017:不穏な情報は多い
「どうだい?いい感じに調整できてるだろ?」
光る剣の具合を確認する吉野に、入弦は小さくうなずくことにする。具合などわかるはずもない。入弦はこの光る剣を初めて手に取ったのだ。
振り回してその威力と独特の音を堪能したいところだが、今は時間が惜しかった。
「吉野、お前のところで情報収集はどの程度できる?」
「まぁ、普通にできるぜ。工作とか情報収集もうちの担当分野だからな」
「お前の使える手駒、どれくらいいる?」
「どれくらいって……まぁそれなりにいるぜ。キョーちゃんの直轄って名目で結構好き勝手やらせてくれるからよ」
「なら、それを総動員して情報を集めてくれ。反乱軍の動き、中立組織の動き……この間の戦闘で何か企んでるはずなんだ」
「へぇ……なんか確信でもあるのか?」
「ない」
入弦は言い切った。確信などあるはずもない。組織間のやり取りであれば、上司と部下というやり取りであれば、理由や確信などは必要不可欠だ。
だが入弦と吉野という二人の間には不要だと、入弦は考えていた。目の前にいるのが吉野である限り、吉野安則である限り、そのやり取りなどは必要ない。
そして吉野もそのことをわかっているのだろう。少し考えてから、その顔を入弦の方に近づける。
「金かかるぞ?」
「理由は後付けでも何でもいい。予算は俺が通す」
「兵器とか機材も必要になるかも」
「必要なものはこっちで用意できるものは何とかする。場合によっては他の将軍に頭を下げることになるけど、その程度なら安いもんだろ」
「……場合に寄っちゃ、キョーちゃんの名前を出すことになるぜ?」
「俺からの命令でいい。直接俺が指示したってことにしておけ。それで話が通るなら問題ない」
「好きにやっていいんだな?」
「好きにやれ。ありとあらゆる情報を集めろ。ただし相手にばれるなよ?」
入弦のこの発言は一種の賭けだった。この世界の自分がどの程度の立場なのかもまだ把握しきれていない。そんな状況でこれほどの大言を吐いたのだ。
場合によってはこの行動こそが入弦の死因につながる可能性もある。だが皇帝の弟子、そして将軍という立場。
仮に将軍という立場を追われることになったとしても、死刑などはないだろうと考えていた。
閑職に回される、ないし追放で済めば御の字だ。反乱軍と帝国というこの二つの抗争に巻き込まれないための布石となればそれでもいい。
吉野の情報網などがどの程度なのかはわからない。だがそれらをフル稼働してどの程度の情報を集められるのか。それによって入弦の立場を、死なないための立ち位置をより明確にできるはずだと考えていた。
はっきりと言い切った入弦に対し、外見上機械の体の吉野は見た目こそ変わらないが、入弦には吉野が不敵に笑ったように見えた。
「オーケー将軍閣下。ご命令とあれば何でも集めて見せましょう。とはいえ、さすがに範囲が多いぜ?もうちょっと範囲を絞れるか?反乱軍と中立組織、全部洗いざらいってなれば時間もかかる。キョーちゃんの言い分だと、割と急いだほうがいいんだろ?」
「そうだな……逆に意見として聞きたい。今回のザラーピ星での戦闘行為そのものが、ただの囮だとして、俺らの意識をどこからそらしたかったんだと思う?」
「……難しいな。今回のザラーピ星での攻略に、帝国は結構いろんなところから兵力を集めてた。ちょっと待ってろ」
そういって吉野は入弦のデスクの表示されているディスプレイをいじると、ある映像データを出した。
そこにはいくつもの点が三次元的に展開されている。それがこの世界、この宇宙空間に存在する星々であるということを理解するのに時間がかかったのは言うまでもない。
そしてその星々から、小さく矢印のようなものが打ち出され、ある一点に集中していくのが見て取れた。
右上には日付のようなマークもついている。徐々に動くその矢印は、生き物のようにザラーピと記された点の方に集中していた。
「これがザーラピ星での戦闘に至るまでの帝国軍の動きだ。方々から……とまではいわねえけど、余裕のある所から召集してる。あ、ここが帝国本星。でこれが今俺たちがいる要塞な」
今入弦たちがいるのは宇宙空間に存在している一つの点。これが一種の宇宙要塞のようなものなのだろうかと考えていた。
帝国本星のわりと近くに作られたこの要塞が、帝国の守りを盤石にするためのものであるという印象が強く、入弦はその動きを見ながら頭をひねっていた。
かなりの遠方からも部隊が集まっている。時折各星に存在している基地やその拠点などから補給を受けていることが記されている。当然、この要塞や本星を経由しているのも存在していた。
これだけ見ればただの移動図だ。相手からの情報を察知し、それゆえに負けないだけの戦力を適宜召集しているという図になる。
だがそれでいて各所に必要な戦力は維持できている。いかに帝国が盤石であるかがわかる戦力だ。これだけの戦力があってなお、警戒するだけの必要があるという事実に入弦は頭を痛めていた。
「これだけの戦力を動かしたんだ。相手もその動きは察知できた可能性が高いな」
「まぁ、全容を把握できたかはわからねえけど、こっちが戦力を揃えてたってのはわかってもいいだろうな。だからこそ最低限にして負けを装ったのか……いや待て……そうか……」
吉野は自分の口元に手を当てながら映像データの時間を戻す。再び矢印が各星から放たれているところから確認していた。
小さく呟きながら何かを考え、口元に手を当てた状態の吉野は非常に人間らしい。外見が完全に機械でなければ、ただの人間にしか見えなかっただろう。
入弦はあえて口をはさむことはしなかった。入弦が何か気付ければよかったのだが、あいにくこの世界の情勢どころか常識にすら疎い入弦では大したことは思いつかなかった。
そして吉野は何かに気付いたのだろう、確信に近いものを得たのか、その機械の目をわずかに輝かせた。
「そうかそういうことか!さすがキョーちゃんだ。俺はすぐに調査に入る。こっちでも根回しするけど、なんかあったらフォロー頼んだ!」
吉野は何かに気付き、急いでこの部屋から出ていった。何やら大変なことに気付いた様子だったが、入弦にはさっぱり理解できなかった。
とりあえず吉野に任せておくほかないなと、入弦は今手元にあるデータを見てまずは文字の勉強をしなければいけないと考えていた。
この世界の書類をせめて読めるようにしなければいけないのだ。おそらくアルファベットを元にした全く違う言語なのか、あるいは英語がベースになっているのか、それすらもわからないのだ。
そんなことをしていると、再び部屋のインターフォンが鳴り響き来客を知らせていた。
「誰だ」
『カナドメ将軍、第十一師団師団長ソーロンです』
「入れ」
なるべくぼろを出したくないと考え、最低限の受け答えだけで中にその人物を入れるが、その人物は全身プロテクターの取り付けられた装備を身に着けていて外見的特徴が全くわからなかった。
吉野のようにもう少し外見的特徴を出してくれればわかりやすいんだがと思いながらも、肩に何やらマークのようなものが取り付けられていることに気付く。あれが階級章か何かなのだろうと考えつつ、部屋に入ってきた師団長とやらに目を向ける。
「用件は?」
「はっ!タッケンキー星における戦闘の報告になります」
「……通信でもよかったんだぞ?疲れているだろうにわざわざここに足を運ばなくとも」
この世界における技術レベルがどの程度になったのかは不明だが、通信技術だってそれなり以上に進歩しているはずだ。わざわざこうして足を運ばずに通信で最低限の報告でも問題がないと思うのも無理はない。
「お気遣いありがとうございます。ですが、一つお耳に入れたいことが」
「なんだ?」
通信ではまずいことでもあるのだろうかと考えながら、入弦は目を向ける。
「タッケンキー星での戦闘の際、一部の部隊が戦場から逃走する民間船を確認したと」
「民間の?反乱軍のものではなく?」
「はい。識別信号も記録にも残っています。反乱軍で使用しているものでもなく、戦闘自体にも参加しておりませんでしたが」
「……戦闘区域に何故民間船が……というところか」
「はい。一つや二つならば、情勢を知らないものが残っていたなどと考えられるのですが、かなりの量でした。ですが民間船、撃ち落とすわけにもいかず……申し訳ありません」
「いや、その判断は正しい。民間船ということであれば撃墜すればそれは帝国軍の非ということになりかねない。その識別信号の詳細はわかるか?」
「現在調査中であります。詳細はこちらに」
わざわざこの場にやってきたのは、この情報を直接伝えたかったからなのだろう。通信などで伝えれば問題がある内容である可能性が高い。
戦闘区域にかなりの数の民間の宇宙船が入り込む。確かに妙な話ではあるかもしれないがわざわざ報告するような類の話でもないように感じられた。
だがこの師団長はわざわざこうして直接伝えに来てまでこの情報を伝えに来たのだ。
何かしらの意図があると、入弦は考えていた。
もしかしたらこの民間船の話は、この部屋そのものに盗聴器などが隠されていることを考慮したうえでのブラフなのかも、とも考え、渡された情報端末を受け取る。
「……わかった、こちらでも調査しておこう。ご苦労だった」
「はっ!ありがとうございます!」
「ところで、反乱軍に変わった動きはあるか?」
「変わった動き……ですか……少なくともタッケンキー星の戦闘においては、わが軍が圧倒的に優勢、あと二日もあれば戦闘は終了させられるかと」
「……圧倒的優勢……か」
「……将軍閣下……何か気になることでも?」
「……いや、気にしすぎているだけかもしれない。とはいえ油断するな。引き続き頼む」
「は……はっ!承知いたしました!」
師団長は報告を終え、姿勢を正し敬礼をしてから部屋から退出していく。
普段の対応がわからないため、今の対応で会っていたかどうかははっきり言って入弦には分らない。
相手が吉野であれば適当に対応するだけでいいのだがと、昔馴染みとの関係のありがたさを強く感じていた。




