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第9話 交渉成立

 こいつら、相当な手練れだ。

 近くで見てわかった。筋肉の付き方、剣の構え方、統率力。

 何より、村の護衛だと思われている俺たちがたった二人にもかかわらず警戒していることだ。

 言葉で威圧してくるものの、誰一人として仕掛けてこない。

 乱戦になればやりやすいと思っていたが、案外楽じゃないかもな。


 魔法が使えれば何も心配することはなかったが、今はほとんど底をついている。

 まさか、エレナを助けた際にすべて持っていかれるとは思わなかった。


 だからこそ、どれだけ苦しかったのかも理解してしまったが。


「てめぇ、何者だ? 行っとくが、俺たちゃ手加減しねえぜ」

「ボケがぁ! 殺すぞぉ! カスがぁ! 」

「――村人を人質に取れ。こういった輩にはそれが効く」


 多様性のある連中だな。今の時代に適応してて凄い。

 ただ、それだけまとめ上げてる奴はヤバイってか。

 さて、


「あ、あんたたち誰なんだ。どうやって、ここに」

「――通りすがりみたいなもんなんで。そこは気にず。ただ宿を探してまして。もしこいつらを撃退したら、一晩泊めてくれますかね」


 村人のおじさんたちが俺の言葉に困惑しつつも「そ、それくらいもちろんだ」と言った。

 よし、言質も取ったところだし。


 ――先手必勝といきますか。


「お前ら、行け――は? ひっぎゃぁっぁぁあぁぁ!」


 俺はまず、冷静沈着な男を狙った。

 一撃で倒すこともできたが、できるだけ騒いでほしかったので、一番痛い横腹を狙う。


 こいつらの武器には、こびりついた血肉の臭いが染みついていた。

  村人側が悪党という可能性も疑っていたが、その線はなさそうだ。


「や、やれ!」


 俺の目論見通り、視線が注がれる。

 エレナに合図を送り、村人たちを別の場所に移動させてもらった。

 できるだけ派手に動き、仲間の悲鳴を聞かせる。


 しかし、この八咫烏(やたがらす)ほんと切れ味がいいな。

 もしこれがなかったら戦いにすらなってない気がする。


 やがて、敵の一人が気づく。


「村人どこいきやがった!?」

「探せ! 遠くまではいってないはずだ!」

「――させるかよ」


 これが一番最悪な判断だ。

 戦うか、追いかけるか。迷いが生じ、身体が強張って動けなくなる。

 後ろから斬りつけられたやつを見てしまったらもう最後だ。その場で足を止めて、仕掛けたほうがいい人数差にもかかわらず撃退する思考になってしまう。


 一人、また一人と倒していくと、ようやくボスのお出ましだ。


「お前、何者だ? 名を名乗れ」


 一人だけ図体も態度もデカい。

 身長は2メートル以上か? 背中の大剣は、俺の愛刀すらも一撃で破壊しそうな威力だとわかった。


「悪いがそれはできない。武士道でも騎士道も持ってなくてね」

「ふん、その言葉でわかった。――お前は、魔法使いだな」

「え、なんでそう思ったの?」

「己の剣に誇りを持つ男はそんな軽快な口調では喋らん。この――似非が」


 ちょっとだけ傷つくも、まあ言う通りだなとは思った。

 この男、占いとか得意そうだ。

 

「俺は生まれてから一度も負けたことがない。だからこそ尋ねる。――お前、俺の味方にならないか?」

「……え?」

「その腕、斬るにはあまりにもおしい。金もやる。お前ならすぐ二番手だ」

「へえ、一番手は?」

「――決まってるだろ。俺だ」


  大男はそう言うと、邪魔な部下を押しのけて突っ込んできた。

 図体の割には恐ろしい速さだ。振りかぶられた大剣の風切り音が、その腕力を物語っている。

 だまし討ちか。まあ、わかっていたが。


 ――でも、王城に攻めてきていた暗殺者たちと比べると、雲泥の差だな。


「悪いね。お前の敗因は、強者と戦ってこなかったことだ」

「――カハッ……」


 俺は、一撃で男を切り裂いた。

 剣の練習は随分としていなかったが、これも乙葉(・・)のおかげかもな。


 あいつ、太刀筋が綺麗なんだよなあ。


 もう、二度と会うこともないだろうけど。


 エレナを横目で見ると、剣を拾って構えていた。

 敵の一人が攻撃を仕掛けようと前に出てくる。

 エレナの目は鋭く、助けも求めていなかった。


 彼女は敵の攻撃をなんなくかわして斬り返す。

 決して綺麗な太刀筋ではなかったが、それでも、しっかりとした意思を感じた。

 命を預ける相棒として、申し分ない覚悟だ。


「ありがとう、ありがとうございます」


 エレナのおかげで助かった女性が、彼女に礼を言う。

 後ろにいるのは娘だろうか。


「いえ、ただ、見過ごせなかっただけですから」


 かっこいい。

 本当に厄災の魔女か? 正義の味方じゃないか?


 それから相手の魔法使いも参戦してきたが、むしろ得意な相手だ。詠唱の間に距離を詰めて倒す。

 ほどなくして、戦闘は終わった。


 村人にケガ人はなし。俺やエレナも切傷すらない。完勝だ。


「で、こいつらは何者なんですか?」


  ◇ ◇ ◇ ◇


「この村は四つの大国の間にある。今までは誰の領地でもなく、山にあるからと放置されていたのだ。おそらく、公に自国の領土だと主張すれば、他国との衝突が起きるからだろう」


 長老の家に招かれた俺たちは、現状について教えてもらっていた。

 四つの大国の平和条約が終了し、戦争が勃発寸前とのことだ。

 おそらくだが、この真ん中に位置する村を拠点にしようと、どこかの国がさっきの連中を雇ったらしい。

 厄介だったのは、ここから立ち去れというわけではなく、何事もなかったかように生活し、何かあれば報告しろとのことだった。

 つまり密偵だ。そんなことはできないと突っぱねると、村人全員を殺しにかかってきたとのこと。

 おそらく成り代わろうと思ってたんだろう。どこからの依頼かわからないが、胸糞悪い話だ。


 しかし、この情報は俺たちにとっても有益だった。

 もしこのことを知らなければ、どこの国へ行っても密偵だと思われ捕縛されていたはず。

 身元不明だし、どこから来たのかも話せない。最悪の場合死刑もありえる。

 この村に来たのは運命だったのかもしれないな。


「この村から立ち去ったほうがいいのではないでしょうか? 残りたい気持ちは、わかりますが」


 エレナは、まるで自分のことのように話を聞いていた。

 もしかしてこういう村で生まれたのかな?


 しかし長老は言葉に詰まる。


「見てわかるとおもいますが、わしらの村には子供もいます。どこの差し金かわからぬ以上、隣国へ逃げ込むことができないんですよ」

「では、もっと遠くへ――」

「いやエレナ、全員で移動するなんてそれこそ自殺行為だ。戦える若者もいるみたいだが、子供を守りながらだと話が違う。もし魔物なんかと出くわしたら一巻の終わりだ」

「……でも、どうしたら……」

「ありがとうエレナさん。わしらのことをそこまで考えてくれて。何とかここで踏ん張るよ。君たちのおかげで、まずは一夜を乗り越えることができた」


 長老は、俺が出会った人の中でも優しい人だった。

 普通なら感謝よりも助けてほしいと願うだろう。

 だけど、そんなことは一切口にしない。


「宴、といいたいところだが、その余裕があいにくとなくてのう。その代わり、村で一番の料理人に御馳走を振るわせるよ。暖かい湯も用意する。ゆっくりしておくれ」

「……はい、ありがとうございます」

「長老、ありがとうございます」


 料理はこの村で採れる農作物がメインだった。

 ジャガイモ、ニンジン、キャベツにレタス、さらに肉の炒め物だ。

 味付けが絶品で、お腹いっぱいになるまで食べた。


 何より驚いたのは――。


「温泉、なんですか?」

「そうなんです。世界的にもめずらしいと聞きます。腰痛にも効きますし、ゆっくりしていってくださいね」


 この村の地下には温泉脈があるらしく、どの家でもその恩恵を受けられるという。  今回は特別に、共同の露天風呂を使わせてもらった。湯に浸かると、思わず声が漏れた。


「うーん、最高だ」


 思えばこんなにゆっくりしたのはいつぶりだろうか。

 ずっと仕事ばかりで自分のことなんて二の次だった。


 ただ、先代への恩を返したくて。


 ――いやもう、十分頑張ったよな。

 

 これからは、自分の好きなことをしよう。



「気持ちよかったですね」

「そうだな。星空も綺麗だしな。このあたりは」


 国の中だと街の明かりで星がよく見えない。

 しかし、山の中なので凄く綺麗だ。


 エレナは複雑そうな表情を浮かべていた。

 きっと心苦しいんだろう。

 

 しかし、俺には決めていたことがあった。


 身体も温まり、長老たちを呼び出す。


「ど、どうしたのだろう。何か、不手際が……」

「違いますよ。良かったら、俺を雇いませんか?」

「え、雇う……とは?」


 俺は、ウォルテ国で護衛担当をしていたことを伝えた。

 そこから冤罪で国を抜けたことも。

 もしかしたら俺を追ってくる輩もいるかもしれない。


 だがそれでも良いのなら――。


「俺が、この村を守りますよ。たとえどんな敵が来ても、必ず」


 長老は、村人たちと顔を見合わせた。

 エレナは、目を丸くしていた。


「わしらに選択肢はありません。ぜひ、お願いしてもいいだろうか」

「もちろんです。――エレナ、いいかな?」

「え、ど、どうして私に聞くんですか?」

「一緒に国を抜け出した仲間だしな。それに、この村の護衛を一緒にしてほしい。――それに気づいただろ? 温泉に入ったとき」

「……はい。わかりました。――力が、戻ってきています」


 俺は情でこの村を守ろうと思ったわけじゃない。

 温泉に入っているときに気づいたのだ。ここには、世界的に珍しい魔力回復の効能がある。

 魔法使いにとってこんな素晴らしい土地はない。それに、ここの料理も気に入ったしな。

 エレナは、しっかり頷いた。


「――よし、決まりですね。これから俺がこの村を、鉄壁の『要塞』に作り変えてみせますよ」


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