015:将軍?
「その不慣れな敬語もいらない。今は俺とお前しかいないんだ」
「そうですかい?いや、それならお言葉に甘えるかね。でもキョーちゃん、お前は今や将軍って立場なんだ。あんまり弱みを見せると、周りからやっかみを買うぜ?」
予想通り、入弦と吉野は昔から一緒にいた仲のようだった。敬語を使っていたのも入弦の立場を慮ってのものだったのだろう。
こういう気遣いができるあたり、この世界の吉野はお調子者ではあっても考えなしというわけではなさそうだった。
「この歳でこんな役職についてるんだ。やっかみくらい既にあるだろうに」
「確かにそうかもな。いくら功績をあげたからって言っても限度がある。皇帝の弟子になったっていうのも理由の一つかもしれないけどな」
どうやらこの世界の自分は、とある国の皇帝の弟子になり、その国の将軍という立場になっているようだった。
一体どういう人生を送ったらそんな風になるのか問いただしたいところではあったが、今それを突っ込むと怪しまれる。
まずは少しずつ情報を聞いていくしかなかった。
「とはいっても、功績と言っても大したことはしていないだろう」
「何言ってんだ。皇国との戦争で決め手になったのはお前が相手の防衛陣地を内部から壊滅させたからだろ?他にも王国やら連合国やらの戦争でも大活躍じゃねえか。キョーちゃんがいなきゃ今までの戦争は勝てなかったぜ?」
それを聞いた瞬間、この世界の自分はもうだめかもしれないと半ばあきらめかけていた。
既に恨みなどを大量に買っているように思えてしまったのだ。いつどこで誰が襲い掛かってきても不思議ではない。
だが今までの戦争で大活躍し、勝利を収めているという中で、この映像に残っている反乱軍とやらの戦闘が気がかりだった。
あとどれくらい敵になりそうな人間がいるのか気になったのである。
「今残っている勢力の中で、反乱軍以外で明確に敵になりそうな組織はどこだろうな」
「どうだろうな、反乱軍以外だと、連邦と評議会くらいじゃないか?とはいっても、一応その二つは俺ら帝国と他の国とは中立の立場を保ってる。表立って動いてるのは反乱軍って形だけどな」
「その言い方だと、連邦と評議会が反乱軍を裏で支援しているように聞こえるな」
「実際そうだろうな。帝国はいくつもの国を滅ぼしてかなりでかくなってる。はっきり言ってもう一つの国単位で対抗できるようなレベルじゃない。いくつもの国が義勇軍とかを差し向けて、一つの反乱軍っていう組織を成り立たせないと相手にすらならない」
「その反乱軍のまとめ役、ないしスポンサーが連邦と評議会、といったところか」
この世界の情勢が徐々に判明してくる。この世界における入弦は帝国と呼ばれる国の将軍の一人。今まで戦争を行っていた皇国、連合国、王国など、それぞれの国との戦争で活躍したという。
そしてそれ以外に存在している連邦と評議会という組織は今のところ中立を保っている。
今まで帝国に敗北したいくつもの国の敗残兵がまとまって反乱軍という組織を作り出したのだろう。
それを裏で支援、ないしまとめ上げているのがこの二つの中立組織、連邦と評議会ではないかと思えてしまう。吉野もそう考えているようで、ロボットとなった体を動かして頷いて見せる。
「俺の睨んだところだとな。って言ってもだぜ?この辺りは既に皇帝陛下も知ってるだろうし、他の将軍たちもそういう考えで動いてる」
「さすがに中立を公言している組織に、何の裏もなく攻めるわけにはいかないか」
「理由なんざいくらでも、どうにでもできそうだけどな。確証がないと……っていうのは確かにその通りだ。とはいえ裏取りができなくはない。うちの人間が何人か反乱軍の中に潜って情報を漁ってる。この間の、このザラーピ星での戦闘でも役に立った。とはいえ、情報が少し違っていたけど」
「違っていた?具体的には?」
「あぁ、情報じゃ結構な勢力を集めてるって話だったんだ。あの星には反乱軍の基地の一つがある。そこの制圧も済んだんだが、そこを守るためにそれなりの量の兵を配置してるって話だったんだが」
「……実際にはその数は少なかったってことか?」
「少なかったとは言わないけど、そこまでの量ではなかったな。あれが反乱軍の結構な勢力なのかって聞かれると……向こうの実情がわかっていないから微妙なところだ。まぁだからこそ勢力差が出て圧勝だったんだけど」
スパイ等から情報を得て、大量の兵を集めているという前提を元にこちらも兵力を集めた。
その結果、あまり多くない敵勢力を帝国の兵が押し潰した形になったのだろう。
だからこその圧勝。だがそのスパイからの情報というのが気がかりだった。
「吉野、そのスパイの元にはどんな情報が集まっている?今のところ大した情報は集まっていないんじゃないか?」
「その通りだけど……まさかあれか?スパイだってばれてるとか?」
「可能性はある。大した情報を流さず、こちらの動きを誘導させるために泳がされているとみるべきだろう。反乱軍の勢力がこの程度とは考えられない。どこかほかの拠点……あるいは、他の何かの為に大量の兵力を動かしているとしたら……」
「俺らはまんまとおびき出されたってことになるわけか……なるほど確かにそれはあり得るな。でもここだってそれなりの兵力を動員してたんだぜ?それを囮扱いするって……」
「可能性の一つだ。さっき言ってた中立組織に関わることなのか……それとも別の何かか……反乱軍の根幹か中核、これからの作戦の肝、考えられるのはいくらでもある。だが重要なことに間違いはないだろう」
「キョーちゃんの勘は当たるからな。オーケー。うちの人間を使ってうまい事探っておこう。それで、このことはどうする?皇帝や他の将軍たちに伝えておくか?」
皇帝や他の将軍と言われても、入弦はこの帝国の内部事情を全く知らないのだ。はっきり言ってそんな情報を流したところであまり意味がないようにも思えるし、もしかしたら逆に自分の首を絞めることにもなりかねない。
というか、先ほど話したように、この若さで将軍という地位に立っている入弦からそんなことを言われて、他の将軍たちが素直にその情報を受け取るとも思えなかった。
年下の同僚から指摘を受けて、簡単に納得できるほど人間というものは寛大にできているとは思えない。
皇帝が入弦の師匠だというのであれば、その間での話は問題ないかもしれないが、それを周りの将軍に話をするというのはまた別の話だ。
直接自分が告げるよりも、何か別の形で話を通したほうが連携はスムーズになるかもわからない。
「俺の案だということにすると、他の将軍はいい顔をしないだろう。どこか情報を扱っている部署にその情報を流してもらうのが一番いいと思う」
「うちの部署も一応情報を扱ってるぜ?俺らのところじゃダメなんか?」
吉野はどうやら情報も取り扱っている部署であるらしい。というか吉野がこの世界においてどういう立ち位置なのかわかっていない。
その辺りも後で確認するとして、今は入弦と吉野が昔からの中だということだけわかっているだけでも十分だ。
「お前の部署から流すと、お前が関わっているのではないかと怪しまれるだろう。俺とお前の関係を知っている者はそれなりにいる。あくまで他の部署が入手した情報という形にしたほうが、おそらく向こうもすんなり情報を受け入れるだろう」
「回りくどいなぁ……けどまぁ仕方ねえか……わかった。うちの人間からちょっと別のルート経由して、各将軍に繋がってる情報チームに話を流すようにするぜ」
「気付かれないようにな。あくまで将軍たちが自分のルートでそれを知ったようにしてくれ」
「任せとけって、そういう工作は得意だ。せいぜい将軍たちにはいい思いをしてもらおうじゃねえか。でもそうすると、皇帝陛下に話をするのはやめておいたほうがいいのか?」
「どうするかな……俺が話をするか……あるいは別のタイミング……他の将軍もいるところで、他の将軍に進言してもらいたいところなんだけど……そううまくはいかないかもしれないし……下話くらいはできればいいんだが……」
「皇帝陛下も忙しそうだからな。まぁ、師匠と弟子の会話くらいはしてもいいんじゃねえの?どんな間柄なのかは俺も詳しくは知らないけどさ」
組織において、上層部の考えはある程度統一しておいたほうがいい。上層部同士で話が噛み合わなければその分の負担が下に直接向かうのだ。
そう言ったことは避けなければこの戦争という大局を乗り越えることなどできない。
どのような理由で自分が死ぬのか、この世界では全くと言っていいほど予想できなかった。
今自分がいる場所もまだ判明していないというのに、戦争の話などしていると頭がおかしくなりそうになる。
まずは死なないために、帝国の戦いを良い方向に進めるべきなのだろうと、入弦は考えていた。
『負け戦=死』くらいのイメージしか持たない入弦の貧相な想像力では、ありとあらゆる可能性を考慮して行動を起こすくらいしかできることがない。




