ep2-12.ダイヤモンド不死
——【帝都スカイタワー】:第二十一層:Sランクコース
最終層、全長、546メートルの頂上からの見晴らしは絶景という他なかった。
本物の【帝都スカイタワー】とは違って、ここには天井も壁もない。365度、自由に街を、人々の営みを、天空から見渡せる。
大小まばらなビル街が、街を隔てるような運河が、根を張る道路の数々が、途方もなく広がっている。
夕陽は沈みつつあり、街を染めるグラデーションが薄橙色から藍色へと緩やかに移り変わっていく。
車のライトやビルの電気、街灯が点灯してゆく。闇夜に負けんとばかりに、街は眩いばかりの輝きを放っている。
【帝都スカイタワー】の実物は頂上を一般に公開していない。だからここはダンジョンの力で再現したレプリカに過ぎない。けど、眼前の景色が偽物だとは到底思えなかった。
「おおーっ! すっげーっ!」
柳山さんが目を輝かせて笑う。
「ふふっ、綺麗ですね」
つい微笑みが口から漏れた。うん、やっぱ可愛いわ、この子。げへへ。今度おねえさんと遊ばない? イイコトしよーぜ? 天女お姉さんが手取り足取り教えてやるよ。
本来なら、【闇黒はいずこにも潜む】で隠れて、今よりずっと安全にここへ辿り着くはずだった。ゾーイさんの足跡と極限まで近づくことができた。攻略は出来ないんだけどね。
予定を台無しにされてしまった不満はまだある。けど、モヤモヤを打ち消してしまうほど、気分がすっきりしていた。苦労した分だけ、達成感で満たされていた。
「ほら、巡もよく見ろよ、あそことかめっちゃきれーだぞ」
柳山さんは不死山を指差した。まさにその頂上から太陽が沈んでいっているところだ。山頂が宝石の如く輝く様子は神々しい。見る時代が違えば、あの山を聖地として崇めてしまいそうだ。
「高所からの絶景という観点で言えば、別にこの迷宮に限った話ではない。高所からの眺望を売りにした世界の迷宮のうち、来場者数で人気ランキングを作った場合、ここは二十六位だ。そもそも本迷宮の映像資料は」
「は?」
——アプリ:Shabetter!!!:user:『堕天した黒ちゃん』:投稿:人様が感動してるときに何言うとるんだこのノンデリクソメガネが! 水差すなボケがっ!!!
あ。怒りに任せてつい呟いてしまった。ま、良いでしょ。別に本名晒してるわけじゃないんだし。
「おおーっ!」
柳山さんが感嘆する声が聞こえてきて驚く。は? え? あの発言からどう発展したらそうなるんだ?
「じゃ、今度良いとこ教えてくれよなっ! あ、Sランクコースとこで頼むぞっ!」
「ふむ、では君が提示した条件に合う迷宮を幾つか送付しておこう」
お、おう。Oh。す、凄いね、君。
さて、絶景に満足したところで、攻略再開だ。
ここの層は高所からの光景を十分時間を取って楽しめるよう、設計されている。
事実、わたしたちが景色を楽しんでいる間、ボスモンスターはずっと、座禅を組んで目を瞑っていた。
また、床から生えた充電ケーブルが背中に繋がっていて、全身からバチバチと青い電流が散っている。
あやつは稲妻をエネルギーとするボスだ。自らに蓄えた充電を消耗し、強力なスキルを使う。
つまり、我々がお楽しみの間は、ボスは充電中ってこと。
ちなみに、ズルしようとしたら罰が下る。
動けないボスに攻撃したり、近づいたり、スキルや魔法を使って下準備しようとすると、急速充電されちゃう。一気にフルで稲妻が溜まり、戦闘開始ってワケだ。
我々が真ん中の円で囲まれたエリアに入ると、鎧で全身を包んだ武人が立ち上がる。鎧に刻まれたラインが青く発光する。充電ケーブルが抜けていき、床に収納される。
——通知:ボスモンスター:【伝説の剣豪・小次郎】
携えるは人ひとりの身長にすら届く刀。その鞘は稲妻を纏い、夕闇に明るく輝いていた。
身を守るは白金の鎧。黄金の鉢金を輝かせる兜からは、空色の瞳が爛々とのぞいている。
こちらを認め、武人の瞳が輝いた時、その姿は一瞬にして消えた。




