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第8話 エレナ視点

 私とアルスさんは、戦場のど真ん中に移動した。

 ちょうど、村人たちが見つかってしまったところだ。

 武装した襲撃犯と思われる連中は驚き、警戒してその場で立ち止まった。


「な、なんだこいつら!?」

「どこに隠れてやがった!」

「冒険者か? ――殺せ!」


 魔力を酷使したせいか、頭が割れるように痛い。

 それでも顔を振り、敵のほうへ顔を向ける。


 するとアルスさんは誰よりも前に立ち、剣を構えた。


「事情はよくわからないが、大人しく立ち去ってくれないかな」


 まるで、散歩の途中で道を尋ねるような気軽さで。


 ―――――


 私の名前はエレナ。厄災の魔女。


 生まれた場所は、大雪が吹き荒れる北部高原だった。

 一年を通して季節は冬で、ある月になると-20度は当たり前になる。

 魔力の弱い子供は季節を超えられずに死ぬことも多く、環境に適応するかのように身体が強くなっていった。


「凄いぞ。この子の魔力は最高峰だ。――エレナ、彼女は希望の光だ」


 私は、そんな一族の中でも素質を持って生まれた。

 物心つく頃から、周りから褒められ、魔力の量が増えていくたびに大喜びしていた。


 私も、嬉しかった。


「エレナ、私はあなたが大好きよ。あなたのことを、心から愛してるわ」

「私も。ママのこと、大好き」


 何よりも私には毎日無条件で褒めてくれるママがいた。

 父親は私が生まれる前に病気でなくなったらしいけれど、それでも、幸せだった。


「雪と屋根を分離させるのよ。ほら、エレナやってみて」

「難しい……」


 魔力量が多くても、魔法はすぐに使えない。

 この地域で初めに教わるのは、雪かきの魔法だった。

 効率よく屋根から雪を落とすため、物質と物質を分けるのだ。


 初めは小さな雪から、徐々に大きくしていく。


「エレナ、凄いわ。あなたは本当に素質があるわね」

「えへへ、嬉しい。ママに褒められるのが嬉しい」

「もー、ほんと可愛いんだから! あなたは!」


 これが、私の人生で最も幸せで、もっとも戻りたい時間だ。





「突然失礼する。この領地を任されることになった者だ。責任者にお会いしたい」

 

 しかし、そんな幸せは永遠に続かなかった。

 ある日、大勢の人たちが馬に乗ってやってきたことをきっかけに、すべてが崩れた。


 彼らは、この領地を持っていた国と戦争し、勝利したというのだ。

 領地の整理を行っているらしく、私たちの土地へやって来た。


「……なるほど、この地域には魔法使いが多いんですね」


 長との会話の途中、その男が含んだ笑みを、今でも覚えている。


 それから何事もなく一カ月が過ぎた。

 ある日、彼らはまた、突然にやってきた。


 私たちを、軍事利用するために。


「次の大国に立ち向かうには君たちの力が必要だ。悪いが、これは依頼でもお願いでもない。――決定事項だ」


 優しい笑顔はどこにもなく、私たちは連れていかれそうになった。


「魔力が弱いものと強いものに分けろ。刃向かう者は殺しても構わん」


 もちろん抵抗しようとした。

 しかし、相手は大勢だった。武装もしっかりしていて、魔法使いだっている。


「君がエレナか。確かに高い魔力を保有している。――なあに、幸せに過ごせるよ」

 

 男は、私に歪んだ笑顔を向けた。右手を伸ばし、優しい言葉で連れていこうとする。

 しかし、それを止めたのは母だった。


「エレナは渡さない。絶対に、どこへも連れて行かせません」

「落ち着いてほしい。決して危害をくわえるつもりはない。わかるだろ? 皆を幸せになるために、全員で力を合わせようって言ってるだけだ」


 私はどうしたらいいのかもわからず、母にぎゅっと抱き着いた。

 大丈夫、安心してと声をかけてくれてきた母だったが、次の瞬間、私の身体に血がふり注いだ。


 母が、邪魔だと切り捨てられたのだ。


「まったく、これだから田舎に住んでいるやつは嫌いなんだ。聞き分けが悪く、無意味に仲間意識が強い」

「……逃げて。エレナ……」

「――お母さん、お母さん!!!」


 男は私の手を強くつかむと、そのまま母と引き離していく。


「お母さん!」

「黙れ! それ以上騒ぐと、お前も殺すぞ」


 母の目が虚ろになっていく。魔力が、抜けていく。


 ――いやだいやだ。


「――私はどこへも行かない」


 私は強く男を睨んだ。

 そして、気づいた。


 ――お前の手足も、分離できるんじゃないか。


「――ひぎゃぁっあああああああああああああああああああ」


 肉片とともに血が飛び散る。

 男は騒ぎ、両手を失って家の外に出た。


 私はそこで我に返り、歯がガクガク震える。


 なんで、あんなことを――。


「大丈夫。エレナ、あなたは大丈夫」


 そのとき、私の震えを止めてくれたのは母の抱擁だった。

 温かい。でも、段々と冷たくなっていく。


「お母さん、お母さん、いやだ、いや」

「……幸せに、なってね。ごめんね。エレナ。――あなたのことが本当に大好き。だから、逃げて。生きて」


 そして母は死んだ。

 私の腕の中で。


 この街では人が亡くなったとき、死体を冷凍し、雪の中に深く埋める風習がある。

 天国でも変わらずに過ごして欲しいという願いを込めて。


 丁寧に血をふいて、お母さんの身体を綺麗にしてあげたい。


 そのためには――邪魔者を片付ける必要がある


 私はお母さんの頭を撫でたあと、家の外に出た。


 大勢の男たちが私を囲った。警戒し、剣を構えた。


「――この家には誰も入れさせない。お前たちは、ここから出ていけ」


 その日、私は数えきれないほどの人を殺した。


 やがて親戚ですらも私を恐れるようになった。

 一人、また一人と去っていく。


 私はこの土地から去るつもりはなかった。

 母との思い出があるこの場所を、捨てるつもりはなかった。


 しかし、私を軍事利用しようと思う輩は日に日に増えていった。


 百人殺したら、次は千人がやってくる。

 その次は、一万人。


 私は、そのたびに分離(・・)させていった。


 しかし、私の身体に異変が起きた。


 魔力が全く使えず、力が出なくなった。

 考えれば当たり前のことだ。魔力を、魔法を酷使しすぎたのだ。

 疲れたら眠たくなるように、私の身体は長い冬眠状態に入った。


 敵も、この好機を逃さないほど馬鹿ではなかった。

 あっさり捕まった私は、国を転々としながら、様々な手法で拷問を受けた。


 初めは復讐だ。家族を殺された恨みだと、私を執拗に痛めつけた。

 しかし私の身体は体内に魔力が集約されていたらしく、死が目前に近づくと異常に治癒能力が早まっていった。

 やがて私の身体は、研究材料へ変化した。

 

 爪をはがされ、血を抜かれ、歯を奪われ、鼓膜を破られ、どれほどの回復するのかを調べられた。


 そこからの記憶はほとんどない。


 いや、自我を保つことができなかった。

 そんなことをしていたら、きっと、心が死んでいたから。


 そんなある日、ある魔力を感じた。


 懐かしい、まるで、母親のような。


「俺の名前はアルス・ギルバート。エレナ、お前が何者でもいい。ここから出るために協力してくれ」


 アルスと名乗る男は、私を地獄から救ってくれた。

 それだけでなく、私を治癒してくれたのだ。

 ありえないほどの力、なのに、そのことを鼻にかけることもない。


 どんな素性かもわからない私に分け隔てなく接してくれる。

 それが、どんなに嬉しかったのか。


 私たちは国を出て、森を歩いた。


 彼は、盗んだ刀を使って魔物と戦っていた。

 加勢しようとしたが、武器の試し切りをしたいから必要ないと言った。


 確かに切れ味のいい剣だとは思う。

 けれども、魔物は凶悪で非常に恐ろしい。


 彼は魔法が使える。実際、国に出るときにも使っていたのだ。

 なのに、なぜ使わないのか。


 そのとき、私に見張りをお願いしたとき、ある違和感に気づいた。


「……アルスさん」

「なんだ」

「どうして、その傷治さないんですか?」


 彼は、腕に傷を負っていた。国を出るときに、誰かに斬られてしまったのだろう。

 

「これぐらい放っておいたら治るからな。何でもかんでも魔法を使うのは嫌いなんだ」

「……そうなんですね」


 本当にそうなのだろうか。

 違和感を覚えた私は、彼が寝ている間に、手のひらを握った。


 私は魔力測定が得意だった。

 しかし、彼の魔力は微弱だった。いや、違う。凄く……減っている?


 そこで、気づいたのだ。


「――私に治癒をしてくれたから」


 私の身体は限界だった。

 どこが痛いのかもわからず、何が苦しいのかもわからないほど。


 彼の治癒が凄すぎて気づかなかったが、彼は、自分の魔力が枯渇してしまうほどの力を使ってくれていたのだ。

 数日では回復できないほど、それほどの力を。


 ……だから、刀を使ってるんだ。


 私に、気を遣わせないように嘘までついて……。


 涙が止まらなかった。


 私は、彼を心から信用できると思った。


「エレナとはこの先でお別れかな。もう誰にも捕まらないようにしろよ」

 

 彼の言葉は一見冷たくそうに見えるが、魔法が使えないことを考えると、私の安全を考えているのだろう。


 ……なんて、優しいの。


 そんなとき、村人が襲われているところを見つけてしまった。


 過去を思い出し、心が苦しくなる。


 でも今の私では勝てない。

 それにまた、同じことを繰り返すかもしれない。

 せっかくアルスさんが助けてくれたのに――。


「よし、今夜の宿は決まったな」


 なのに彼は、私の気持ちを見透かしたかのように助けにいくと言ってくれた。

 魔法使いが魔法を使えないなんて、絶対に恐ろしいはずだ。


 だって、私はその気持ちが身に染みてわかっている。


 ……ああ、なんて、なんてこの人は素敵なの。


 私は決めた。これからの命の使い道を。


 ――すべて、アルスさんさんの為に捧げる。


 例えどんな敵が現れようとも――私の命が続く限り、守ってみせる。

コメントや評価いただけると大変嬉しく存じます……!

ランキング、上がってみたいです。

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