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第3話 模擬戦演習 ― 種族の壁を越えて

リオが魔法を発動してから、数ヶ月後。


朝のホームルーム、訓練場に並ぶ一年生たちの前に、鬼のような顔つきの教官が立っていた。


「今日から貴様らには、実戦形式の“模擬演習”を行ってもらう!」


ざわつく教室内。


「ルールはチーム対抗戦。勝ち負けよりも“連携”を見る。まともに戦えなければ、チーム全員、入学式からやり直してこい。」


 声を張り上げる教官の口調に、リオたち第5班のメンバーも緊張の色を見せる。


「第5班は、第7班と対戦だ。準備しておけ」



――そして、始まりは訓練前の、第5班のいつもの光景だった。



「言ったろ、俺の前に立つなっての!」


「その横暴な動きが邪魔なのよ、ケダモノ!」


「誰がケダモノだ、クソ鳥女ァ!」


「はあ!? やる気かこのクマ野郎!」


 


 朝の訓練場に怒声が響いた。


 ジャックス・フォルクス(獣人族)とティセ・ファルネリア(鳥人族)。

 見た目も性格も全く異なる二人が、いつものように噛みつき合っていた。


「……またやってるよ、あの二人。まじで、勘弁してくれよ〜。」


 カイルがため息をつき、クラリスは眉間を押さえる。


「あの2人のコンビネーションだと、本当に私たち入学式からやり直されることになるわ...」


 そしてリオは、笑うでもなく真剣な顔で二人の喧嘩を見つめていた。

「(そんなに、仲が悪いようには見えないけどな....)」

 


「見てみろ、あれが“種族の壁”ってやつだ」


遠くから、皮肉たっぷりの声が投げかけられる。


「そんな連中が同じ隊? 教官も粋な人選をしたもんだ」


皮肉を放った青年の名は、バルド・エルゲルト。中堅貴族の出で、自らの地位と血筋に誇りを持つ典型的な“貴族様”だ。

その口元に浮かぶのは、冷たい侮蔑の笑みだった。


 


「まったく……下等種のまがい物が“魔法騎士”を名乗るとは。笑わせてくれる」


耳を疑うような発言に、ジャックスが肩をピクリと震わせる。


「なんだと……!」


「“なんだと”だって? その程度の語彙力でよく言葉を話せたもんだ。せいぜい、帝国の御犬様として飼われてるのがお似合いだよ。獣人も鳥人もな」



「その辺にしておけ、バルド。時間が勿体無い。」


 ノア・ルーベンスが低く咎めるが、バルドは意に介さない。


「お前らみたいな血統も知性も持たない連中が、帝国の前線に出るなんてな。

 ──結果は見えてる。“格”の違いを思い知らせてやるだけさ」


 


「……なら、模擬戦で証明しよう。」


 リオが静かに言った。


「どっちが、“みんなに必要とされる戦士”か」


 


 ノアはその目でリオを見据えた。何も言わないまま。


 だが、その視線の奥には、わずかな興味と──警戒が、確かに宿っていた。


模擬戦演習――第5班 vs 第7班


 第5班:リオ、クラリス、カイル、ティセ、ジャックス

 第7班:ノア、バルド、その他3人


 開始の合図と同時に、ティセが飛翔。ジャックスが地を蹴る。が――


「前出すぎだっての!」


「援護できないじゃない、あんたが遅いのが悪いのよ!」


「おい、上から風飛ばすな、視界が――!」


 初動から大混乱だった。


 ティセの風刃がジャックスの前に落ち、ジャックスの突進がカイルの展開を潰し、クラリスの援護魔法が空を切る。


 その隙を、第7班が逃すはずもない。


「〈フレアバースト〉!」


「〈アクアニードル〉!」


 炎と水の連携魔法が、一直線にティセへと飛ぶ。


「くっ――!」


 ティセがバランスを崩した、その瞬間だった。


 リオが割り込んだ。


「ティセ、下がれッ!」


 炎の奔流が、リオの全身を包む――いや、“包もうとした”が、

 リオの腕から放たれた微かな炎が、それを弾いたのだ。


「なっ……火を……!? お前、そこまで魔法使えるようになったのか!?」


「まだ上手くはコントロールできない……けど、みんなは、仲間は、俺が守るから!」


 


 しかし次の瞬間――


 別方向から放たれた鋭い魔弾が、ジャックスへと迫る!


 バルドの“狙い撃ち”だった。


「へっ、お仲間の獣人は遅せぇな!!的にしかなってねえぜ!」


「ジャックス――ッ!」


 ジャックスに迫った銃弾を庇い、リオが飛び込んだ。


 その肩口に、魔弾が炸裂する。地面に叩きつけられたリオは、血を流しながらも立ち上がった。


「お前らがまとまらなくてもいい。けど……俺は、仲間を見捨てたくないんだ!」


 


 ジャックスとティセが、その背中を見つめる。


 あんなに噛み合わなかった男が、自分たちのために、体を張っている。


「……なあ、鳥女」


「……なんであんたに言われなきゃいけないのよ、でも……うん、わかってる」


 


「ティセ、風の斬撃で上空から陽動! ジャックス、その隙に回り込んで!」


「あいよ!!」


 クラリスの声に、息を合わせるように動く。


 初めて、チームが「同じ敵を見て」動き出す。


 ティセの風刃がバルドの視界を遮り、ジャックスがその懐に飛び込む。


「うおおおおおおッッ!!」


 バルドの顔が引き攣る。焦りを見せたその瞬間――


「カイル、雷で囲んで!」


「オッケー、クラリス!!」


 そして――リオの炎が、拳に宿る。


 まだ未熟な、でも確かに「魔法」と呼べる、初めての自分の力。


「これが……俺たちの、チームの拳だ!」


 燃え上がる拳が、バルドを真正面から撃ち抜いた。


 ――戦闘不能。貴族チームの一角が崩れる。


 


***


 


「……ふん、役立たずめ」


 バルドを冷たく見下ろし、ノア・ルーベンスが前へ出る。


「君たちの連携、悪くなかった。けど、それで勝てるほど戦場は甘くはない。それを教えてやろう。」


 ノアの水魔法が、すべてを封じていく。


 クラリスの防壁を破壊し、ティセの風刃を流し、ジャックスの突進を水流で逸らす。


 最後に残ったボロボロになって立ちすくむリオに、ノアが言う。


「……君は、やはり面白い。今回の戦いで、ただ仲間を守っただけじゃない。“導いた”んだな」


 そして、水の槍がリオを貫いた――


 


「第7班、勝利!」


 


***


 


 夕焼けの中、傷だらけの第5班が並んで座っていた。


「……すまなかったな」


 ジャックスが不器用に言い、


「……ありがと。あんたが守ってくれたから……」


 ティセがそっと言葉を添える。


 リオは、笑って立ち上がる。


「これで、ちゃんと俺たち“チーム”になれたな」


皆が小さく笑う。


「でも、ジャックスとティセの連携ミスは後で教官から怒鳴られるだろうけどなーー!」

「カイル、あなたもテンパってたところ、教官から後できつく叱られるかもね。」


カイルとクラリスのやり取りに場が明るくなり、皆それぞれ第5班としての一歩を切ったように感じていた。


 


 その様子を、遠くからノアが見ていた。


「……想像以上かもしれないな、リオ・ブラックバーン」


 


 彼の瞳に、わずかな興味と認める色が浮かんでいた。

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