ep2-4.説得力の高い被害妄想
一般的な不審者のイメージの82.156%と合致する服装の女性が、尻餅をついて震えている。自らパーソナルスペースを取っているし、これは怯えているに違いない。
「おいっ! めっちゃ怯えてんじゃねーか。何したんだよ、巡」
? なぜ未知留は僕に原因があると考えているのだろうか。
「何もしていない」
「してたらんな騒いでねーだろ。ほら、帰んぞ」
未知留が僕の肩を叩く。
「なぜ帰宅しようとする? 僕らは彼女に用があって来ただろう?」
「んだから人違いだって」
「そんなはずはない。身長、体格、普段の服装、全てが僕のデータと一致している。さらにここ周辺の人物、1984人のうちには、真黒天女とそのデータが一致する人間はいない。人違いである可能性は0.395%だ」
「わ、わ、わ、わたし実は宅配ロボットでっ、たまたまここに荷物を届けてきただけでっ! たぶんその真黒って人は」
真黒がまくしたてる。だが、彼女の言葉は少しも正しくないし、根拠もない。
「それはありえないな。宅配ロボットは必ず指定の制服を着ている。君の服装は全国のどの宅配ロボットサービスとも制服が一致しない。また、人の配達サービスもあるにはあるが、全体の利用率は0.001%以下だ。つまり、君の発言は99.999%の確率で苦しい言い訳だ」
「ごめんなさいごめんなさい、わたしが悪かったです。許してください」
真黒が未知留に向かって土下座した。
「え? なんでこの子謝ってんの?」
僕も気になったので、ACを操作し、プロンプトを入力する。
「『ユング・プログラム』に原因と思わしき理由を推測してもらった。どうやら彼女は、君が配信した動画に、『なら今すぐ砂漠にでも行ってみろよwwwwww。本物の危険が」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。わたしが、わたしが悪かったですから、もう言わないでっ!」
真黒は僕の言葉を遮って、謝罪を続けた。
「えっと、真黒天女さん、いやそれとも、そっくりさん!? アンタ、アタシに何をしたか知らんけど、つーか何もされてないけどっ! ちょ、落ち着けって」
「嘘だ。嘘だ。知らないはずない。知らない顔して騙して誘拐して幽閉して拷問するつもりだ。だって押し掛けてきた。隠してきたのに押し掛けてきた。今日、わたしは今ここで殺されるんだ。あーあ、短い人生だったな。苦節人間二十一年、下天の内を比ぶれば、夢幻の如くなり。アーメン。主よ、今貴方の下に参ります」
ぶつぶつ呟きながら、真黒は天に祈り始めた。
「ほんと落ち着いてくれって! アンタに何かするつもりはねーからっ! むしろ助けを求めに来たっつうか……」
未知留が困ったように後頭部に手を遣る。
「ううう嘘だっ! そそそそんなこと言ってわたしに乱暴するつもりだ……。エロ同人みたいにっ! ん? あ、あれっ?」
「は? ん……え?」
真黒に指さされた未知留は困惑した。妙だな。エロ、というワードからは男女間の性的営みが想像される。
しかし、彼女は僕ではなく、未知留に対して、エロを関連付けた。違和感を解決するため、僕はプロンプトを入力した。
「ご、ごめんなさい……変なこと口走っちゃって……聞かなかったこ」
「成程。『ユング・プログラム』によれば、どうやら世にある14.256%のエロ同人は女性同士の性行為を描写しているとの事だ。未知留、彼女の発言には14.256%の正当性があるぞ」
真黒が独り言を言い終わる前に、調査が終了し、結果を述べた。
「う、嘘っ!? へ、へへ変態??? ひいいいいいいっ!!!」
「怖がってんじゃねえか! ちょっとアンタは黙ってろっ!」
事実を述べていると、なぜか真黒が震えあがり、未知留が怒鳴ってきた。二人は同性愛が描かれた同人誌が少ないことがそんなにも気に食わないのだろうか。
「じゃあ、なんで知ってるんですか。おかしいじゃないですか! 本名も家もSNSのアカウントも、誰にも教えたはずないのに……」
「なぁ、巡。会ったらこんなパニくるなんて聞いてねーぞ。どーゆーことだよっ?」
真黒がそう言うと、未知留が彼女に同調した。
パーティー解散の理由の一つとして、メンバー同士の不信感が多く挙げられる。このまま真黒が不信感を抱いたまま、僕らのパーティーに加入しても解散に至る可能性がある。
それはこちらとしても困る。となれば嘘偽りなく言っておくのが適切だろう。
「端的に言うなら、個人情報を入手したからだな」
「は?」
「はい?」
どちらも困惑した表情を作った。理解し切れていないのだろう。ならばより詳細な情報を提供するべきだ。
「比較的時間のかかる作業だったな。まず、動画から使用しているスキルを推定し、冒険者連盟のデータベースから合致するスキルを保持している冒険者を特定した。普段なら、登録された個人情報を持ってきて、そこから住所を特定すれば済むのだが……」
「ん? どうした未知留?」
未知留の表情には感情がこもっていないように見える。データにない行動だ。彼女の中で何か異変が起きているのかもしれない。
彼女の情報をより詳しく収集するため、近づく。すると固まっていた未知留が、急に動き出した。
「パーティー勧誘するのに、直接家乗り込んでくる奴がいるかっ!!」
「がぁっっ!!! っ……」
未知留の拳が腹部にめり込んだ。こ、これはまずい……。生涯感じてきた七千八百五十二通りの痛みで最も辛く、キツい痛みだ……。
「あが……、あ……」
身体の芯に響くような痛みに、途端に全身から力が抜けた。僕は呻きながら、その場に崩れ落ち、倒れる。
「ふぅ、ちっとは反省しろってんだ!」
凶行を成した柳山は僕を見下ろし、むすっとした表情でそう告げた。
ふむ、僕の行動の何かが間違っていたのだろうか。問おうとするが、悶絶するような痛みに言葉が出なかった。いや、そもそも彼女はなぜ僕の腹を殴ったのだろう。
「んじゃ、続きはファミレスで話さねーかっ? お詫びも込めて、奢るぜ?」
真黒が僕と未知留を順にみる。途端に彼女はがくがくと膝が震え、崩れる。そのまま尻もちをつきながらも、後ずさっていった。
「ひっ、ひいいい! やめてっ! わたしまでっ、わたしまで、ころしゃないでっ!!」
「いやだから何もしねーってっ!」
真黒は怯えながらも、ファミレスまでついてきた。




