第17話「毒を喰らわば」
その後。
カースたちが意識を取り戻した場所は、グルントハルト領の外れ、フェルゼンクローネの岩塔群を望む谷間にある、アズラエルの隠れ家だった。
古びた剥き出しの石造りの外観からは想像もつかないほど、内部は広大で、かつ異様な空気に満ちていた。
薄暗い廊下の壁には、精霊力を帯びた無数の精霊石が無造作に掛けられ、用途すら分からない怪しげな器具が、まるで骨董品のコレクションのように棚の隙間を埋め尽くしている。
高い天井からは、冷たい紫色の光を放つ特殊な鉱石がぶら下がり、一定の間隔で不気味な明滅を繰り返していた。屋敷というより、狂気の錬金術師の研究所に近い。
ただ、不気味さの一方で、ところどころに無造作に置かれた家具や調度品には、そこが七大貴族の一角が所有する場所であることを物語るような、極めて上質な品々が揃えられていた。
もっとも、それらはあまりにも雑然と配置されている。高価な宝石が飾られた黄金の花瓶の隣に、油断すれば爆発しそうな用途不明の精霊石が転がり、そのすぐ足元には使い込まれた狩猟用の複合弓が無造作に立てかけられている。
空間全体に統一感など一切ない。まるで、持ち主であるアズラエルが「その時、自分が面白いと思ったもの」だけを気まぐれに拾い集め、好き勝手に放り投げたような部屋だった。
そして――その隠れ家の奥、広大な一室の中心に設えられた特設の寝台に、負傷した四人は寝かされていた。
「ふうん。これは結構ひどいね」
アズラエルの呼び寄せた専属の医師が、ぐったりと横たわるカースの深い裂傷や全身の重傷を確認しながら、青い顔で呟いていた。
「この出血量で今、生きていること自体が奇跡というか、不思議なくらいです......」
「治せる?」
「これほどの深いえぐれや呪具による損傷を、普通の治癒術でどうにかするのは......正直言って難しいでしょうな」
「じゃあ、普通じゃなくていいよ」
アズラエルは、治療の難しさなど自分には関係のないことのように、ふっと笑った。
「さあ、どいて。死なれたら困るんだよ。まだ、あの呪術を全部見せてもらってないからね」
医師が渋々頷き、その場をアズラエルに譲る。アズラエルはゆっくりとした仕草で、その周囲へと手をかざす。その手元から、気色の悪いほどに濃密な紫色の精霊たちがうねりを上げて集まってきた。
「――紫電の蘇生」
低く紡がれたその言葉と共に、集まった紫の光が、傷ついた肉体を、まるで縫い上げるように包み込んでいく。
それは、王都の神殿などで使われる清らかな通常の治癒術とは明らかに異なる、どこかおどろおどろしい異質な精霊術だった。
傷口の表面をただ直接塞ぐのではない。体内から失われた血液を無理やり補い、破壊された筋肉や組織の再生を強制的に促し、拒絶反応を起こしかける生命活動そのものを力ずくで支え上げる、荒療治そのものの術だった。
「......これほどの規模の、歪んだ精霊術を......こんな短時間で......っ」
「便利でしょ?」
アズラエルは、まるで手に入れたばかりの珍しい玩具を自慢げに見せる子供のように、楽しそうに笑った。
その治療の最中、そして治療が終わった後も、シークだけは頑なに意識を失っていなかった。
痛みという感覚を持たないその肉体は、どれほど致命的な深手を負っていようとも悲鳴を上げない。ただ肉体の崩壊だけが静かに進む中、それでもアズラエルが病室に近づくたびに、シークは冷徹な敵意の目を向けていた。
そして、アズラエルと医師が、カースの治療を何とか終えた、その直後だった。
「近づくな!」
シークの手が、冷たく懐の奥へと伸びる。
取り出されたのは、光を吸い込むような短刀だった。
満身創痍の身体がどれほど壊れていようとも、シークにそれを止める理由はない。痛みを知らぬ冷たい瞳で、シークはアズラエルへ向かって牙を剥いた。
「カースに......これ以上何かするつもりなら......殺す」
「へえ」
アズラエルは、殺気を放つシークを一瞥する。ほんの一瞬だけ、視線を留めた。
「君、本当に不思議な体をしてるねえ」
それだけ軽やかに言い捨てるやいなや、アズラエルは完全に興味を失ったかのようにシークを無視した。
「じゃあ、カースが目を覚ますまで、みんなでおとなしく待とうか」
「......っ」
シークの美しい眉間に、かすかな警戒の皺が刻まれた。
こいつは、一体何を考えているんだ。何を目的として自分たちを拾い、治療し、ここに囲っているのか。それが、シークには1ミリも理解できなかった。
やがて――アズラエルが用意した部屋で、四人が目を覚ました時には、既に致命的だったはずの傷の手当ても終わっていた。
「......」
一度体力の限界で気絶をしてしまったシークは、目を覚ました直後から、うまく動けない身体を無視してアズラエルへの警戒を剥き出しにしていた。
身体を起こすことすらままならない満身創痍の状態でありながら、それでもなお、倒れているカースの前に一歩でも立ちはだかろうと身構える。
「カースに、これ以上近づくな」
「うん」
アズラエルは、ただ軽く頷く。
「近づかないよ」
そして、そのままシークの存在を綺麗に忘れたかのように、視線を他所へ向けた。
「......っ」
シークの美しい眉間に、鋭い皺が深く寄る。
これほどの殺気と敵意を向けられているというのに、男はまるで相手にすらしていない。それが、シークにとってはこの上なく不気味だった。
普通なら、警戒されれば警戒で身構える。敵意を向けられれば、相手もまた敵意や緊張で返すものだ。だが、アズラエルにはそのどちらの反応も欠落していた。まるで、シークが自分に対して牙を剥く脅威になる可能性そのものを、端から微塵も考慮していないかのようだった。
やがて――
「......ここは、どこ?」
静かに、カースが意識を取り戻した。
「おはよう、呪術師くん」
すぐ傍らの特等席から、アズラエルの弾んだ声が降ってくる。
「.....きみは」
「そう。君たちをあの荒野からここまで運んできたのも、ほかでもないこのボクだよ」
カースは冷や汗に濡れた身体をゆっくりと起こし、異様な気配を放つ周囲を冷静に見回した。
「なんだ、ここは」
「ボクのプライベートな隠れ家さ」
「......帰るぞ」
黙ってシークやカースとアズラエルのやり取りを見ていたウォルターが、床を蹴るように即座に立ち上がった。
背中の傷と脇腹の痛みに顔をわずかにしかめながらも、いつでも大剣の柄を引き抜けるように、その太い腕を腰元へ添える。
「賛成だ」
ガルトも、壁に手を突いて重い身体を持ち上げる。
「こんな胡散臭い魔窟に、一刻たりとも長居する理由はない」
シークもふらつく足取りでカースの傍に移動し、その肩にそっと手を添えた。
「......俺が支える。立てるか、カース」
「ええー?」
アズラエルは、物珍しそうに、きょとんとした顔でその三人を見渡した。
「ちょっと待ってよ」
「なんだ」
「君たち、少し前まであそこで本当に死にかけてたんだよ?」
アズラエルは首をコテンと傾げ、心底不思議そうに瞬きをする。
「そんなボロボロの身体で、どこに行くのさ」
「宿に決まっている」
「なんで?」
「なんでって......」
アズラエルと会話をしていたウォルターは、あまりにも常軌を逸したマイペースさに、一瞬言葉に詰まる。
「......お前がどう考えても怪しいからだ!」
「そう?」
アズラエルは、これ以上ないほどあっさりと首肯した。
「まあ、いいや」
そして、わずか一瞬でぱっと表情を明るく華やがせる。
「そんなことより、お腹空いたでしょ。みんなでご飯でも食べようよ」
「......は?」
あまりにも場違いで、現実感のない言葉だった。ウォルターは頭痛がする、とつぶやくと眉間に大きくしわを寄せた。
ついさっきまで殺し合いをしていたはずの危険な男が、まるで長年の友人を招くかのように、軽やかに食事へ誘っている。
そんなウォルターの反応を興味なさそうに無視すると、アズラエルは壁際にあった重厚な扉を軽々と押し開けた。
その先には、外の研究所のような気配とは打って変わって、広々とした豪華な食堂が広がっていた。
長い食卓には純白のクロスが隙なく敷かれ、磨き上げられた銀製の食器が規則正しく並べられている。天井の精霊石の照明から、温かみのある柔らかな光が料理の上へと優しく落とされていた。
その食卓の中央にドンと置かれていたのは、一羽の立派な雉の丸焼きだった。
こんがりと黄金色に焼かれた皮は香ばしい匂いを放ち、その表面には薄く美しい焼き色がついている。
胸肉の脇には新鮮な香草が添えられ、綺麗に切り分けられた肉の周囲には、じっくりと火を通された根菜や茸が彩りよく盛り付けられていた。
雉の肉からは、野性味と芳醇さが入り混じった濃厚な香りが鼻腔をくすぐる。香ばしく焼かれた皮には上質な脂が薄く浮いており、そこにナイフを入れれば、ぱり、と小気味のいい軽やかな音が響き渡るのが想像できた。
別の銀皿には、焼き立てのパンが山盛りにされている。外側は硬く香ばしく焼き上げられているが、中の生地はもっちりと柔らかく、湯気が立つほどまだ温かい。
さらに、陶器の壺からよそわれた温かなスープには、厳選された野菜と肉の深い旨味がたっぷりと溶け込んでいる。それだけでなく、食後を彩るように、木の実を使ったタルトや焼き菓子まで美しく用意されていた。
「......」
四人とも、その光景を目の当たりにして完全に言葉を失い、無言になった。あまりにも、日常的で、あまりにも普通の「見たこともないような豪華で温かい食卓」だった。だからこそ、今の命を削り合う殺伐とした状況にはまったく似つかわしくなかった。
「どうぞ、座ってよ」
アズラエルは自ら進んで、長椅子の引手を優雅に引いて見せる。
「せっかくボクが腕をふるって用意したんだからさ、遠慮しないで食べてよ」
「誰がこんなところで食うか!」
ウォルターが怒声を張り上げる。
「どうせ皿の料理に毒でも仕込んであるんだろうが!」
「仕込んでないよ、そんなめんどくさいこと」
「信用できるか!」
「じゃあ、疑うなら、今ここでボクが先に食べてみせるね」
アズラエルは全く気にした様子もなく、優雅に席に座ると、自らナイフとフォークを手に取り、美味しそうに雉の肉を一口大に切り分けた。そして、躊躇なく自分の口へ運ぶ。
「うん。今日も上出来、美味しい」
満足そうに咀嚼すると、アズラエルは何気なく、じっとこちらを見つめているカースに視線を向けた。
「ねえ、美味しい?」
「......まだ、一口も食べていないよ」
「ああ、そうだったね、ごめんごめん」
アズラエルは楽しげに喉を鳴らして笑う。
「実はその雉さ、他の誰でもない、今朝この森でボク自身が狩ってきたものなんだよ」
「......きみが、自分で狩ったの?」
「うん」
アズラエルは、まるで子供が自慢話をするかのように嬉しそうに大きく頷く。
「朝から森に入ってね。結構いい型のやつだったんだよ、これが」
仕留めた時のことを思い出しているのか、アズラエルは目を細め、少し嬉しそうに続ける。
「最初は少し逃げ足が速くてさ。途中で一度、高い木の上に逃げ込まれちゃってね。そこからどうやって追い詰めたかと言うと――」
「......俺たちは今、料理の狩猟講話を聞きにきたわけじゃないんだが?」
ウォルターが、あまりのマイペースさに呆れ返ったように口を挟む。
「あ、そうだった」
アズラエルはけろっとした顔で笑う。
「でもさ、獲物を狩るところから、こうして最後の調理まで全部自分でやるからこそ、肉の味が引き立ってやっぱり美味しいんだよね」
その声音には、貴族としての義務感やこれよがしな贅沢自慢などは一切なく、純粋な「狩猟へのこだわり」と「趣味の領域」しかなかった。
「君たちが目を覚ます頃には、ちょうど最高に美味しい焼き加減になると思ってさ」
その口ぶりはまるで、長年の親しい友人を自宅に招いて手料理を振る舞っている主人のそれだった。だが、言葉とは裏腹に、そのアメジスト・パープルの瞳だけは、テーブルの向こうのカースを片時も離さず執拗に追い続けている。
「それでね、カース」
「何?」
「君が野外で見せたあの呪術なんだけどさ――」
アズラエルの瞳が、再びギラギラとした熱狂的な輝きを帯びる。
「あれは一体どうやってあんなものを引き出したの?」
「......」
「どう見たって、普通の精霊使いの術じゃないよね?」
「答えるつもりはないよ」
「じゃあ、あの背後に浮かんでいた犬の正体は?」
「答えない」
「胸元に隠していたその呪核の仕組みは?」
「答えない」
「もしかして、君のその肉体自体が強烈な呪いを受けて変質しているのかな?」
「......」
「ねえ、お願いだから、もう一回あの美しいところを見せてよ」
「近づくな!」
カースに絡み続けるアズラエルを睨みつけ、シークが我慢の限界とばかりに鋭く一歩踏み出し、冷徹に睨みつける。
「カースにこれ以上変な真似をするつもりなら、たとえお前がどんな手を使おうと――」
「しないよ、そんな無粋なこと」
アズラエルは、シークの顔をまともに見る気すらなさそうに、ひらひらと手を振って答える。
「ただ、もっと近くで、あの素晴らしい瞬間を観察したいだけ」
「だからそれが信用できないと言っているんだ!」
「そう?」
アズラエルは首を傾げ、心外だと言わばかりに眉をひそめる。
「じゃあさ、君たちがこれから何か危険なことをやる時は、ボクが手伝ってあげるからさ」
そして、その視線を再びまっすぐカースに合わせる。
「その代わり、もっとあの呪術を見せてよ」
「ふざけるな!」
ウォルターが耐えかねてガタッと椅子を蹴飛ばした。
「俺たちは帰るぞ、こんな場所!」
「そうだ」
ガルトも、冷めきった目でうなずく。
「いつまでも、こんな頭のイカれた男の遊びに付き合ってられるか」
アズラエルは立ち上がろうとする二人を一瞥し、それからまた、面白そうにカースの顔を覗き込んだ。
「呪術師くん、は、どうするの?」
「......」
カースは無言のまま、ピクリとも動かなかった。
アズラエルは、そこでようやく何かを思い出したように、自分の額に軽く手を当てる。
「あ、そういえば、まだちゃんと自分の名前を名乗っていなかったね」
彼は、血に塗れた荒野で見せたのとはまた違う、完璧で優雅な貴族の挨拶をしてみせた。
「僕はアズラエル・フォン・ドンナーハルト」
その名を聞いた瞬間、ウォルターの表情が険しく変わる。
「......お前は、七大貴族の、『雷』の家系だろ?」
「そうだよ」
アズラエルは薄く笑う。
「それがどうかした?」
「......」
あまりにもあっけらかんとした返答に、場が再び静まり返る。
カースは、アズラエルのその底の知れない瞳をじっと見据えた。
「貴族は、僕の敵だ」
「そうなの?」
アズラエルは、少しだけ目を丸くして、どこか他人事のように小首をかしげる。
「じゃあさ、その貴族を片っ端から消すつもりなら、ボクが喜んで手を貸すよ」
「......なんて?」
「僕はね、貴族とか、そんなのどうでもいいんだよ」
アズラエルは、手元のナイフで再び雉の肉を小さく切り分けながら、淡々と続ける。
「そんなものには、端から一ミリも興味がないからね」
そして、顔を上げてまっすぐカースを見る。
「でも、君がこれからその手で貴族をすべて消し去りたいなら――それはすごく、面白そうだ」
「......」
「だから、手伝うよ」
紫色の瞳が、愉悦に満ちて爛々と細められる。
「その代わり――」
「カースに近づくなと言っている!」
シークが声を張り上げ、殺気をたぎらせる。
「お前も、結局は俺たちにとっては敵の一人だ!」
「うん。そうかもしれないね、今のところは」
アズラエルは、怒号を浴びせられてもなお平然としたものだった。手元の料理を優雅に切り分けている。
「でも、今のボクには、君たちとここで敵対する理由もメリットもないよ」
「......お前が信用できないんだ!」
シークがさらに一歩、短刀を抜きかけて踏み出そうとした。だがその時、カースが静かに片手を上げ、シークの動きを制した。
「待って、シーク」
「カース......っ? 本気か?」
カースは何も答えず、ただじっと、目の前の怪物の顔を見つめていた。信用できるかと言われれば、答えは否だ。
危険かと言われれば、これ以上の危険人物はいない。何を考えているのか、その本心の底など微塵も読み取れない。
しかし――この男は、自分たちの致命的な傷を精霊の力で治療した。逃げ帰る場所のない自分たちに、こうして豪勢な食事まで用意して迎えた。
そして何より、この男は自分の持つ呪術に対して、恐怖ではなく異常なまでの執着と興味を示している。少なくとも、今のこの瞬間に自分たちを殺すつもりがないのは明白だった。
それに、この男の実力は、先ほどの戦いで嫌というほど思い知らされた。
間違いなく、今の自分たちの大きな力として「利用」できる。カースは、目の前に置かれた温かな食卓へと、ゆっくりと視線を落とした。そして、誰の制止も聞かず、おもむろに自分の目の前の椅子を引き、腰を下ろした。
「カース......!?」
シークが息を呑み、信じられないものを見る目で声を漏らす。だが、カースはそれに答えず、銀のナイフを手に取った。香ばしく、絶妙な火加減で焼き上げられた雉の肉を、手際よく一口分だけ切り分ける。立ち上る香草の香りが鼻腔をくすぐる。それを、迷いなく自分の口へと運んだ。
「......」
口の中で、じっくりと咀嚼する。
「......おいしい」
その率直な呟きを聞いた瞬間、アズラエルの顔がぱっと子供のように明るく輝いた。
「本当?」
「......うん、嘘じゃないよ」
「よかった」
アズラエルは、この世の何よりも嬉しいものを見つけたかのように、満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、遠慮しないで、食べながらこれからの話をしようよ!」
カースは無言のまま、もう一口、目の前の雉の肉をフォークで口へと運んだ。その異様な光景を前に、シークもウォルターもガルトも、どう反応すべきか分からずに呆然と立ち尽くすしかなかった。
そして、カースは周囲の困惑など一切気にかけず黙々と食事を続けた。
一口。また、一口。
鼻腔をくすぐる香草の爽やかな香り、香ばしく焼かれた皮の食感、そして口いっぱいに広がる濃厚な肉の旨味。目の前に座る男がどれほど底知れず危険な怪物であろうと、今の自分には関係ない。
使えるものは、悪魔の魂であっても使う。冷酷な復讐をこの手で完遂するために必要だというのなら――。
カースは皿の上に残された最後の一切れの肉を、迷いなく口へ運んだ。そして、綺麗に平らげられた、空っぽの銀皿を見下ろす。
「......毒を喰らわば、皿までだ」
誰に聞かせるでもなく、カースは小さく呟いた。その言葉を聞いた瞬間、アズラエルのナイフを持つ手が、ほんのわずかにぴくりと止まった。
「――あははっ! ははははっ!」
腹の底から湧き出るような、あまりにも楽しげで狂的な笑い声が、だだっ広い食堂いっぱいに盛大に響き渡った。パチパチと、アズラエルの白い指先で微かな紫電が嬉しそうに弾ける。
「最高だよ、呪術師くん......!」
アズラエルは、もう抑えられないといった様子で、心底嬉しそうに目元を細めて笑った。
「君のその歪んだ復讐劇、最後まで一番特等席で付き合ってあげるよ」
こうして――すべてを失った呪術師カースの血塗られた復讐の旅路に、七大貴族の一角でありながらすべてを嘲笑うはぐれ者、アズラエル・フォン・ドンナーハルトが、最高にして最悪の相棒として加わることになったのだった。
(第18話「誰も見捨てはしない」へ続く)




