表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼海連撃ー1941南方作戦ー  作者: 仲村千夏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

第三話

 一九四一年十二月十日。


 南シナ海。


 第三艦隊は、マニラ湾外海から西南西へ進路を変えていた。


 昨夜届いた“巡洋艦級複数”という報告。


 その正体は未だ不明。


 しかし、有馬は確信していた。


 英国東洋艦隊は、必ず動いている。


 問題は――どこにいるかだった。


「索敵線をさらに南方へ延長します」


 黒瀬参謀長が海図へ新たな線を引く。


「燃料消費は増えますが」


「構わん」


 有馬は即答した。


「敵を見失う方が危険だ」


 艦橋内には、常に低い緊張が漂っていた。


 誰もが理解している。


 もし東洋艦隊がこちらの輸送船団へ突入すれば、南方作戦全体が揺らぐ。


 上陸部隊。


 輸送船。


 補給線。


 それらを守るために、第三艦隊は存在していた。


     ◇


 午前六時。


 空母《翔鶴》。


 飛行甲板では、双発艦上偵察機《景雲》が発艦準備を進めていた。


「索敵第五線、発艦用意!」


 整備員たちが最後の確認を行う。


 燃料。


 無線。


 カメラ。


 予備酸素。


 長距離飛行のため、機内には最低限の食料まで積み込まれていた。


 搭乗員は三名。


 操縦員。


 観測員。


 通信員。


 彼らは既に三日連続で索敵飛行を続けていた。


「今日こそ見つかると思うか?」


 若い整備兵が呟く。


 景雲搭乗員の観測士・神崎少尉は苦笑した。


「見つからない方が怖い」


 その一言に、誰も返事ができなかった。


 発艦灯が振られる。


 双発機は唸りを上げ、朝焼けの海へ飛び立っていく。


     ◇


 同時刻。


 マニラ北方。


 日本陸軍は首都攻略を進めていた。


 第三機動部隊所属の艦爆隊は、陸軍航空隊と連携しながら飛行場攻撃を続けている。


「敵機離陸確認!」


 上空援護の艦戦隊が急旋回する。


 敵はP-40。


 数は少ない。


 だが低空から鋭く突っ込んでくる。


「左上方!」


 二〇ミリ機銃が火を噴く。


 長砲身化された新型機銃は高初速。


 命中した敵機の右翼が吹き飛ぶ。


 しかし、空戦は一瞬だった。


 敵は既に数を失っている。


 艦爆隊はそのまま飛行場へ侵入。


 五〇〇キロ爆弾を投下。


 爆炎が滑走路を包み込んだ。


「命中確認!」


 無線が飛び交う。


 日本海軍航空隊は、従来よりはるかに無線使用を重視していた。


 索敵。


 誘導。


 攻撃修正。


 情報共有。


 それら全てが航空戦を変えつつあった。


     ◇


 午前十時四十分。


 南シナ海西部。


 高度七〇〇〇メートル。


 景雲索敵第五線。


 神崎少尉は双眼鏡を覗き込んでいた。


 厚い雲の切れ間。


 その向こう。


「……煙?」


 水平線近くに、細い黒線。


 神崎は即座に身を乗り出した。


「右十五度!」


 機体が緩やかに旋回する。


 やがて見えた。


 艦影。


 一隻。


 二隻。


 さらに後方。


「艦隊だ……!」


 観測員が息を呑む。


 巡洋艦。


 駆逐艦。


 そして。


「戦艦……?」


 巨大な艦影。


 二本煙突。


 低い艦橋。


 英海軍特有のシルエット。


 神崎は叫んだ。


「通信!」


 通信員が即座に送信を始める。


『敵艦隊発見! 位置――』


 だが、その瞬間。


「敵戦闘機!」


 雲間から飛び出した複葉機が突っ込んでくる。


 英海軍艦載機。


 フルマー。


「回避!」


 景雲が急旋回。


 機体が軋む。


 後部旋回機銃が火を吹く。


 曳光弾が空を裂く。


 敵機も撃ってくる。


 弾丸が右翼を叩いた。


「右エンジン被弾!」


「まだ動く!」


 神崎は振り返った。


「送れたか!?」


「送信完了!」


 その言葉に、神崎は歯を食いしばる。


「帰るぞ!」


 景雲は雲へ飛び込んだ。


     ◇


 第三艦隊旗艦《天城》。


「翔鶴景雲隊より緊急電!」


 通信兵が叫ぶ。


「敵艦隊発見!」


 艦橋の空気が凍る。


「位置を出せ!」


 海図へ一気に人が集まる。


「距離およそ三百浬!」


「針路南東!」


「速度二十ノット以上!」


 黒瀬参謀長が低く言う。


「東洋艦隊ですな」


 有馬は黙って海図を見つめた。


 敵は動いている。


 しかもこちらの想定より東。


「狙いは輸送船団か」


「あるいはマニラ増援」


 有馬は静かに命じた。


「第三機動部隊へ通報。第一、第二機動部隊にも敵位置を共有」


「はっ!」


「第五艦隊にも警戒強化を伝えろ」


 通信兵たちが一斉に動き出す。


 情報が艦隊を繋いでいく。


 第一機動部隊。


 第二機動部隊。


 第三機動部隊。


 第三艦隊。


 そして第四機動部隊。


 海に散った艦隊が、無線で一つになっていく。


     ◇


 午後。


 《翔鶴》艦橋。


「第三艦隊より敵艦隊情報更新」


 参謀が海図へ新しい位置を書き込む。


 第三機動部隊司令官は目を細めた。


「……思ったより早いな」


「敵はかなり強行軍のようです」


「こちらの上陸部隊を叩く気だろう」


 司令官は静かに振り返る。


「艦攻隊準備」


「雷装ですか?」


「まだだ」


 低い声。


「まずは見失うな」


 その判断は慎重だった。


 敵位置はまだ不完全。


 夜。


 悪天候。


 さらに敵防空もある。


 焦って攻撃隊を出せば、逆に損害を出しかねない。


「景雲隊を追加発進。夜間接触を維持させろ」


「はっ!」


 艦橋の外では、赤く染まった空の下、新たな索敵機が準備を始めていた。


     ◇


 夕暮れ。


 第三艦隊。


 有馬は海を見つめていた。


 東洋艦隊。


 ついに姿を現した。


 だが、本当の問題はこれからだった。


 敵を見つけること。


 敵を見失わないこと。


 どの艦隊が、どの距離で、どのタイミングで叩くか。


 それが、この新しい海戦だった。


 遠く西の空で、雷光が光る。


 嵐が近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ