第28話 大戦争
乙葉さんと謎の聖女が戦っている。
「な、何してる……んですか!?」
朝起きたらいなかったので、ベルフルに乙葉さんの匂いを辿ってもらった。
散歩かな? 見回りかな? あ、お花綺麗だな。
わんわん、わんわん、と吠え始めたので、向かうとなんか音が聞こえてきた。
そして、今。
「あなたが、魔女さんですか。――悪党の、親玉ですねえ?」
だ、誰ですぅ!?
一見すると聖女姿なのに、右手にはまったくそぐわない大きな棍棒を持っている。何より、その棍棒が血で黒ずんでいることがわかった。
そして何より、私のことを魔女と呼んだ。
そのことを知っているのは、間違いなくあの、国の連中だ。
――追っ手、か。
「主ぃ! こやつはアルスを追いかけてきました――」
すると乙葉さんが叫んだ。
やっぱりそうだ。なら、私たちの敵。
私は人を殺すのが嫌だ。もう二度と、誰も傷つけたくない。
でも、それ以上に守りたい人がいる。
――そのためなら、ふたたび魔女と呼ばれても構わない。
「殺す、殺す、殺す、殺す、悪い奴はねえ。殺さなきゃダメなんですよお」
聖女は私に向かって走ってくる。そして、思い切り棍棒を振りかぶってきた。
――移動する。
「――あっれ?」
私は、彼女の後ろに移動した。
乙葉さんが前から攻撃を仕掛けて、後ろががら空きになる。
手足を分離させようと思ったけれど、動き早い。
まずは棍棒に狙いを定めて、武器を奪いとる。
――分離
「あはは、あははは! 悪党は、私が、リリが殺して――あぇ?」
魔法が棍棒を奪いさると、空中に浮いた。
これで彼女の武器がなくなる。
乙葉さんがクナイを投げた。
防ぎようがない。そう、思っていたら地面に落ちていた石を拾って、盾にして防ぐ。
「ふふふ、ふふふ、魔法ですか? 魔法ですよねえ。――でも、リリも使えるんですからね」
すると私は、そこで驚くべきものを見た。
私は昔から魔力測定が得意で、一見しただけでその性質がわかる。
私の魔法は闇に近いもので、比較的魔力が強いのもその恩恵だ。
しかし、目の前の彼女は光の性質を持っていた。
根っからの善人でしか扱えない。
人を癒すことや、魔法を解除させることができる。
彼女は、私が奪っていた棍棒の分離を解除させて、手元に戻す。
そして次の瞬間、乙葉さんを思い切り殴りつけた。
「――これは本体ですね?」
しかし、乙葉さんはクナイを盾にしていた。
致命傷ではないものの、凄まじく吹きとばされてしまう。
聖女は追撃することなく、私を見つめた。
そして、舌をペロリと出す。
彼女は私にとって最悪の相性だ。
おそらく分離魔法を付与しても、すぐに解除されてしまう。
かといって、肉弾戦は雲泥の差。
――でも、諦めない。
私の命はアルスさんが救ってくれた大切なものだ。
それに今は村の人たちの命も預かっているといっても過言ではない。
ベルフルが私の代わりに攻撃しようとしたけれど、制止する。
きっと彼女の棍棒でやられてしまうから。
私は剣を構えた。ドナーさんが作ってくれた、丈夫で魔法を破壊することのできる業物だ。
そのとき、後ろから乙葉さんが駆けてきた。
見たところ大きな怪我はない。よけきれなかっただけで、ちゃんと防いでいたんだ。
その事に気づいたのは、彼女が私に向かってきたからだ。
先に倒して、すぐ振り返るつもりだろう。
そうはさせない。私が、この人を倒す。
「じゃあ、死んでくださいね。――アルス様をたぶらかす、魔女さん!」
――アルス、さま?
「――防御魔法」
その直後、私の攻撃と棍棒の間に半透明の壁が出現した。
魔術式が描かれていることから、これが魔法だとすぐにわかる。
よく見ると、聖女を囲っている。まるで、守るかのように。
……仲間!?
「ちょっとちょっと、どういうこと、コレ!? リリ何してんだよ!?」
「――アルス様! ご無事だったんですね! リリは、悪党からあなたを救いに来たのですよ!」
「は、はあ? とりあえず防御魔法を解くから、みんな攻撃しないでな」
……リリ? アルス様?
防御魔法が解除されると、聖女は棍棒をあっさり投げ捨てた。
そして、アルスさんに近づき、抱き着く。
「や、やめろって。お前、なんでいきなりそんな感じになったんだよ」
「リリは、アルス様を救い出す聖女なんです」
訳が分からない。
でも、私のお腹の底にふつふつと何かが湧き出てくる。
黒くて、熱くて、ボコボコと音を立てて。
「主、彼女はリリ。先日お伝えした履いていない奴です」
「…………」
よく見ると、確かに履いていない。
胸部はたゆっとしていて、ピッチリした聖女のワンピースにライン線も入っていなかった。
そしてアルスさんは、その人に抱き着かれている。
――二人とも、分離させちゃおうかな?
今なら、魔法解除されない力が出せる気がする。
「主、トドメは私にお任せを」
「乙葉、あなたは素晴らしいわ」
こうして私と乙葉ちゃんは、とっても強固な絆が生まれた気がした。
で、この人は誰なんですか。




