第23話 村の価値を高めよう。
アナグラムたちがパレット村の住人になった。
「ありがとう、助かるわあ。アナさん」
「いえ、いつでもお手伝い致します」
「アナ、遊ぼ~」
「うむ」
寡黙で渋い感じなのに順応性が高い。
仲間たちもすっかり田舎暮らしが楽しいらしく、笑顔で畑仕事をしている。
子供とたっぷり遊んだあと、アナグラムがジッと俺を見つめる。
それから小走りで近づいてくる。
「アルス兄貴。昨晩はお湯、ありがとうございました。つうか……なんですかあれ? 一晩で魔力が回復したんですが」
「ああ、魔力回復効果があるんだ。傷も治るし、腰痛も治る」
「マジですか」
昨晩、アナグラムたちも温泉に入っていた。
それからは話していなかったが、そのことだろう。
同時に険しい表情になる。
アナグラムは強いだけじゃなくて頭もいいんだな。
この場所は戦争が起きたときに真っ先に狙われるだろう。
前線としては最高の場所だ。なんせ、傷を癒す効果のある土地なのだから。
ここを拠点とすれば大幅に有利になる。
それをわかっているのは、今はパレット村の住人だけだが。
「今ならまだ間に合うぞ。この村から出て行っても、誰も文句は言わん」
「……アルス兄貴は俺の憧れですよ。いずれ肩を並べて戦えるかもしれないと思えば、武者震いでむしろ嬉しいです」
「そうか――で、アルス兄貴ってなに? いつからそんな呼び方になったの?」
昨日まではアルスだった。なのに突然、距離感遠くない? 普通近づくよね?
「兄貴は俺の憧れです。これからも、そう呼ばせてください」
中腰で、膝をまげて、うっすと声を出す。
気まず。俺のほうが年下だぞ。
何度やめようと伝えても、これは大事なことだと言われた。
「後から後悔するかもよ」
「その時はその時です。冒険者なんで、慣れてますよ。ただ……その横のベルファルにはまだ慣れませんが……」
「ベルちゃんだ。可愛いよ?」
「がう、がうがう!」
アナグラムが来たとには、ベルフルはみんな水浴びでいなかった。
あとから戻ってきたときの顔は、ちょっとおもしろかったな。
俺の横にいるのが元ボスのベルちゃん。デカいが、優しくていい子だ。
「おい、アナ~! ちょっと来てくれ! 岩盤がでてきて力がいる!」
「ほな、ちょっと仲間に呼ばれたんでいってきます」
「あいよ」
アナグラムが離れていくと同時に、エレナが俺を呼んでいた。
「ドナーさんの所に頼んでいた試作品の第一弾ができたそうですよ」
「おお、早いな。さすが元王都騎士団のお抱え鍛冶屋だ」
「え、そうなんですか!?」
「ドナーさんは有名人だからな。多分、この村で一番凄い人だぞ」
「知りませんでした……そう考えるとパレット村、凄い人の集まり過ぎじゃないですか?」
「そうかもな」
厄災の魔女と呼ばれたエレナも相当なものだと思うが。
規模を考えると軍事力も相当なものだ。
頼もしい限りだが、平和なままが一番ありがたい。
パレット村は居心地がいい。俺も毎日が楽しい。
だからこそ、さらに村を強固にするためにドナーさんの力が必要だ。
「でも、全部アルスさんのおかげですね」
「ん、俺が? どういうことだ?」
「この村は元々、アルスさんがいなければ大変なことになっていました。私がここに来たのも、乙葉さんも、ベルファルも、アナグラムさんたちもですよ」
そう言われれみればそうだが、この村に来たのは偶然だ。
そもそも、行くところがなかったからな。
できるだけ快適にしたほうがいい、という浅ましい気持ちでしかないわけだし。
「感謝しています。だから、自分だけで抱え込まないでくださいね。私が、お手伝いしますから」
「いいやつだなエレナは」
「ふふふ、いい人になりたいです。今までは、人を壊すことしかしませんでしたから」
「言い方が怖い」
「すみません。今まで迷惑しか生きてこなくて……」
いや、落ち込まないで!?
乙葉が来るからさ、そういうので!?
「アルスさん、見てくれよ。凄いぜ、これは」
エレナと一緒にドナーさん宅へ到着。
見せてくれたのは、美しすぎる波紋が浮かび上がった剣だ。
まだ柄もなく、抜き身のままだが、丁寧に渡してくれる。
八咫烏も素晴らしいが、ドナーさんが作ってくれた刀には魔力が帯びていることがわかった。
さらに不思議な違和感がある。なんだろう、何違う。
「――さすがアルスさん。気づいたか」
ドナーさんがニヤリと笑う。
すると、刀を傷つけてほしいと言い出す。
「こんな綺麗なのに、ですか?」
「いいから、面白いもんが見れるぜ。俺は今まで沢山の鉱物を加工してきた。でもこれは、生涯で初めてみた」
傷つける、といってもどこまですればいいのだろうか。
分離で刀を分解してもらうのもアレだしな。
俺は、目の前に小さな結界魔法を発動させた。
硬度、耐久力だけを著しく高めたもの。
ドナーさんの言葉通り、申し訳ないがブンっと振る。
刀は結界に当たると、衝撃ではじかれた。
物理障壁なので、どれだけ切れ味がよくてもこうなってしまう。
しかし、魔力を含んでいたからか、少しだけ結界に切れ目が入る。
「凄い……」
はたから見ればこれだけ? と思うかもしれないが、俺からすれば驚きのものだった。つまりこれは魔法も斬れる剣ということになる。
まさに画期的な剣だ。
「ドナーさん。これは凄い……みんなが欲しがりますね」
「はは、でもそれだけじゃねえぜ」
「え?」
刀は、結界魔法を切ろうとしたことにより先端が欠けていた。
だが、じゅくじゅくと液のようなものが染み出ると、何と欠けていた部分が綺麗さっぱり元通り。
「再生ですか!?」
「ああ、アルスさんがもってきてくれた鉱物に温泉が含まれていたんだ。だから、魔力を含んだ剣になるだろうとは思っていた。しかし、それ以上の出来事が起きた。元通りになるんだ。といっても、魔力を使って復元しているみたいだから永久にってわけじゃないけどな。それでも、これはすげえぜ」
確かにこれは凄い。防具にも使えると思うと凄すぎる。
戦いで一番困るのは、武器や防具の劣化だ。
魔法使いだって魔力が切れれば何もできないし、近接の場合はそれが武器に当たる。
……この村の価値、とんでもなく爆上がりしてないか?
「アルスさんが事前に加工してくれたおかげだよ。魔法ってすげえんだな」
「いや、不純物を取り除いたのはエレナですよ」
「私はただ分離しただけです。実際に加工できるまで整えてくれたのはアルスさんですよ。でも、一番凄いのはドナーさんだと思いますが」
「同意だな」
すると、ドナーさんが笑っていた。
「不純物を取り除くことがどれだけ大変か。アルスさんは魔法で圧縮してくれたおかげで凄まじい硬度になってた。二人のおかげだよ」
俺は今まで結界魔法や防御魔法は、何か守るためだけしかないと思っていた。
でも、エレナが分離してくれたおかげで、さらに圧縮することができた。
こういう使い方もあったんだな。
それに気づいたのはエレナもらしく、微笑んでいた。
「とりあえず、作れる分だけは作るぜ。これをどう使うかは任せるぜ」
「ありがとう。ドナーさん」
まずはアナグラムたちや乙葉に持ってもらう予定だ。
何かあったとき、これだけ凄まじい武器があると戦うときに発揮してくれるだろう。
そしてできれば、この村の価値をさらに高めたい。
一番良いのは、利用価値があると判断してもらって、村の存在を確かなものにしていく。
そのために必要なのは、信用できる商人だな。
そーいえばあいつも、表向きは商人だとかいってたよーな気がするな。




