第42話 11桁の一致
交通課を出て真田と別れた小早川は、足早に班の執務室へ戻ってきた。
廊下の窓から差し込む午前の光が、床に白い帯を描いていた。
室内には清水楓だけが残っていた。
男性たちは聞き込みに出ているらしい。
机の上には開きかけの資料と、飲みかけのペットボトルだけが置かれている。
「お疲れさまです」
清水が顔を上げる。
小早川は短く頷いただけで、借り受けたスマホの入ったビニール袋を机に置いた。
白手袋を装着し、慎重な手つきで中から端末を取り出す。
大破したワンボックスの運転手の所持品と思われるスマホ。
右手の甲のホクロ。
ここまで揃っていて、ただの偶然で済むとは思えなかった。
だが、思うだけでは足りない。
次の水曜日までに潰しきれなければ意味がない。
小早川はまず、側面のボタンを強めに押した。
――起動音。
ディスプレイが点灯する。
「ロックなし、か……」
飛ばし端末として流れるスマホなら、こういう仕様も珍しくはない。
外観は事故に遭ったとは思えないほどきれいだった。
画面割れもない。
小早川は清水の方を振り返る。
「清水。おまえの携帯番号を教えてくれ」
「えっ? い、いきなり何ですか? 業務用の番号なら、小早川さんのスマホに登録してますよね?」
「確認するのが面倒なんだよ。覚えてる方を、今すぐ」
「……それって、告白ですか?」
清水は口元を緩める。
「真っ昼間からそんな冗談言うか。早く!」
「はいはい。●●●-●●●●-●●●●です。業務用ですからね!」
「よし。かけるぞ」
小早川は借り受けたスマホから番号を入力し、発信ボタンを押した。
数秒後――
清水のポケットの中で、着信音が鳴り響いた。
「うわっ!」
慌てて取り出し、画面を見る。
そこに表示されていたのは、見知らぬ11桁の数字だった。
「番号、読み上げろ」
「ええと……▲▲▲-▲▲▲▲-▲▲▲▲です」
清水は素早くメモ帳を引き寄せ、数字を書き留める。
「気が利くな」
「で、これ誰の番号なんです?」
清水が顔を上げる。
小早川は短く答えた。
「この前、山邊から押収した資料に、やつが売った飛ばしの番号が記録されてただろ。たぶん、その中にある」
清水はすぐさま入口近くの大きなデスクへ向かい、積み上げられた資料の束をめくり始めた。
ページがパラパラと音を立てる。
10個並ぶ番号一覧。
ひとつ、ひとつ、目で追っていく。
そして――
清水の指先が、ある行で止まった。
「あっ!」
声が弾む。
「▲▲▲-▲▲▲▲-▲▲▲▲……同じ番号があります!」
完全一致だった。
11桁すべてが、同じ並び。
小早川は静かに拳を握った。
事故に遭った身元不明の男。
右手のホクロ。
山邊が売った飛ばし端末。
そして、11桁の一致。
ここまで重なれば、偶然では押し切れない。
「でも……これ、どこで?」
清水が改めて問いかける。
「運悪く事故に遭った若者からさ」
小早川は静かに答えた。
事故直後、予告電話が途絶えた。
3件目だけが例外だった理由。
その輪郭が、ようやく見え始めている。
「あとは物証だな……」
ロープ。
布。
そして監察医の所見。
真田の報告が揃えば、点はもう一段はっきり線になる。
小早川は白手袋越しにスマホを見つめた。
画面は無機質に光を放っている。
だがその奥には、連続殺人犯の影がたしかに潜んでいた。
「真田さん……頼みますよ」
小さく呟く。
その声には、いつもの軽口ではない切迫があった。
ここで外せば、まだ残っている“4台分”が次の犠牲へ繋がるかもしれない。
その計算が、小早川の顔つきをいつもより険しくしていた。
11桁の数字は、偶然ではない。
けれど、当たりを引いたからといって安心できる段階でもない。
次の水曜日まで、もう時間がない。
ここから、もう一段先まで押し込まなければならなかった。




