第27話 リリ視点vs乙葉+1追加
「リリちゃんって聖女になるの?」
「そうだよ。私は聖女様になるの」
幼い頃の夢は、可愛くて綺麗で美しくて素敵な聖女様だった。
優雅なネックレスを首にぶら下げて、制帽を被って神様に仕える。
「ほら行くわよ。リリちゃんと遊んじゃだめよ。あの子の家、怖いんだから」
「はあい。ママ」
私の友達は、いつもすぐに離れていってしまう。
どうやら私のお父さんが怖い人らしい。
よくわかんないけど、何してるの? って尋ねたら、お医者さんだよって言ってた。
え、だったら凄い人じゃないの? って。
じゃあお父さんは、そうだよって言ってた。
そのことを伝えても、お友達はすぐに離れていっちゃう。
私は独りぼっち。でも、笑顔を絶やさないの。
なんでかって? お母さんが言ってたから。
笑うことはね、凄く幸せなことなんだよって。
でも、死んじゃった。
十歳の誕生日、お父さんが連れていかれた。
なんか、お父さんが悪いお薬を作っていたんだって
皆を元気にするっていってたけど、それが、ちょっと元気になりすぎたんだって。
沢山大人がいたけれど、みんなどっか消えていってしまった。
私は独りぼっち。でも、笑顔を絶やさなかった。
聖女になりたくて、毎日、教会に通っていた。
物を覚えるのは得意だった。教典を一字一句たがわずに呟いていたら、なんと私は聖女見習いとして働くことになった。
私はボロボロの服だったけど、綺麗なお洋服を貸してくれた。
「リリ、あなたは素晴らしいわ。今日から毎日、お外でお祈りしましょうね」
「はい!」
その日から私は、毎日のように外でお祈りを始めた。
お隣には可愛いワンちゃんがいて、聖女様は忙しいから夜まで来られない。
「あら、募金活動なんて偉いわね」
「素晴らしいね。あなた」
「お金、大事に使ってね」
沢山の寄付金をいただいて、聖女様に渡す。
聖女様は、そのお金を嬉しそうに眺めて、いつも私を褒めてくれた。
一年くらいたって、その聖女様はどっかいってしまったけれど、頑張りを認められたらしく、初めて教会の中で仕事ができるようになった。
「なんであの子を聖女見習いに?」
「――聖女と名乗る女性に騙されてたのよ。可哀想でしょ?」
「……犯罪者の娘って聞いたけど」
「あの子はいい子。だから、ちゃんと育てたいの」
それから私は、教会で初めて読み書きを覚えた。
段々と、少しずつ、賢くなっていく。
「私のお父さんは、売人だったんですね。そして私は、偽物の聖女に騙されて、罪もない人たちからお金を奪っていた」
「リリ、あなたはいい子だわ。神に祈りましょう」
十五歳になった私は、今までの悪行をすべて償うかのように毎日祈った。
でも、それも長くは続かなかった。
ある日、慰問会に訪れた私は、偶然、父と出会ったのだ。
「お前、リリか? ――リリ、なあ!」
「……お父さん、ここにいたの?」
「聖女になったのか!? 凄いなお前! ――本当に最高だ。なあ、お願いがあるんだが」
「お願いだなんて、そんなのできないよ。私は、聖女なんだから」
「あ? お前、両親に逆らうのかよ」
「……悪いことはしたくない」
「そうか。なら、母親の居場所は教えられないな」
「――どういう、こと」
私の母は病気で亡くなったと聞いていた。
でも本当は、私を置いて去っていったのだという。
私は、お母さんが大好きだった。
「甘い物が食べたいだけなんだよ。チョコレートを、な?」
「……………」
会いたくて会いたくて、私は、週に一度、チョコレートと少しのお金をお父さんに渡した。
しかし、それはチョコレートではなかった。
何かはわからなかったけど、とっても悪いものだったらしく、私は、聖女教会を追放された。
お母さんの居場所も教えてもらえなかった。
私は、また独りぼっちになった。
ご飯を食べなきゃ生きていられない。私は国を転々として、とあるおじさんと出会った。
美味しいパンを食べさせてくれて、そして――。
「――元聖女なのか」
「はい。この御恩は必ず返します」
「ちょうどいい、相棒が欲しかったんだ」
「相棒、ですか?」
「なあに、ただ傍に立っているだけの仕事さ」
「悪いことはしません」
「――俺もだ。悪い奴らを、許せないんだよ」
言葉の通り、おじさんは悪い人が大嫌いだった。
嫌いで、嫌いで、嫌いすぎて、悪い人を殺す仕事をしていた。
おじさんは、なぜか私に近しい者を感じたという。
初めは抵抗があった。でも、私と同じような人が現れないように、私もおじさんの仕事を手伝うようになった。
幸い、才能がったらしい。
私は、段々と強くなっていった。
殺して、殺して、殺して、殺して殺して、殺す。
――悪人は、殺しても殺してもすぐ湧いてくる。
「リリ、お前の心は聖女のように美しい。――だから、笑って生きろよ」
おじさんのおかげで、私はふたたび聖女として働けるようになった。
おじさんは教会の人と繋がりがあり、私の罪を赦免してもらったのだ。
だけど、暗殺のお仕事は続けていた。
悪人を殺すのは何とも思わなかった。
子供を十人殺し、十一人目を殺そうとしている悪人を殺して、何が悪いのだろうか?
私は聖女として、暗殺者として、どちらも笑顔で過ごせるようになっていった。
それからほどなくして、おじさんが死んだ。どうやら、逆恨みで悪党に殺されたのだ。私はなんとか逃げ切り、また新しい国に行くことになった。
今まで多くのことを学んだ私は、大勢から好かれる術を身に着けた。
裏と表を使い分けて、貴族たちと交友を持つようになった。
ただ。その国では教会がなく、宗教がなかった。
ふと、チョコレートを思い出す。
あのときの罪をまだ償っていない。
私はチョコレートを販売することにした。
安く買い取り、子供たちに販売し、喜んでもらう。
「リリお姉ちゃん、ありがとう!」
――天職、だと思った。
もちろん、その国に悪い人がいたら容赦なく殺した。
そんな日々を続けていたある日、仲の良かった大聖女様から別れ際に頂いた、魔法手錠を悪党に奪われてしまった。
奪った相手を殺しに行こうと思ったら、何とも面倒な場所だった。
そのとき、ある男と出会った。
「あなた、誰ですか?」
「アルス・ギルバート。悪いけど、ここは通さないぜ」
悪党の手先、そう思い、一撃で頭蓋骨を粉砕しようとした。
しかし、男の魔法はありえないほど硬く、ただの一撃も与えることができなかった。
しかしアルスは女は殺さないと言って、私を逃がしてくれた。
今まで私は、女性扱いをされたことがなかった。
騙し、騙され、悪党を恨んできた。
でも、アルスは違った。
何度か戦って気づいたことがある。
彼は、人をむやみやたらと傷つけるようなことはしない。
火の粉を振り払うだけ。過度な攻撃もしない。
そして、気づいたのだ。
彼は、騙されている。
私が、アルス様を解き放ってあげよう。
「アルス様、ここから逃げ出しませんか?」
「悪いが、先代の恩があってな」
「でしたら、リリが全部ぶっ壊して連れていってあげますからね」
アルス様は、昔の私だ。騙されて、何も知らない。
だから、私が救ってあげなきゃいけない。
アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様、 アルス様。
――リリが、あなたを救ってあげますからね。
「乙葉ちゃん。あなたは邪魔ですよ。――アルス様の近くでぶんぶんしている悪党は、私がぶち殺してあげます!!!!!!!」
リリが棍棒を思い切り振りかぶると、高速で動いていた乙葉に直撃する。
轟音を響かせ、そのまま木をなぎ倒しながら吹き飛んでいく。
「ふふふ、殺す、殺す殺す――」
リリが嬉しそうに叫ぶと、後ろから殺気を感じた。
頭を思い切り下げると、クナイが空を切る。
振り返ると、乙葉が立っていた。
「あれ、なんでそっちにいるんですかー?」
「空蝉の術だ」
二人が間一髪の攻防をしていると、そこに、もう一人女性が現れた。
「え、なにこの状況……!?」
厄災の魔女、エレナである。
その姿を見て、リリは思い出す。
――『厄災の魔女』
「あなたが、魔女さんですか。――悪党の、親玉ですねえ?」




