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転校してからの日々

転校してから、一週間が過ぎた。


最初の頃は、朝、教室の前まで来るだけでも少し緊張していた。


教室の中には、すでに何人かのクラスメイトがいる。


誰かと目が合ったらどうしよう。


自分から挨拶した方がいいのかな。


でも、いきなり話しかけるのも変かな。


そんなことを考えながら、毎朝教室へ入っていた。


それが、一週間も経つと少し変わってきた。


朝、教室の扉を開ける。


すると、いつものように声が飛んでくる。


『おはよう、龍斗!』


一番最初に声を掛けてくるのは、決まって蓮だった。


「おはよう。」


『今日さ、体育あるぞ。』


「本当?」


『うん。時間割見た。』


蓮が机の上に置いていた時間割表を見せてくる。


「体育って何するんだろ。」


『先生が言ってた。ドッジボールらしい。』


「楽しみだな。」


『今日は俺が勝つ。』


「昨日もそう言って負けてたじゃん。」


『今日は違う。』


「何が違うの?」


『気合い。』


「気合いだけ?」


『気合いは大事。』


「それで昨日負けたじゃん。」


『昨日はまだ本気じゃなかった。』


「じゃあ今日は本気?」


『もちろん。』


朝からそんなくだらない話をする。


周りのクラスメイトも少しずつ教室に入ってくる。


『おはよう。』


『おはよー。』


『宿題やった?』


『やったよ。』


教室の中が少しずつ賑やかになっていく。


転校してきたばかりの頃は、この雰囲気の中に自分が入っていくことができなかった。


みんなが当たり前のように話しているのを、少し離れたところから見ていた。


でも今は違う。


蓮が話しかけてくれる。


朝からくだらない話をする相手がいる。


それだけで、教室に入ることが怖くなくなっていた。


先生が教室へ入ってくる。


『みんな、席について。』


椅子を引く音が一斉に響く。


一時間目は国語だった。


先生が黒板へ大きく文字を書く。


『今日は、前に勉強したところの続きをやります。』


教科書を開く。


まだ習っている内容は簡単だった。


転校してきたから授業についていけない、ということもなかった。


そこは少し安心した。


先生が問題を出す。


みんなが答える。


俺も手を挙げる。


正解すると、先生が頷く。


それだけのことなのに、少しだけ安心する。


ここでもちゃんと授業を受けられる。


ここでも自分は普通にやっていける。


そんな気がした。


授業が終わる。


休み時間になると、蓮がすぐに席を立った。


『ちょっと外行ってくる。』


「どこ行くの?」


『友達のところ。』


「友達って誰?」


『いっぱい。』


「分からない。」


『そのうち分かる。』


そう言って走っていく。


俺は一人で教室に残った。


窓の外を見る。


校庭では、別のクラスの子たちが走っている。


転校する前の学校とは、何もかも違う。


校舎も違う。


教室も違う。


先生も違う。


でも、こうして見ていると、学校というもの自体は同じなんだなと思った。


そんなことを考えていると、前の方から笑い声が聞こえた。


女の子たちが何人か集まっている。


その中に、転校初日に廊下で見かけた女の子がいた。


よく笑う子だった。


名前はまだ知らない。


少しすると、蓮が戻ってくる。


『龍斗、何してるの?』


「別に。」


『暇?』


「ちょっと。」


『じゃあ次の授業の準備しよう。』


「蓮、意外と真面目だな。」


『俺はいつも真面目。』


「それは嘘。」


『ひどいな。』


二人で笑う。


それだけのことだった。


でも、そんな時間が少しずつ増えていった。


そして、待っていた体育の時間になる。


みんなで校庭へ出る。


『今日はドッジボールをします。』


先生がそう言うと、クラスから歓声が上がった。


『やった!』


『絶対勝つ!』


『先生も入ってよ!』


『先生は見てるから。』


笑い声が起こる。


チームを二つに分ける。


蓮と俺は同じチームだった。


『龍斗、こっちな!』


「分かった。」


『今日は絶対勝つから。』


「分かったって。」


『ちゃんとボール取れよ。』


「蓮もな。」


試合が始まる。


最初はボールが行ったり来たりしていた。


俺は後ろの方にいる。


できるだけボールから逃げる。


でも、逃げてばかりだと蓮に何か言われそうだった。


ボールを持っている相手が、こっちを見る。


嫌な予感がする。


次の瞬間。


『龍斗!』


「うわっ!」


ボールが飛んできた。


慌てて両手を出す。


ボールが腕に当たる。


落ちそうになる。


でも、なんとか抱えることができた。


『ナイス!』


蓮が叫ぶ。


「危なかった……。」


『そのまま投げろ!』


「どこに?」


『あいつ!』


蓮が指を差す。


俺は勢いよくボールを投げる。


ボールは真っ直ぐ飛んでいく。


今度こそ当たる。


そう思った。


でも、相手の少し横を通り過ぎた。


そのままボールは校庭の端まで転がっていった。


『龍斗、下手だな!』


「うるさい!」


『もっと狙え!』


「分かってるよ!」


蓮が笑っている。


俺も笑ってしまう。


結局、その試合は負けた。


『だからジュースな。』


「まだ言ってるの?」


『忘れてた?』


「忘れてないよ。」


『じゃあ今度な。』


「なんで俺が払うんだよ。」


『勝てなかったから。』


「蓮も負けただろ。」


『俺は頑張った。』


「俺も頑張った。」


『じゃあ引き分け。』


「それでいい。」


二人で笑う。


ボールを片付けようとしたときだった。


校庭の端まで転がっていたボールを、誰かが拾った。


『はい。』


「あ、ありがとう。」


顔を上げる。


女の子だった。


転校初日に廊下で見かけた子。


近くで見るのは初めてだった。


『どういたしまして。』


「あ……。」


何か言おうとする。


でも、何を言えばいいのか分からない。


結局、


「ありがとう。」


それだけだった。


『うん。』


女の子は笑って、友達のところへ戻っていった。


俺はその背中を少しだけ見送った。


すると、隣にいた蓮がニヤニヤしている。


『龍斗。』


「何?」


『今の、葛西さん。』


「葛西さん?」


『うん。葛西菜花。』


「そうなんだ。」


『知らなかった?』


「うん。」


『転校してきたばっかりだもんな。』


「そうだね。」


『初めて喋ったじゃん。』


「ボール返してもらっただけだよ。」


『それでも喋ったじゃん。』


「それだけ。」


『ふーん。』


「何だよ。」


『別に。』


蓮は笑っている。


俺はよく分からなかった。


そのまま教室へ戻った。


本当に、それだけだった。


昼休み。


給食を食べ終えると、また蓮が声を掛けてくる。


『外行こう。』


「うん。」


校庭へ出る。


朝の体育で使ったボールがまだ片付けられていなかった。


誰かがそれを見つける。


『ドッジボールしよう!』


『また?』


『いいじゃん!』


結局、またドッジボールになった。


朝やったばかりなのに、誰も気にしていない。


俺も笑いながら参加する。


今度は蓮と別のチームだった。


『龍斗、覚悟しろよ!』


「蓮こそ。」


『絶対当てる。』


「俺も当てる。」


試合が始まる。


朝とは違って、今度は俺も少し積極的に動いてみる。


ボールを拾う。


投げる。


逃げる。


また投げる。


一度だけ相手に当てることができた。


『龍斗、やったじゃん!』


「やった!」


思わず声が出る。


蓮が向こうのチームから叫ぶ。


『次は俺だからな!』


「来い!」


みんなが笑う。


勝った負けたよりも、そんな時間が楽しかった。


学校へ来て、友達と遊ぶ。


それだけのことが、転校してきたばかりの俺には新鮮だった。


放課後。


一度家へ帰る。


ランドセルを置く。


宿題をする。


宿題を終えると、すぐに外へ出た。


「行ってきます。」


『どこ行くの?』


「公園。」


『暗くなる前には帰ってきてね。』


「分かった。」


家を出る。


公園へ向かう。


転校する前は、放課後に遊ぶ相手が決まっているわけではなかった。


でも、今は公園へ行けば誰かがいる。


そんな気がしていた。


公園に着く。


やっぱり蓮がいた。


『龍斗!』


「早いな。」


『さっき来たところ。』


「今日は何する?」


『缶蹴り。』


「鬼ごっこじゃないの?」


『昨日やった。』


「一昨日もやったじゃん。」


『だから今日は缶蹴り。』


「なるほど。」


誰かが缶を持ってくる。


地面に置く。


じゃんけんで鬼を決める。


『決まった!』


鬼になった子が目を閉じて数え始める。


『十、九、八……。』


みんなが一斉に走り出す。


俺も隠れる場所を探す。


滑り台の下。


遊具の裏。


木の陰。


公園の端。


どこにしようか迷っていると、低い茂みが目に入った。


そこへしゃがみ込む。


「ここなら見つからないかな。」


遠くから鬼の声が聞こえる。


『もういいかーい!』


『まだー!』


誰かが笑いながら返事をする。


足音が近づいてくる。


俺は息を潜める。


鬼かと思った。


でも、茂みの向こうから顔を出したのは、葛西さんだった。


「あ。」


『あ。』


二人とも驚く。


「葛西さん。」


『不動くん。』


葛西さんが辺りを見る。


『ここ、隠れる?』


「うん。」


『じゃあ私も。』


俺の少し横にしゃがみ込む。


二人とも黙った。


何を話せばいいのか分からない。


学校では、さっき少し話した。


でも、それもボールを返してもらっただけだった。


そんな相手と二人で隠れている。


少し不思議だった。


遠くから鬼の声が聞こえる。


『どこだー!』


葛西さんが小さく笑う。


『見つからないね。』


「うん。」


また静かになる。


俺は地面を見る。


葛西さんも前を見ている。


しばらくすると、鬼が反対側へ走っていく。


葛西さんが小さな声で言った。


『今なら行けそう。』


「うん。」


二人で立ち上がる。


缶まで走る。


全力で走る。


『セーフ!』


「セーフ!」


ほとんど同時だった。


二人で顔を見合わせる。


そして、どちらからともなく笑った。


『危なかったね。』


「本当だ。」


『もう少しで見つかるところだった。』


「うん。」


それだけの会話だった。


でも、嫌ではなかった。


その後、またみんなと合流して遊ぶ。


葛西さんも友達のところへ戻る。


俺も蓮と一緒になる。


『龍斗、どこに隠れてた?』


「秘密。」


『なんで?』


「言ったら次から見つけられるじゃん。」


『確かに。』


蓮が笑う。


それから何日か経った。


学校へ行く。


授業を受ける。


休み時間になる。


蓮と話す。


給食を食べる。


掃除をする。


放課後になったら公園へ行く。


そんな日が続いていった。


掃除の時間にも、少しずつ慣れてきた。


転校したばかりの頃は、誰と一緒に掃除をするのか分からなかった。


今では、自然と近くにいる子と話しながら掃除をしている。


『そこ、まだ汚れてるよ。』


「どこ?」


『そこ。机の下。』


「あ、本当だ。」


雑巾を動かす。


『もうちょっと右。』


「こう?」


『そうそう。』


「掃除って難しいな。」


『そんなに?』


「どこまでやればいいのか分からない。」


『全部きれいにすればいいんじゃない?』


「それが難しいんだよ。」


近くで聞いていた蓮が笑う。


『龍斗、真面目だな。』


「普通だろ。」


『俺なら見えないところはやらない。』


「それは駄目だろ。」


『バレなきゃいい。』


「先生に怒られるぞ。」


『じゃあやる。』


そんな話をしながら掃除をする。


最初は知らなかったクラスメイトとも、少しずつ会話が増えていった。


ある日は授業中に先生から問題を当てられた。


『じゃあ、不動くん。答えてみて。』


突然名前を呼ばれて、少し驚く。


「えっと……。」


教科書を見る。


答えを考える。


「……これです。」


『正解。』


少し安心する。


後ろから蓮が小さく声を掛ける。


『やったじゃん。』


「普通だよ。」


『俺なら分からなかった。』


「蓮、寝てただろ。」


『寝てない。』


「目閉じてたじゃん。」


『考えてた。』


「何を?」


『答えを。』


「絶対嘘。」


二人で笑いそうになる。


先生がこちらを見る。


『そこ、静かに。』


「はい。」


また怒られた。


でも、嫌ではなかった。


そんな日常が少しずつ積み重なっていった。


ある日の昼休み。


蓮が牛乳を飲みながら言った。


『今日、何して遊ぶ?』


「何でもいい。」


『それ一番困る。』


「じゃあ蓮が決めて。」


『鬼ごっこ。』


「また?」


『鬼ごっこ最強。』


「毎日言ってる。」


『だって楽しいから。』


そこへ、近くの席から声がした。


『また鬼ごっこするの?』


葛西さんだった。


『する!』


蓮がすぐ答える。


『飽きない?』


『飽きない。』


「俺はちょっと飽きてる。」


『じゃあ龍斗は来なくていい。』


「それは嫌。」


『結局来るんじゃん。』


「だってみんな行くから。」


葛西さんが笑う。


『じゃあ一緒だね。』


「うん。」


昼休みになる。


みんなで校庭へ出る。


鬼を決める。


今日は俺が鬼になった。


『龍斗、頑張れ!』


蓮が遠くから笑っている。


「絶対捕まえるからな!」


走り出す。


鉄棒の後ろ。


校舎の陰。


木の裏。


一人ずつ見つけていく。


『見つかった!』


『龍斗速い!』


『待って!』


笑い声が校庭中に響く。


蓮を追い掛ける。


でも、なかなか捕まらない。


『こっちだよ!』


「待て!」


『嫌だ!』


「逃げるな!」


二人で走り回る。


その途中、ジャングルジムの陰から小さな笑い声が聞こえた。


俺が振り向く。


葛西さんが隠れていた。


『……見つかった?』


「うん。」


『あ。』


「今、笑っただろ。」


『笑ってないよ。』


「笑ってた。」


『ちょっとだけ。』


「じゃあ捕まえる。」


『待って。』


「何?」


『もう少しだけ。』


「何が?」


『逃げる時間。』


「じゃあ十秒。」


『本当?』


「うん。」


葛西さんが走り出す。


俺も少し遅れて追い掛ける。


『ありがとう!』


「待てー!」


そんなやり取りをしながら、二人で走った。


結局、最後まで捕まえられなかった。


昼休みが終わる。


教室へ戻る。


席に座る。


蓮が笑っている。


『龍斗、甘いな。』


「何が?」


『逃がしてたじゃん。』


「逃がしてない。」


『絶対逃がしてた。』


「違うって。」


『ふーん。』


「何だよ。」


『別に。』


またその顔をする。


俺は少しだけ不思議に思った。


でも、深く考えなかった。


学校が終われば、公園へ行く。


その日の公園では、またドッジボールをした。


次の日には鬼ごっこをした。


その次の日には、誰かが持ってきたボールでサッカーをした。


ボールを蹴って、追い掛ける。


上手い子がいて、俺たちはそれを真似する。


でも、なかなかうまくいかない。


『龍斗、そっち!』


「どこ?」


『ボール!』


「分かった!」


走る。


蹴る。


でも、変な方向へ飛んでいく。


『そっちじゃない!』


「分かってる!」


みんなで笑う。


そのあと、結局また鬼ごっこになった。


誰かが提案して、みんなが乗っかる。


そんな感じだった。


遊びの内容は毎日違う。


同じ日もある。


でも、同じことをしていても、その日のメンバーや話す内容が違えば、それだけで少し違って感じた。


転校して一週間の頃には、まだ「転校生」という感覚が残っていた。


それが二週間になると、少し薄くなった。


三週間経つ頃には、誰かに「転校生」と呼ばれることもほとんどなくなった。


そして、一か月。


朝、教室へ入る。


『おはよう、龍斗!』


「おはよう。」


それが当たり前になっていた。


ある日の朝、蓮が俺の机のところへ来た。


『今日、放課後どうする?』


「公園。」


『決まり。』


「誰か来るかな。」


『来るだろ。』


「なんで分かるの?」


『いつもいるから。』


「それもそうか。」


当たり前のように話している。


そんな自分に、少しだけ驚いた。


一か月前は、誰とも話せなかった。


今は、放課後に誰かと遊ぶことを自然に考えている。


学校が終わる。


俺は家へ帰る。


ランドセルを置く。


宿題をする。


そして公園へ向かう。


公園には蓮がいた。


少し遅れて、他の子たちも集まってくる。


葛西さんもいた。


『今日は何する?』


『ドッジボール!』


『また?』


『いいじゃん。』


「俺はいいよ。」


『じゃあ決まり。』


みんなでチームを分ける。


ボールが飛ぶ。


誰かが逃げる。


誰かが笑う。


蓮が大声で叫ぶ。


葛西さんも笑っている。


俺も笑っている。


夕方になる。


少しずつ空の色が変わっていく。


『そろそろ帰る?』


『うん。』


『また明日ね!』


『じゃあな!』


一人、また一人と帰っていく。


俺もランドセルを背負い直す。


蓮と並んで歩く。


少し前を、葛西さんたちが歩いている。


途中で道が分かれる。


『じゃあ、また明日。』


葛西さんが振り返る。


「うん。また明日。」


それだけ言って別れる。


蓮と二人で歩く。


『龍斗。』


「何?」


『学校、楽しい?』


「うん。」


『最初、緊張してたもんな。』


「してた。」


『今は?』


「もう大丈夫。」


『よかったな。』


「うん。」


少し歩く。


蓮が突然言った。


『明日も遊ぼうな。』


「うん。」


それだけでよかった。


家へ帰る。


夕飯の時間。


母が聞いてくる。


『今日も遊んできたの?』


「うん。」


『学校はどう?』


俺は少し考える。


そして、


「楽しいよ。」


と答えた。


母が笑う。


『友達できてよかったね。』


「うん。」


ご飯を食べながら、今日あったことを話す。


体育のこと。


給食のこと。


友達と遊んだこと。


先生に注意されたこと。


本当に、何でもない話ばかりだった。


でも、そういう話をできることが嬉しかった。


転校する前は、知らない町だった。


知らない学校だった。


知らない人ばかりだった。


転校初日は、教室へ入るだけで緊張した。


でも今は違う。


教室へ入れば、蓮がいる。


休み時間になれば、みんなで遊ぶ。


授業では、隣の子と話す。


掃除ではくだらない話をする。


放課後になれば、公園へ行く。


そこには、また誰かがいる。


そんな毎日が、いつの間にか俺の日常になっていた。


そして、その日常の中に、葛西菜花も少しずつ入ってきていた。


最初は、廊下で見かけただけ。


次に、ボールを返してもらった。


その次は、公園で偶然同じ場所に隠れた。


一緒に缶まで走った。


学校でも少しずつ話すようになった。


遊びの中で名前を呼ぶことも増えた。


笑っている顔を見ることも増えた。


それでも、俺はそれを特別なことだとは思っていなかった。


ただ、話せる友達が一人増えた。


それくらいに思っていた。


それ以上のことを考えることなんて、まだなかった。


次の日も学校へ行く。


教室の扉を開ける。


『おはよう、龍斗!』


「おはよう。」


いつものように返す。


窓から朝の光が入ってくる。


教室の中では、みんなが話している。


今日の授業のこと。


給食のこと。


放課後に何をするか。


そんな話をしながら、また一日が始まる。


転校してから一か月。


知らない場所だった学校は、いつの間にか少しだけ居心地のいい場所になっていた。


明日もきっと同じような一日になる。


授業を受けて。


休み時間に遊んで。


蓮とくだらない話をして。


放課後になったら公園へ行く。


そんな毎日が、少しずつ積み重なっていった。

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