表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/105

第44話 DNA一致

10月27日、火曜日。

午後4時――


空全体が黒い雲に覆われたかと思うと、突如として激しい雨が降り始めた。


朝のニュースでは「夜半過ぎから本降り」と予報されていたため、多くの人々は傘を持たずに外出していたのだろう。

通りでは、慌てて軒先へ駆け込む人影が見える。


時折、雲間を裂くような稲光が走り、その直後、腹の底に響くような轟音が街全体を震わせた。


「いや、まいったな。車を駐車場に停めた瞬間にこれだもんな――」


「本当ですよ。傘を持って出ればよかったですね――」


ずぶ濡れになった安山潤一郎と須賀修一が、肩を叩き合いながら執務室へ入ってくる。

スーツの裾から水滴が床へ落ちた。


5班の執務室には、当直明けで帰宅した矢野一哉を除き、ようやく全員が揃った。


「ご苦労さまでした。何か新しい収穫はありましたか?」


真田瑞希が問いかける。


「いや……こっちは相変わらず目新しい情報はさっぱりですね。ただ――」


安山は視線を真田へ向け、口元をわずかに上げた。


「真田さんは、何か掴んだ顔をしてるな?」


たしかに今朝とは違う。

瞳に、静かな確信が宿っていた。


だが安山は、さらに視線を横へ滑らせた。


「ところで約1名……様子がおかしいのもいるな」


小早川陽介だった。


椅子に深く座り込み、腕を組み、目を閉じている。

顔色は悪く、渋い表情を浮かべていた。


昨夜の失恋と、今朝からの緊張が確実に蓄積していた。

だが沈黙の奥には、何かが整いつつある気配もあった。


その時――


執務室のドアが勢いよく開いた。


「お待たせー」


場違いなほど明るい声が響く。


小早川は反射的に体を震わせ、目を開いた。


「あっ! 小早川くん、いたのね。頼まれた件、ちゃんと調べがついたわよ!」


監察医の佐伯理香子だった。


彼女が歩くたび、香水の匂いが室内へ流れ込む。


小早川は慌てて立ち上がる。


「お、お疲れさまです。さ、さすが佐伯さん……仕事が速いですね」


佐伯は手にしていた資料を軽く掲げた。


「あなたの推測通りだったわよ。預かったロープと布から、佐野里穂のDNAが検出されたわ」


室内の空気が、一瞬で変わった。


「DNA……一致?」


須賀が思わず声を漏らす。


「ええ。繊維の奥に付着していた微量成分を抽出した結果、完全一致よ」


佐伯は得意げに頷いた。


小早川は静かに目を閉じた。


予想はしていた。

だが、確証を得た今、その重みはまるで違う。


「おい、どういうことだ? ちゃんと説明しろ」


安山が身を乗り出す。


小早川は頷き、部屋の脇にある大きなテーブルへメンバーを集めた。


近くのホワイトボードには、事件の時系列と被害者3人の名前が書かれている。

小早川はその前に立った。


右隣には真田。

佐伯は少し離れた席に腰を下ろし、腕を組んで結果を見守っている。


「今回の晴明女子高連続殺人事件だが、少なくとも3件目の犯行の流れは、かなりはっきり見えてきたと思う」


全員の視線が集まる。


「まず、事故に遭った身元不明の若い男。右手の甲に大きなホクロがあった」


真田が静かに補足する。


「山邊が証言した飛ばし端末の購入者の特徴と一致します」


「さらに、その男の所持していたと思われるスマホの番号が、山邊の押収資料に記載された番号と11桁完全一致した」


清水が頷く。


「そして――」


小早川は佐伯の持ってきた資料へ視線を落とす。


「ロープと布から、被害者・佐野里穂のDNAが検出された」


室内に雷鳴が轟いた。

窓がわずかに震える。


偶然ではない。


事故は、犯行直後に起きた可能性が高い。

そして第3の被害者だけ、死亡推定時刻が約1時間後ろへズレていた。


鼻腔と口腔周辺からは、微量の睡眠薬成分も検出されている。


小早川はホワイトボードへ向き直る。


「つまり、3件目は――被害者を事前に眠らせ、拘束か口塞ぎに近い処置をした上で犯行に及んだ可能性が高い。犯行後、本来なら前の2件と同じように予告電話を入れるつもりだった。だが、その前に事故を起こした。そう考えると、今までの“例外”が全部繋がる」


誰もすぐには口を開かなかった。


雨音が窓を打つ。

雷鳴の余韻が、まだ空気に残っている。


「……そこまで見えたってことか」


安山が低く言う。


「少なくとも、3件目についてはな」


小早川は答えた。


「ただし、ここで終わりじゃない。むしろ問題はこの先だ」


ホワイトボードの端に書かれた数字。

山邊が売った10台。

すでに使われた6台。

残る4台。


「手順が見えたなら、次に来る“同じ手順”まで潰し切らなきゃ意味がない」


その言葉に、室内の全員が同じ日付を思い浮かべていた。


次の水曜日。


まだ残っている時間は、長くない。


外ではまた稲妻が走った。

だが今、5班の執務室で張り詰めているのは、嵐そのものではなかった。


今夜、どこまで詰められるか。


それが、そのまま次の水曜日に間に合うかどうかに直結していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ