鈴視点 油断は禁物
恋人である一吾さんから別れを切り出されて約2週間は経った。オレはあれから撮影用に借りているマンションで寝泊まりしていた。
「おーいリーン、水分抜けたかのようにやつれてるじゃーん」
「ぐえっ?!」
ソファでうつ伏せになっているオレの上を容赦なく座る奴は同じ配信グループのバナナ【翔太】だった。
「いい加減立ち直ってよ、そんな顔してたらファンに悟られるよ?ただでさえ前出した動画ちょっと叩かれてたんだから。」
別れるきっかけになった動画は一部のファンが叩いていた。しかもあろうことにコラボ先の配信者に迷惑かける始末。
それほどまでにオレ達フルーツバスケットは人気になってしまったというわけだ。
「翔太の言うとおりだ、それでも人気配信者かお前は?」
そう言ってくるのは同じく配信グループであるアボカドの【楠雄】だった。
「タチナオッテル、モウダイジョウブ」
「ひらがなと漢字を使えてない限り大丈夫だと判断出来ないが?」
「マジウける」
実際、別れを切り出された時はめちゃくちゃ辛かった。確かにずっと一緒に居る時間はなかった。あっちの方もずっとしてないし…
けれども理解してくれてたと思ってた。100万人も登録者が増えて、寝る間も惜しいぐらい忙しくて、けれどちょっと息を着くとすぐに他の配信者に視聴者は移動してしまう。トップ配信者だって休みは無いって言っていたぐらいだ。
けれども違った。一吾さんはそれが耐えられなかった。
「…ヨシ!久しぶりに飲みに行くか!」
「いいね!そうしよう!」
オレの断り無しに2人はオレの腕を掴んで引っ張っていく。
まぁでも、飲んで騒いだほうが吹っ切れるかもしれないな。
ーーー
どこかのクラブで翔太と楠雄は酒に酔って物理的に踊っていた。んでオレはと言うと気持ち悪くなって椅子に座って休憩していた。久しぶりに酒飲んだわ。
しかし、酒とクラブの雰囲気のおかげで気持ち的に楽になった。と思い込むようにはなってきただろう。
お酒を口に入れていると隣に座っていた女性が声をかけてきた。
「随分お酒を飲んでるのね?」
「色々あって、お気になさらず」
「ふふっ、なら私が慰めてあげましょうか?」
そう言って腕を寄せてきた。彼女の胸が当たる。
女性はクラブに相応しい大胆な格好している。思わず唾を飲み込んでしまった。
ちなみオレはゲイではない。少なくとも一吾さんに会う前は女としか付き合ったことがない。だから普通に女性にも惹かれる。
「慰めるって、たとえば?」
「えー、身体で、とか?」
笑いながらそう言ってくる。多分彼女も酔ってるな。だがオレも酔ってる。お互い酔ってる。なら冷静な判断なんかできるはずがない。
「…じゃあお願いしちゃおっかな?!」
もうこうなったら違う人とするしかない、どうせ別れて今オレはフリーだからな!なんの問題ない!
「じゃあお酒奢ってー!」
「いいよ~」
その後その女性にお酒を奢って、少し話し合う。
そして良い感じになってオレ達はホテルに向かう。
「じゃああたしシャワー浴びてくるから~」
そう言って女性はお風呂に向かった。その間オレはベッドで横になる。
クラブの雰囲気から抜け出してからちょっと冷静になってきた。
「……一吾さん、今何やってるんだろ…」
この時間じゃもう流石に寝ているのだろうか。
あの人は優しい人だ。リンゴとして人気配信者になったオレを以前と変わらず接してくれた。どんなに忙しくても、あの人は笑って帰りを待ってくれてた。
一吾さんの方が年上だから甘えていた。オレは…
「上がったよ~ってあれ、何してるん?」
女性がシャワーから出てきた時には、オレは帰る支度をしていた。
「ごめん、やっぱり出来ない。ここのホテル代は出すから。それじゃあね」
呼び止める声を無視してオレは撮影用のマンション方面に歩く。
やっぱり無理だ。オレはまだ一吾さんが好きなんだ。酒やクラブの雰囲気、女性の温もりだけじゃ誤魔化せない。
出来ればより戻したい。けれども一吾さんはそれを望んでない。気づけばオレは目から涙を流していた。
時間が解決してくれるのを待つしかない…
ーーー
あれから数日は経った。身体が微妙に怠い気がする。けど今日も仕事があるからなぁ。
そう思って冷蔵庫からエナジードリンクを取り出した瞬間、ドアがものすごい勢いで開かれる。
「おい鈴!!?!お前今やばいことになってるぞ?!」
楠雄が息を切らしながらスマホをオレに渡してきた。どうやら記事のようだが…
そして目に疑う内容がそこに書かれていた。
【大人気配信者グループフルーツバスケット[リンゴ]、未成年者に飲酒を勧める。そしてその後ラブホに連れていった。】
「は?え、は?」
未成年者に酒を勧めた?そんなはずはない。確かに女性にお酒は奢ったが…スクロールしていくといつ取られたのかわからないが、この前行ったクラブのようだった。そして女性と2ショット写真が貼られている。
「…ま、まさか、この間の子、未成年者だったのか?!」
「そうみたいだな、はぁ…」
あの時すでに女性はお酒を飲んでいる様子だった。だから油断してた。ちゃんと確認するべきだったのだ。
で、でもヤってはいない!
「ちょっと!今大炎上してるんだけど!」
今度は翔太が慌てて部屋に入ってくる。
「マジやばいじゃん!げっ、トレンドに入ってるし!」
オレは自分のスマホを開く。そしてSNSを覗くと沢山の悲しみコメントや失望したといったコメントが寄せられていた。そしてそれ以上にオレリンゴを誹謗中傷したコメントが沢山ありすぎた。
[まじおわったなww][まぁやらかすと思ってだけどな。][リンゴ芯まで腐ってたwww]
「まいったな、知らなかったとはいえお酒を奢ってしまった上にラブホに連れ込んだとか、世間は許さないぞ。」
「えー!まずは謝罪動画出さないといけない感じ?!!」
「謝罪動画の前に下手したらニュースになるかもしれねぇ…」
2人はひとまずどういう対応していけばいいのか話し合っていた。
けれどもオレはスマホから目が離せなかった。
ここまで問題なくやってきたのに、2人に迷惑かけてしまった。これも一吾さんを後回しにしていたから…?
わからない、わからない…どうすれば良い…?
助けて、くれ…一吾さん…
バタン
「おい?!鈴?!鈴?!!」
気づいたらオレは床に倒れていた。段々と意識も遠くなっていく…




