表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼海連撃ー1941南方作戦ー  作者: 仲村千夏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

第二話

 一九四一年十二月九日。


 マニラ湾外海。


 南シナ海から吹き込む風は湿り気を帯び、空には重い雲が垂れ込めていた。


 第三艦隊旗艦《天城》は、湾口へ向け静かに南下していた。


 その周囲を《伊吹》、重巡《筑摩》《利根改》、軽巡《矢矧》、そして十数隻の駆逐艦が取り囲む。


 艦隊全体が低速。


 対潜警戒を重視した慎重な航行だった。


「ルソン島北部、上陸成功との報告です」


 通信参謀が報告する。


「敵航空戦力の反撃は?」


「散発的。第一、第二機動部隊の制空戦闘により大きな抵抗はない模様」


 有馬は小さく頷いた。


 南方作戦は、今のところ順調だった。


 だが問題はここからだった。


 マニラ湾。


 そしてコレヒドール島。


 フィリピン防衛の要。


 湾口を塞ぐ巨大要塞。


「沿岸砲の位置は」


「概略把握済み。観測機より追加写真が届いております」


 机上へ写真が並べられる。


 双発艦上偵察機《景雲》が高高度から撮影したものだった。


 砲台。


 掩体。


 弾薬庫。


 そして高射砲陣地。


 鮮明な航空写真を見ながら、有馬は小さく息を吐く。


「よく撮れているな」


「景雲隊は優秀です。高高度侵入のため迎撃も受けておりません」


「この戦争は、まず目だな」


 誰より先に見つける。


 それが日本海軍の新しい戦い方だった。


     ◇


 午前九時。


 第三艦隊前衛。


 重巡《筑摩》水上偵察機。


 射撃観測任務。


 波間を蹴って発進した零式水上観測機は、灰色の空へ上昇していく。


 後席観測員が双眼鏡を覗き込む。


「コレヒドール確認」


 巨大な島影。


 要塞島。


 周囲には砲煙。


 既に陸軍航空隊が爆撃を開始していた。


「高射砲多数」


「艦隊へ送れ。敵砲座確認」


 無線員が送信を始める。


 その頃、《天城》艦橋では砲術長が計算盤へ向かっていた。


「第一、第二主砲塔、装填完了」


「距離二万八千」


「観測機より修正待ち」


 艦橋内へ独特の緊張が漂う。


 有馬は静かに湾口を見据えた。


 遠方。


 薄く煙る島影。


 その地下には、数千の米比軍が籠っている。


「司令官」


 黒瀬参謀長が低く言う。


「始めますか」


「……始めよう」


 有馬はゆっくり頷いた。


「第三艦隊、コレヒドール砲撃開始」


 その瞬間。


 《天城》第一砲塔が火を噴いた。


 轟音。


 巨大な衝撃波が海面を叩き、橙色の炎が砲口から吹き出す。


 続いて第二砲塔。


 さらに《伊吹》。


 重巡群。


 一斉砲撃。


 巨大な砲弾が空を裂いて飛んでいく。


 十数秒後。


 コレヒドール島北部で巨大な爆炎が立ち上がった。


「観測機より修正!」


「右百、短百!」


「修正!」


 砲撃は続く。


 第三艦隊は、ただ砲弾を撃ち込んでいるわけではなかった。


 観測機。


 航空写真。


 無線。


 全てを連携させた精密砲撃。


 それは従来の“面制圧”とは違う、新しい艦隊砲撃だった。


     ◇


 一方。


 ルソン島東方海域。


 第三機動部隊。


 空母《翔鶴》飛行甲板。


「艦攻隊、発艦始め!」


 単発艦上攻撃機が次々と飛び立つ。


 三座。


 八〇〇キロ魚雷搭載可能。


 防漏燃料タンク採用。


 新型艦攻《流星》初期型。


 まだ配備数は少ない。


 だが搭乗員たちの信頼は厚かった。


「マニラ湾外洋警戒。敵艦発見時は直ちに通報」


 分散配置された各機動部隊は、互いに索敵網を繋いでいた。


 第一機動部隊。


 第二機動部隊。


 第三機動部隊。


 広大な海域を、航空機が覆う。


 それが日本海軍の新戦術だった。


     ◇


 午後。


 コレヒドール島。


 第三艦隊の砲撃は続いていた。


 《天城》第三斉射。


 観測機から修正電。


「命中確認!」


 巨大な爆煙。


 敵砲座沈黙。


 艦橋へ歓声が走る。


 だが有馬は浮かれなかった。


「敵航空隊警戒を厳とせよ」


「はっ」


 フィリピン航空戦力は未だ健在。


 さらに潜水艦の危険もある。


 艦隊は長時間同一海域に留まれない。


「司令官、陸軍より入電」


「読め」


「“砲撃支援に感謝。上陸部隊前進中”」


 有馬は無言で頷く。


 陸軍との連携。


 これも、以前より改善されていた。


 完全ではない。


 だが少なくとも、互いに情報を共有する努力は始まっていた。


     ◇


 夕刻。


 第三艦隊は砲撃を終了。


 湾外へ離脱を始めていた。


 空は赤く染まり、波は黒く揺れる。


「敵艦隊の情報は」


「未だ確認なし」


「東洋艦隊、沈黙を保っています」


 有馬は海図を見つめた。


 嫌な静けさだった。


 英国東洋艦隊が動かないはずがない。


 問題は、どこから現れるか。


 その時だった。


「第三機動部隊より緊急電!」


 通信兵の声が艦橋へ響く。


「“マニラ南方海域に不審艦影。巡洋艦級複数の可能性あり”」


 艦橋の空気が変わる。


 有馬は即座に振り返った。


「位置を出せ」


「現在照合中!」


 黒瀬参謀長が低く呟く。


「……始まりましたな」


 有馬はゆっくり頷いた。


 砲撃戦は終わった。


 これから始まるのは、“艦隊を探す戦い”だった。


 その先には、必ず東洋艦隊がいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ