やりなおし。
別れを切り出してから約数週間は経った。俺は会社で事務作業をしていた。
鈴は撮影用のマンションで寝泊まりしているらしい。あれから一度も顔合わせていない。
元々一緒に居る時間が無くて寂しい感情はあったけど、今はより一層それが強くなっている。
ちゃんと飯は食べてるのだろうか?ちゃんとやっているのだろうか?そんな心配ばかりしてしまう。
けれども正直別れてからなんとなく重りは無くなった気がする。不満が一つ解決したわけだからなのか、それとも失恋をエネルギーに変えてるからなのかわりかし仕事が順調である。
別れてからは一切SNSはやってない。鈴の顔を見たら余計に辛くなるからだ。いっそ本当に早く恋人が出来ればいいのに、そうすれば俺も踏ん切りがつく。
そんな時だった。スマホから着信音が鳴ったのだ。仕事中ではあったが、着信主がフルーツバスケットのマネージャーだったのだ。
慌てて移動して出る。そして衝撃的なことを言われた。
「倒れた…?」
鈴が今朝撮影用のマンションで倒れてしまったらしい。今は病院で治療していること。
もう自分には関係ないはずなのに、気づけば俺は鈴が居る病院に向かっていた。
病室に入ると、鈴の仕事仲間である翔太君と楠雄君、そして点滴に繋がられてベッドで横になっている鈴が目に入る。
「鈴っ…」
「一吾さん…なんでここに?」
「マネージャーさんから聞いた。倒れたって聞いて…」
ひとまず命に別状が無さそうで安心する。
「…じゃあ僕たち一旦席離れてるわ」
そう言って2人はささっと病室から出ていった。
四人部屋だが鈴しか使っていない為、2人っきりになってしまう。
「…だいぶ疲れてるな」
最後に会ってから随分やつれていた。あれからも忙しかったのかもしれない。
「…一吾さん…オレ、ヤッてないから!まさか未成年だと思わなくて!」
「…?まて、なんの話だ?」
「……ネットニュース見たほうが早いよ…」
俺はそう言われて確認すると、そこには目を疑う内容が書かれていた。
未成年者に飲酒を勧めてそのままホテルに連れ込んだ?しかも大炎上してるらしい。
「…大変だったんだな」
「!、信じてくれるの…?」
鈴は目を丸くする。
どこまでが嘘で本当なのかはわからないが、少なくとも鈴は未成年者に酒を飲まそうとするような奴ではない。
「あぁ。色々あって不安かもしれないが今は安静にした方がいい」
「…うん…………」
しばらく沈黙が続いた。そういえばこうして2人っきりなるのも随分久しぶりだ。今は撮影も生配信もない。2人っきりになる時間が沢山ある。
けれども、俺達はもう他人同士だ。ただ様子が見たかっただけだ。問題が無いのならここにいる理由はない。
「じゃあ、俺帰るな。この時間なら仕事に戻れるし。」
ありがたいことに急に早退すると言ったのにも関わらず嫌な顔せずに承諾してもらった。
俺は椅子から立ち上がり部屋から出ようと歩き出す。
「ま、待って!!」
鈴が呼び止める。振り返ると今にも泣きそうな顔をしていた。
「行かないで、一吾さん…オレ、一吾さんと一緒に居たい…」
「鈴…?」
「オレまだ一吾さんが好きだ!わかってる!自分勝手だって!でも、でも離れてからやっと気付いたんだ!もう一度やり直したい…オレ配信者やめるよ!」
「り、鈴?!」
突然なんてことを言うんだ。俺は動揺する。
「どうせこのままリンゴはおしまいだし、だったらやめて裏方に回れば良いんだ!それが嫌なら仕事着く!そうすれば一吾さんと一緒に居られる…」
「……それはダメだ」
「一吾さん…?」
俺は鈴の近くに寄ってそしてベッドに座る。そして点滴が繋がれてない方の手を握った。
「鈴、確かに俺は一緒に居られる時間が無くて寂しかった。だが一度も配信者をやめてほしいとは思わなかった。」
「えっ?」
「お前が輝いているのはきっと配信者でリンゴでいる時だ。一生懸命で、ファンを大事にしてる。忙しいからって弱音を吐かない。まぁ天狗になってるなとは思ったけどな?」
そうだ。俺はそんな鈴が一生懸命頑張る姿を好きになった。初めて会った時はまだまだ駆け出しの新人配信者だった。
全然再生されなくて、なんなら最初はわりかし当時人気配信者にパクリだとも言われてきたらしい。
けれどもめげずにフルーツバスケットのリーダーとして頑張ってきた。
だから支えたいって思っていた。けれども迷惑かけたくないから、俺の方が歳上だからって何も言わなかった。
でもそれじゃダメだったんだ。ちゃんと思ったことは、感じたことは言うべきだった。
「ファンはお前を待ってる。厳しい意見はあるかもしれない、これから大変な思いをするかもしれない。だけど、俺が支えるから。」
「!!、一吾さん…!」
「やり直そう。鈴」
そう言った瞬間、鈴は大粒の涙を流した。俺はそのまま抱きしめた。




