、うんうん」
手を上げた。
「そうそう、うんうん」
手を下げた。
「貴方が正しいよ」
手を上げた。
「すごいすごい」
天女がぶつぶつと独りごとを呟いている。僕の方と、未知留の方を、交互に見つつ、手を上げるのと下げるのを繰り返していた。
「おお、え? え? え?」
「あ? 何やってんだこいつは」
未知留と大木がなぜか困惑した。彼女は思考を整理しているだけだ。どこに戸惑う要素があるのだろうか。
「天女、君の意見は結局どちらだ。ハッキリしてくれ。あまり迷っていると大幅な時間ロスに繋がる」
「あ……、ご、ご、ご、ごめんなさいっ!」
と言ったものの、天女はまだ迷っているようだ。手をゆっくりと中途半端に上げてみたり、下げてみたりしている。
ふむ……、ならば彼女の手の高度を数秒間測り、それを平均したものを指標としよう。これで彼女がどちらの意見に傾いているか、正確に測定できるはずだ。
「おい、お前ら」
僕が『ユング・プログラム』に測定を依頼したタイミングで、大木が言葉を発した。一同の注目が彼に集まる。
「提案だが、実地で互いの実力を見合うのはどうだ? 今こいつが悩んでるのは判断材料が足りないからだ。なら、実際に共闘するのが一番だろ」
「おおっ! 大木、アンタ良い案考えつくなっ! んじゃ早速行こうぜっ! 行こうぜっ!」
「え……、今から……?」
歓喜する未知留は今にも飛び出していきそうな勢いで、僕らに呼びかける。対して天女は少し困ったような表情をみせた。
「思い立ったが吉日だ、ってな!」
「翌日に引き延ばした場合、実行率は21.092%に下がる。思いついたアイディアは当日に実行する、もしくはそのきっかけを作っておくのが最適だ」
天女は呆けていたが、2.109秒の後、自分の頬を手で叩くと、途端に引き締まった表情に切り替わった。
「うん、うん、そうだね。今日行かなきゃダラダラ引き延ばしちゃうだけだもの」
口元を引き結んでそう言う天女に、未知留は口元を緩めた。
「よっし! んじゃっ、決まりなっ! 皆で頑張ろうぜっ!」




