016:1~6までの知識で
「現場の方はどうなっているかわかるか?戦場や、それ以外の兵士の動きは」
「いつも通りっていやぁいつも通りだな。やっぱり現場の動きは気になるか?」
「上でどうこう言ってたって、動いてるのはいつだって現場だ。そうだろ?現場を無視して話を進めても意味がないしな」
「キョーちゃんがそういう風に考えてくれるから俺ら現場の人間は割と自由にやれてんだぜ?他の部隊じゃそうはいかねえよ。俺らは基本的に上手くやってる。ただ他が同じかって言われると、微妙だな。帝国はでかいからよ、良くも悪くもひずみは出てきてる」
ひずみというものがいったいどのレベルなのかは不明だが、入弦のような人間が将軍に抜擢されているという意味でもやはりいろいろと問題はあるのだろう。
皇帝の考えに基づくものなのか、それとも組織の形式上仕方がないことなのかはわからないが、入弦が所属している帝国が万全の状態ではないことは間違いなさそうである。
どうしたものかと考えながら、入弦は小さくため息をつく。
「ため息つくと禿げるぜ?」
「こんな被り物してるんだ。頭皮の心配はもうしていない」
「脱ぐなよ?お前のそれは生命維持装置の代わりでもあるんだからな」
先ほどまでの軽薄な声音から一転し、吉野は真剣な表情で入弦の頭を押さえる。いや、入弦の頭についているヘルメットのような被り物を押さえる。
間違っても入弦が外さないようにという念押しのためなのだろう。それよりなにより生命維持装置という単語が入弦は気になった。
「これを外したとして、俺はどれくらい生きていられる?」
「だから外すなって言ってるだろ。それはお前の呼吸機能の代替でもあるんだ。口とか、お前の体内にある人工臓器と接続されて機能してる。それをなくしても……まぁ、一分かそこらは生きていられるだろうけど、そこから先は人工臓器との接続不全に陥って……」
「持って一分ってことか」
「そう、だから絶対外すな。頭部分は最悪外しても顔の部分は外すなよ。そのあたりはめちゃくちゃ気を遣って作ったんだ。言ってくれれば改良もするからよ」
どうやらこの仮面、もとい生命維持装置を作ったのは吉野であるらしい。この世界の吉野はどちらかというと技術者のそれに近いらしい。
ひとつ前の世界のモヒカンとはかなりの違いがあるものだなと、世界によって個人がここまで違いを見せるものなのかと入弦は感心してしまっていた。
「……なんだってこんな風になってしまったのやら」
「そりゃ、お前が恩師との決闘に負けたからだろ?体の内臓部分に加えて、マグマのせいで呼吸器官もいかれてたからな。治すのには苦労したぜ」
恩師との決闘。そんなことをやっていたのかと入弦は何とはなしに聞いていたが、そんな中で一つ思い当たる点がある。
帝国、生命維持装置の仮面をかぶっている、謎の筒状の棒、そしてマグマのある場所で恩師と決闘、反乱軍、宇宙。
それらのワードを積み重ねていって入弦はいくつか思い当たる節があった。まさかそんなと思いながら、吉野がもってきた筒状の道具を手に取る。
「なんだ、チェックするのか?」
「あぁ、一応な。起動方法は?」
「変えてねえよ。そこのスイッチだ」
吉野が指し示すそのボタンを押すと、赤い光が筒状の棒から射出される。
いや、射出されるというのは正確ではない。光が放たれ、棒状に伸びて剣のようになっていた。
これはダメだ。
入弦はそう思った瞬間、脳内でアカを呼んでいた。
瞬間、この世界の動きが止まる。光る剣から放たれるわずかな空間の揺らぎも、近くにいる吉野も、ディスプレイもすべて動きを止めていた。
『アカさん、アカさん、メーデー、メーデー!』
『なんだまたか、随分と呼ぶのが早いな』
『ダメだろこれ!これ絶対スターなウォーズのそれだろ!エピソード……4から6くらいの時空だろ!』
それは入弦が見たことある大作映画の一つだった。おそらくこの世界において多くの人間が一度は見たことがあるであろう映画だ。もちろん入弦も見たことがある。
そして自分がどの立ち位置にいるのか、入弦は理解してしまった。
所謂悪の親玉の腹心的な存在だ。黒い仮面などをかぶって独特の呼吸音が特徴的な、低めのBGMと共にやってくる人物だと確信していた。
とはいえそもそもエピソード1~6までしか見ていないため、それ以外の知識がないため詳細がわからないのだが。
『っていうかなんで俺はどこの世界でも悪役なの!?平和に生きてる世界線の俺はいないんですかね!?』
『そんなことを言われてもだな……平和な世界に生きた平凡なお前は大抵死んでしまっているんだが……何が聞きたい?』
『……この世界の俺って、所謂悪の親玉の腹心的なあれだろ?っていうかちょっと待て、あの世界のままだとしたら俺の子供とかもういるの?』
『いや、子供はいないようだな。お前は今天涯孤独の身だ』
その言葉を聞いて入弦はホッとする。どうやら世界観がそっくりなだけでそこまで設定を同じにしているわけではなさそうだった。
何より入弦の年齢、この世界の入弦がいったい幾つなのかは不明だが、若い年齢で子供がいたらそれはそれでびっくりだ。
あの映画では悪役の腹心を殺しに来るのはその息子だった。その息子がいないのであれば比較的安全なのではと思いながらも、この世界の自分にも死の運命が迫っていることを理解している。
一体どうやって、などと言ってはいるが、そもそもこの世界における自分は超がつくほどの悪役。反乱軍などと遭遇すれば一発で見つかってしまうだろう。
『アカさんさぁ、パラレルワールドにしたってこれは酷くない?ひとつ前は世紀末で今回は宇宙戦争的な奴でしょ?さすがに悪ふざけ感が否めないよ』
『私にそんなことを言うな。生き残っているお前がそんな世界にしかいないのが悪い。で、何とかなりそうなのか?』
『この世界の事、ざっくり教えてくれる?特に俺の世界との違いについて』
『うむ。宇宙開拓が進み、多くの星の文化と文明が混ざり合う世界だ。お前と同じ人の姿をしている者もいれば、全く違う姿をしている者もいる。特に違うのは科学技術と、宇宙進出によって生まれた人の超常的な能力だ』
『というと?あれか?念力か?例の力か?』
入弦の頭の中には物体を浮かせたりすることができる能力が思い浮かんでいた。あの大作映画のようなイメージが脳内には広がっている。
『似たようなものだ。第六感が鋭くなったり感覚が延長されたり、お前の言うように念力を使うこともできる。宇宙に適応した新人類というわけだ』
宇宙戦争なのか機動戦士なのかどちらかにしてもらえないだろうかと思いながら入弦は頭が痛くなるのを感じていた。
これは訴えられたら負けるやつだなと思いながらも、この世界のことを大まかにではあるが理解しつつあった。
『で、この後俺は反乱軍の攻撃で死ぬのか?っていうか俺今どこにいるの?地球じゃないよな?』
『えぇと……少し待て。座標で言ってもわからないだろうから、大まかに教えるぞ。とりあえず宇宙に作られた要塞にいる。地球からはだいぶ遠いな』
いくらなんでも大まか過ぎないだろうかと入弦は突っ込みたくなったが、確かに細かく座標を言われたところで理解できるはずもない。
何とか星雲のなんとか系のどのあたりにいるなどと言われてもはっきり言ってイメージなどまったくわかない。
きっと地球から大分遠いという雑な情報も、入弦が考えているよりもずっと遠い場所なのだろうなと察するに余りある。
すでに先ほど自分の知らない星の名前が出てきたばかりなのだ。ここまで素っ頓狂な世界にやってきて今更細かいことを言うつもりはなかった。
『この世界で俺は悪の親玉の腹心か……息子がいないのが幸いだったけど……そうなると俺はなんで死ぬんだろう?やっぱ反乱軍?』
『どうだろうな?先ほどのお前たちの会話から察するに、その世界のお前は既に大戦果を挙げているようではないか。恨みを買っていても不思議はないな』
『この世界の俺超いい迷惑。反乱軍を滅ぼす以外に手はないか……そのあたりの情報ってわかる?』
『そこまで手助けするのはさすがにアウト判定だ。口出しはできてもあまり手助けはしてやれんのだ』
ケチだなとも考えたが、すでに命を救う手助けをしてもらっているのだからこれ以上を求めるのは我儘というものだろうと入弦は自らを戒める。
向こうからすれば実験程度の考えでも、入弦からすれば自分が生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。こんなふざけた、もといムービーチックな世界でもまじめに努力しなければ死ぬのは自分自身。入弦はその根底を理解していた。だからこそ真面目に自分の死に関わる何かを排除しようと考えている。
幸いにしてこの世界において入弦は将軍という立場にあるらしい。先ほどアカが言っていたような超能力を使えるかどうか、おそらく使えるだろうが、はさておいて、この立場を使わない手はない。
確実に自分の守りを固め、なおかつ相手に損耗を強いることこそが最も自分の身の安全につながると確信していた。
そのために最も頼りになるのは身近であり友人でもある吉野だ。ロボロボしい外見になっているがどんな姿形になろうと吉野は吉野。信頼できる人物であることに変わりはなさそうである。
『アカさん、とりあえずギリギリまで頑張ってみるけど、この世界の俺って一体何歳?もう二十五とか言わないよね?』
入弦は今までの世界から言って十五~二十五の間に死ぬという運命が固定化されてしまっている状態だ。
つまり今の年齢がもし二十五だったら、今まさに死の運命が襲い掛かっても不思議はないということになってしまう。
『幸い、今のお前は二十二だ。まだ猶予はあると言えなくもないが……』
『わかってる。いつ来ても不思議はないっていうんだろ?っていうか俺二十二歳で将軍になったの?すごくない?何やらかしたんだよ』
『星を三つか四つ滅ぼしていそうだな』
アカは冗談のつもりでそんなことを言ったが、実際にやっていそうで笑えなかった。
前回は体一つで吉野と共に村一つ滅ぼしているのだ。今の入弦のように立場がある人間がそのようなことをすればどうなるか想像したくもない。
本当に星の三つや四つは滅ぼしていても不思議はないのだ。というか実際にやっていそうで入弦は心底怖くなる。
星の仇などと言われてもこの体一つでは払いきれないのは目に見えている。
どうにかして生き残る術を探さなくてはと思いながらも、反乱軍を壊滅させる以外にその方法が思いつかないのも事実だった。
止まった時間から再び時間が動き出してから、入弦はすぐに自分の情報収集を進めることにした。
苦手な分野でも、言語を少しでも理解して情報を収集しなければ本当に命はないと実感したのである。




