第18話「最終決戦・前編」
神戸中央総合医療センター
2036年12月10日、22時。
神戸中央総合医療センターの夜勤帯は、いつもより人の気配が少なかった。
だが、病院の静けさは、そこで暮らす人々の眠りを意味しない。
7階と8階には長期療養を続ける高齢者がいて、看護師や介護職員は一人ひとりの様子を確かめながら夜を越そうとしていた。
その病院には、OZ対策特別チームの隊員50人が配置されていた。
金瀬らいを含む現場指揮班5人は、1階の防災センター兼警備管制室に集まり、監視画面と各班からの無線報告を確かめている。
金瀬の隣には、副責任者で捜査担当の水野玲子が控え、異変があれば全体の指揮・連絡を引き継げるようにしていた。
管制室に隣接する監視・連絡スペースでは、情報分析担当の高橋直樹を含む情報・監視班6人がカメラ映像と状況報告を整理していた。
現場対応班は8人ずつの3班に分かれていた。
第1班の8人は1階から2階を中心に、第2班の8人は3階から5階を中心に警戒する。
第3班の8人は6階から8階を受け持ち、6階に3人、7階に3人、8階に2人を配置していた。8階の2人は、下階へ続く主階段の近くで警戒に当たる。
救護・避難支援班5人は1階の待機場所に控え、患者や職員の安全確保に備えていた。
外周・連絡班4人は病院の周囲で関係機関との連絡と周辺状況の把握を担い、狙撃兵対応班6人は病院外周側に配置されていた。
OZに優秀な狙撃兵がいるという情報を受け、外からの狙撃を警戒するためだった。
OZ対策特別チームの全員が無線を装備し、金瀬は50人の配置と病院内の状況を管制室から把握できる態勢が整っていた。
金瀬は拳銃と替えの弾丸を装備していた。現場対応班員は全員、防弾チョッキを着用し、サブマシンガンと替えの弾丸を携行している。
OZの病院襲撃本隊も既に現場に到着していた。
病院襲撃本隊はロンを含めて30人だった。
病院内へ入るのは29人。
現場リーダー1人と襲撃メンバー23人が3班を編成し、第1班は現場リーダーと襲撃メンバー8人、第2班は浅瀬が率いる8人、第3班は7人だった。
これに現場支援の5人が加わる。ロンは病院の外で狙撃を担い、院内の班とは無線で連絡を取る。
ロン以外の病院襲撃本隊員は、ハーフヘルメットと防弾チョッキを身につけ、サブマシンガンと替えの弾丸、煙幕弾、手榴弾、ナイフを装備していた。彼らもそれぞれ無線を携行する。
ロンの装備は本隊員とは別で、狙撃銃1丁と無線、狙撃銃に用いる通常弾および麻酔弾。狙撃銃には麻酔弾を装填していた。
OZが狙うのは、7階と8階に入院する高齢者だった。高齢者医療と長期療養の部門が集まる2つの階を標的とした。
正面入口には警備員が2人。
事前調査で、扉にセキュリティロックがかかることも分かっていた。
病院の外にある狙撃位置についていたロンは無線から現場リーダーの声を聞いた。
「ロン、頼む」
ロンは麻酔弾を装填した狙撃銃を構えた。スコープの中で、警備員たちが入口の前に立っている。
長い黒髪が頬にかかるのを払い、彼女は呼吸を整えて順に狙いをつけた。
乾いた音が2度、夜の外気に吸い込まれる。警備員は声を上げる間もなく意識を失い、その場に崩れた。
襲撃チームは倒れた警備員からセキュリティカードを奪い、ロックされた入口を通って院内へ入った。ロンの最初の2発は侵入を成功させた。
しかし、その発砲は狙撃兵対応班にも位置を探る手掛かりを与えていた。
防災センター兼警備管制室で、金瀬らいは監視画面を見つめていた。警備員2人が相次いで倒れたという連絡が入る。
彼女は画面に映る入口を確かめ、襲撃者がセキュリティカードを使って中へ入ったと知った。
「外からの狙撃を想定して。OZには優秀な狙撃兵がいる。警備員が倒れたのは、その狙撃兵の仕業かもしれない」
そう指示した直後、狙撃兵対応班から射手のおおよその位置を絞り込んだとの報告が届いた。
金瀬はOZ側の狙撃兵によるものだと確信した。
病院外のロンは、現在位置に残れば追跡されると判断し、あらかじめ用意していた別の狙撃位置へ移動を始めた。代替地点はいくつか決めてあり、迷いはなかった。
侵入したOZ襲撃チームは1階で警備要員を見つけた。現場リーダーは、3班の要員を1階の足止めに残す。
自ら率いる第1班と、浅瀬誠が率いる第2班は上階へ向かわせた。
病院内のエレベーターは地下から最上階までつながっていたが、両陣営とも確実性をとり予め使用しない取り決めだった。そのため、襲撃側も警備側も、階段を選んでいた。
OZ大阪本部
22時ごろ、
神戸の現場指揮班から新庄へ連絡が入った。OZは対策特別チームが本命と考えていた神戸中央総合医療センターに襲撃を仕掛けたという。
新庄は報告を受け、別働隊へ合図を送った。
新庄は数日前にOZ大阪本部の位置について、確定情報を得ていた。
OZ対策特別チームはOZ大阪本部襲撃の為に35名を別動隊として別途組織していたのだ。
そして、OZが病院に襲撃するタイミングこそ、確実に本部の守りが手薄になるとして、待機していたのだ。
22時2分
大阪では新庄たいき率いるOZ対策特別チームが本部襲撃を開始した。その後すぐに異変に気づいた出達しんは、無線で本部に残る構成員へ指示を飛ばす。
「応戦するな。地下ルートから逃げろ」
神戸中央総合医療センター
22時3分ごろ、
金瀬は副責任者の水野玲子に全体管理を引き継ぎ、裏口側の階段へ向かった。上階へ向かう前に、7階に配置されている現場対応班第3班の3人と連絡を取る。
「裏口側の階段付近に集まって。私が着くまで、東棟と西棟につながる通路を確認していて」
8階の2人は動かさなかった。主階段から8階へ侵入される事態に備え、主階段の近くに残す。金瀬はフロアマップを頭に入れていた。
主階段と裏口側階段は7階の反対側にあり、東棟にも西棟にも、棟をつなぐ通路を通らなければ入れない。少人数で時間を稼ぐなら、そこが要点になる。
22時5分ごろ、
1階でOZ襲撃チーム第3班と現場対応班第1班が戦闘を始めた。銃声が響き、病院の夜は一変する。
救護・避難支援班は患者と職員を安全な場所へ誘導し、現場指揮班は各階の状況を無線で集約した。
金瀬は階段を上りながら報告を聞いた。OZは1階で足止めを行い、2つの班を上階へ進めている。彼女は、襲撃者が主階段を使って7階以降を目指すと予想していた。
仮に襲撃者が上階に到着した場合、上階に居る人数だけで、単純比較すると警備側の方が人数が少なく不利となる。
しかし、全体の人数では警備要員の方が上回る。上階で時間を稼ぎ、別の階にいる要員を呼べれば、局所的な劣勢を覆せる。
22時18分ごろ、
現場リーダー率いる第1班・第2班が6階へ着いた。予想より警備の配置が厚い。リーダーは自分たち第1班で高齢者を襲撃する案を退けた。
中階層で情報を集め、全体を指揮するのが自分の役割だと考えたのだ。
「ここで奴らを止める。第2班を7階へ通せ」
第1班は6階で足止めを担う。同じころ、水野副責任者の指示で現場対応班第2班も動いていた。
3階にいた3人はその場に残り、4階と5階にいた5人が6階へ上がって加勢する。ほどなく両班が6階でぶつかった。
同じく22時18分ごろ、
金瀬は裏口側の階段を通って7階に到着した。
彼女を含めて、ここで動ける警備側の要員は4人。先に連絡を受けた第3班の3人は、指示どおり裏口側階段の付近に集まっていた。
金瀬は互いの位置を確かめ、病棟をつなぐ通路を見渡す。
22時20分ごろ、
浅瀬率いる第2班が主階段から7階へ到着した。主階段と裏口側階段はフロアの端と端。東棟、西棟へ向かうには、その間にある通路を通る必要がある。
浅瀬は仲間の息遣いを聞きながら、通路の先にいる対策特別チームを見た。
あそこを越えなければ、標的のいる病棟に届かない。だが、金瀬たちもまた、そこから一歩も退くつもりはなかった。




