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第30話 来るべきに備えて

「アルス様、リリはこの村に骨をうずめます!」


 リリがこの村に来てからまだ数日しか経過していない。

 しかし、彼女はとてもパレット村を気に入ったらしい。


 まず、大の温泉好きだということが発覚した。

 潔癖症らしく、下着を履かないのは、お風呂に入る際、脱ぐのが面倒だからだという。

 布が汚れるのも嫌で、服は何枚も同じのを持っているらしい。

 下着は、一枚もないとのこと。


 納得はしていないが、なんとなく理屈はわかる。


 血だらけの棍棒は、汚いものを触る唯一の手段とのこと。

 触れるのが嫌だから洗うのも嫌らしく、それで黒ずんでいったそうだ。


 ちなみにボロボロだったので、ドナーさんが打ち直ししてくれることになった。この村の特産物のようんば鉱物を練りこんでくれるらしく、魔法も破壊することができる棍棒になる予定だ。


 教会も建てたいとのことだが、あいにく俺は無神論者だから興味はない。

 ただ、村人の中には信心深い人もいた。

 ご先祖様を大事にするアルテミスと呼ばれる女神様だ。

 お布施などはなく、ただご先祖様を想い、名前を祈りに変えて引き続いていく。

 俺が死んだら、アルス、という名前が祈りに追加される。

 まあ、家族とはとんと縁がないが。


「俺は別に構わないが、エレナと乙葉と喧嘩しないよな?」

「私としては特に遺恨はありませんが、お二人がどう思っているのかは定かではありません。ただ、昨日は一緒に温泉に入りました。背中も洗いっこしましたよ。楽しくお喋りもしました」

「え、そうなの?」


 いつの間に仲良くなったんだ? 裸の付き合いは、女性でも同じなのか。

 まあ、同じ釜の飯も食っていたようだしな。


「はい。アルス様のお話が大変盛り上がりました」

「え、俺の!?」

「はい。お二人とも、凄くアルス様についてご興味があるらしく」


 ご興味って言われると怖いな。そんなに話すことあるか?


「ちなみに、内容は?」


 するとリリは口を開く。


 が、すぐに閉じた。


「リリはお喋りですが、乙葉ちゃんとエレナちゃんに許可もなくお話するのは良くないので、ひとまずやめておきます」


 それからニコリ、と微笑む。

 まあ、それはそうだ。

 残虐なところもあるが、こうしてみると本当にただの聖女にしか見えない。

 ちなみに魔法手錠は返そうとしたが、俺に持っててほしいとのことだった。

 理由は、大切だからこそ、だという。なんで?


「まあそれもそうだな。聞いて悪かった」

「とんでもございません。リリがお伝えしたのが良くなかったのです。ただ、一つ言えることはアルス様のことを想ってらっしゃいます。それは確かですよ?」


 想いにも色々とありそうなもんだが、ここは都合良く解釈しておくか。

 ちなみに今はリリに呼ばれて来た。

 何やら、話しがあるらしく。

 乙葉たちと戦っていて忘れていたことを、思い出したらしい。

 まあ、彼女のことだから些細なことだろう。

 美味しかったおやつのこととか、そんなのかな。


「この村を探して破壊してやるって、ルフ騎士団長が鼻を膨らませてましたよ」

「なるほど」

「はい。では、リリは温泉に入ってきますね」

「ああ――っておい、待たんかぁ!!!」

「ひぇっ、な、なんですか!?」

「何そのめちゃくちゃ大事すぎる話!? どういうこと!? サラっと言いすぎじゃない!?」

「そうですか? 私がこの村に来たのは、ルフ騎士団長に身体で教えてもらったからなんです。詳しい場所は知らないみたいでしたけど、アルス様が村にいることは知っているみたいでした」


 なんでだよ。いや、いつかは追いかけて来るだろうと思っていたが、村にいることがバレているだなんて……。

 いや、魔法使いなら遠目で確認できる能力があってもおかしくはない。

 そもそも、死角を全部埋めているわけでもないしな。

 身体ってことは……ボコボコに殴ったのかな?


 リリと出会ったのは二日前。

 ルフ騎士団長が作戦をリリに話したとなると、近いうちに来るだろうな。

 あの性格だ。途中であきらめるとは思えない。


 何より、八咫烏(やたがらす)と魔法手錠を取り返しに来るだろう。

 そもそも俺たちの物(厳密には俺ではない)だが。


 

 ただ、ルフ騎士団長に軍を動かせるほどの力はない。

 あくまでも第三騎士団の隊長だ。せいぜい四十人くらいだろう。

 それでも、村を一つ落とすにしては十分だが。


 しかしそれは、この村が以前のままだったらだ。

 今は防御魔法で外壁を作ったし、ベルフルたちにも巡回をさせている。

 何より、エレナたちも助けてくれるだろう。

 ただ、問題は村人たちだ。

 事情は伝えていたし、もしかしたら追っ手が来るかもとも話している。

 しかし、実際に戦争が起きるかもしれないとなると話は別だろう。


 山賊に襲われてから日はまだ浅い。


 もし怯えるようだったら、残念だが、ここから出ていくことも視野にいれたほうがいいな。



「――だ、そうじゃ。皆の衆、覚悟はいいな!」

「アルスさんがいるなら大丈夫だ!」

「そうだ! ベルフルもいるし!」

「みんなでやっつけよう!」


 ――と、思っていたのだが、ジャワ村長の言葉に村人たちは声を上げた。

 予想と違う反応に驚いていると、アンネさんが微笑みながら俺に声をかけてくれる。


「村のみなさん、アルスさんを心から信頼しています。それに、ずっと頼ってばかりでした。私たちも、このパレット村を守りたいんです」


 ……そこまで言ってくれるとは嬉しいな。

 ひょんなことから村に住むことになったが、今ではこの村のことが俺も好きだ。


 いつ敵が来るかはわからない。

 

 その為の備えを、もっとしておかないとな。


「みんなで稽古じゃ! ワシが教えるぞ! ん、みんなどこへ行く? どうした!?」


 ちなみにジャワ村長は竹槍を持っていた。

 やっぱりまだ次世代には負けたくないらしい。



 そしてそんな戦争よりも先に村に来客が来た。


 リリが伝書鳩を飛ばして呼んでくれた商人だ。


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