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103/105

第103話 霊園にて

11月21日、土曜日――


本来なら、この日は晴明女子高で文化祭が開かれるはずだった。


だが一連の事件の影響で、今年の開催は見送られた。


午前10時。


城戸谷留美は、福岡市内の霊園の入口に立っていた。


1人ではない。

ミス部の4人も一緒だった。


貝原奈緒。

金原梢。

篠田沙知絵。

宮地香里奈。


5人とも制服姿で、それぞれ花束を抱えている。


本当なら、このまま学校へ向かうはずだったからだろう。

誰も、制服を着替える気にはなれなかった。


行き先は、中林梓沙の墓だった。


キリスト教系の大きな霊園は、どこまでも整然としていた。

入口から小高い丘へ続く道を、5人は口数少なく歩いていく。


空は高く、快晴だった。

青は澄みきっていて、降り注ぐ陽の光は目が痛くなるほど眩しい。


晩秋とは思えない柔らかな風が、頬を撫でて通り過ぎた。


丘を登り切ると、墓石の列が視界いっぱいに広がった。


校庭ほどもある敷地の中に、100近い墓石が等間隔に並んでいる。

どれも整っていて、かえってひどく静かだった。


案内板で場所を確認し、5人は

“ AZUSA NAKABAYASHI”

の名を探して歩いた。


中央の列、そのいちばん端。


梓沙の名が刻まれた墓石が、ひっそりと佇んでいた。


5人は順に花束を供える。

それから、その場にしゃがみ込み、目を閉じて手を合わせた。


最初に口を開いたのは奈緒だった。


「梓沙――天国でも、いっぱい“推理”してね」


続いて梢が、小さく言う。


「梓沙先輩のおかげで……私、自分の居場所を見つけられた気がします」


沙知絵は目に涙を溜めたまま、何も言えなかった。


香里奈も、唇を動かして何かを呟いていたが、その声は風に紛れて聞き取れない。


最後に、留美が口を開いた。


「梓沙――」


そこで一度、言葉が止まる。


墓の前に立っていても、まだどこかで信じ切れなかった。

もう本当にいないのだと、頭ではわかっているのに、実感だけが少し遅れている。


もっと気づけたかもしれない。

もっと早く、何かできたかもしれない。


そんな思いが、今も消えずに残っている。


留美はゆっくりと息を吸い、もう一度声を出した。


「次、生まれ変わっても……親友でいてね」


温かな風が、また霊園の中を吹き抜けた。

その風は優しく、5人の肩を順に撫でていくようだった。



しばらくして、5人は静かに立ち上がった。


そのまま入口の方へ戻ろうとした時だった。


同じ列の少し先の墓前に、1人の女性が立っているのが見えた。


黒い衣装に身を包んだ、長身の女。

長い髪を風に揺らしながら、墓前で両手を合わせて祈っている。


やがて彼女は振り返り、そのままこちらへ歩いてきた。


5人の横を、静かに通り過ぎる。


逆光で顔はよく見えない。

ただ、女性ものと思われる薄い香水の匂いだけが、ふわりと鼻先を掠めた。


すれ違いざま、一度だけこちらを見た――

そんな気がした。


すれ違った後も、その香りだけが少し遅れて残った。

気配の方が先に消えてしまったようで、留美は妙に振り返りたくなった。


だが留美は、何となくその女性が祈っていた墓石の方へ目をやった。


そこには、きれいな花束が供えられ、花の上に小さなメッセージカードが置かれていた。


墓石に刻まれた名前を見た瞬間、留美は立ち止まる。


“RIHO SANO”


「待って……」


留美は小さく声を上げた。


「この人、たしか梓沙の前に殺された――」


梢が墓石へ目を向ける。


「佐野里穂さん……」


少し驚いたように言う。


「梓沙先輩と同じ霊園にお墓があったんですね」


「せっかくだし、私たちもお参りしようよ」


奈緒が言った。


誰も反対しなかった。

5人はそのまま、里穂の墓前に手を合わせる。


その時、留美は花束の上のカードに目を留めた。


書かれていたのは――


MA TANTE, REPOSEZ EN PAIX.

――HIMARI


「どういう意味だろう?」


留美が小声で呟く。


すぐ後ろから、香里奈の声がした。


「“おばさま、安らかにお眠りください。ヒマリ”って意味です」


少し間を置いて付け足す。


「フランス語ですね」


その言葉に、今度は沙知絵が戸惑った声を出す。


「お、おばさま? 佐野さんが?」


首を傾げる。


「お墓、間違えたのかな……」


5人は思わず、女が去っていった方角を振り返った。


だが、もう姿はなかった。


周囲を見渡しても、それらしい黒い影はどこにも見えない。

まるで、最初からそこにいなかったみたいに。


奈緒が、ぽつりと言った。


「さっき、すれ違う時に見たんだけど……気のせいかもしれないけどさ」


一拍置く。


「片方の瞳が、“緑”だった気がする」


その一言に、5人の背筋を小さな冷たさが走った。


けれど不思議なことに、その女性を気味が悪いとは思わなかった。


むしろ、どこか神々しいものを見送ったような気さえした。


留美は、墓石から目を離し、仲間たちの方を向いた。


「行こう」


はっきり言う。


「私たちは、梓沙や佐野さんたちの分まで、生きなきゃ」


奈緒も、梢も、沙知絵も、香里奈も、小さく頷いた。


5人は霊園を後にする。


過去は消えない。

悲しみも、簡単にはなくならない。


それでも、少女たちの足取りは力強かった。


青い空の下、新しい時間へ向かって進んでいくように。


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