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第70話 T塾出身者

10月31日、土曜日。

午前9時前――


小早川陽介は、5班の執務室で技官・曽我稔彦の報告を受けていた。


机の上には、復元されたT塾のデータを元に作られた一覧表が広げられている。


紙の白さが、やけに冷たく見えた。


「青山さんが復元してくれたデータから、T塾出身者の氏名が判明しました。これを現在晴明女子高に通う生徒の名簿に照らし合わせると、これだけの人数に絞り込めます」


曽我が淡々と説明する。


小早川は受け取った資料に目を通し、思わず呟いた。


「思った以上に、たくさんいるな……」


3年生で13人。

2年生で10人。

1年生で5人。


合計28人。


その中には、すでに殺害された斉藤恵梨香、三田村安奈、佐野里穂、中林梓沙の名前も確認できた。


数字として並ぶと、余計に気味が悪い。


4人だけが特別ではなく、まだ線の中に多くの生徒が残っていることを、紙の上の数字が突きつけてくる。


「さて、こうなると次は彼女たちひとりひとりに対する事情聴取だな」


小早川が腕を組む。


「殺された4人以外でも、あと24人もいる。これは骨が折れるぞ……」


24人。


たったそれだけ、と言える数ではない。

しかも次の水曜日まで残された時間は短い。


「次の水曜日もまた事件が起きると仮定すれば、時間がありません。他の班の協力も必要ではないでしょうか?」


清水楓が静かに言った。


小早川は頷く。


「たしかにな。だが、被害者に“例のメール”が送られてきたという事実は、今のところ俺たちの班だけが掴んでいる。もし送られてきた生徒から自己申告さえあれば、被害に遭う可能性がある人物をぐっと減らせるんだが――」


言いかけた、その時だった。


ぴりりりり……。


スマホの着信音。


小早川の机の引き出しから鳴っているようだった。


「もしかして、真田さんの業務用スマホ?」


清水が呟く。


それを聞いた小早川は、慌てて引き出しに保管していた真田の業務用スマホを取り出し、通話に応答した。


「もしもし……。ええ、真田瑞希の番号ですが、彼女は今不在でして、私、小早川が出ています……」


通話口でのやりとりが続く。


そのうち、小早川の表情が変わった。


「……わかりました。城戸谷さん、ですね? それではお待ちしております」


通話が切れる。


城戸谷――


その苗字が耳に入った瞬間、小早川の脳裏に、さっき曽我から受け取った“T塾出身者リスト”の名前がよぎった。


同時に、清水の眉も動いていた。


「どういう要件だったんですか?」


清水が一歩近づく。


小早川は、まだ少し張った声で答えた。


「城戸谷留美の母親という女性からだ。娘さんが晴明女子高に通っていて、昨日変なメールを受信したんで相談に来たいという話だ」


一拍置く。


「きっと“例のメール”に違いない」


執務室の空気が、一段動いた。


今までは、こちらが“届いているかもしれない生徒”を探していた。


だが向こうから来るなら、状況は変わる。


清水がすぐに口を開いた。


「城戸谷留美は、以前に真田さんと私で事情聴取をしたことがあります。私も同席させてもらえませんか?」


小早川は頷いた。


「そういえば、たしか真田さんが“何か隠している”って疑っていた子だよな? よし、清水、おまえも同席してくれ」


小早川の目が、わずかに鋭くなる。


止まっていたものが、また動き始める感覚があった。


T塾出身者リスト。

例のメール。

晴明女子の生徒。

そして、城戸谷留美。


点が、少しずつ寄ってきている。


まだ何も掴んではいない。

それでも、今度は手応えのある線になるかもしれない。


小早川の胸の内には、焦りと、それを押し返すような緊張が同時にあった。


今度こそ、遅れたくない。


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