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第22話 パレット村

「アナ、勝てよ!」

「夜飯賭けてんぞ!」

「やっちまえー!」


 仲間たちはすでに観戦を楽しんでいた。

 冒険者の素質は順応性だ。あいつらすげえな。さっきまで早く行こうぜとか言ってなかったか?


「合図は」

「いつでもいい。そっちの――」


 俺の返答に、アナグラムがいきなり一刀を投げてきた。

 凄まじく早い。

 一直線で剛速球。ブレがまったくなく、線が飛んできたように見える。


 ――凄い。


 少し舐めていたかもしれない。この男は、一流の冒険者だ。


 アナグラムは同時に駆けてきている。

 俺が魔法を詠唱すると、その隙に側面か背面に回って攻撃を仕掛けるんだろう。

 回避したら、その硬直を狙う。

 魔法使いを熟知した、いい戦い方だ。


 となると、元々二刀流使いでもないのか。

 このためだけに、二刀を構えた。


 ――おもしろい。


 俺は、前面に防御魔法を展開した。

 アナグラムは一歩だけ右に移動する。

 魔法を続けて詠唱するにはどうしても時間がかかる。


 このままだと俺は一撃を入れラルが、次の瞬間、アナグラムが空に舞い上がった。


「――なっ!?」


 訳が分からないまま、それでも顔を下に向ける。

 だが、底には俺もいない。

 俺も、同じく飛んでいたからだ。

 空中で顔を見合わせ、驚いたアナグラムは焦って剣を振ってきたので、軽々と回避する。

 そのまま空の上で蹴りつけると、アナグラムは地面にたたきつけられた。


「――クソっ、何だ今のは」

跳躍(バウンド)、という魔法だ。地面に設置する。俺が防御魔法を詠唱したわけじゃない。お前の足元に設置したんだ。俺は、自力で飛んだ。」

 

 アナグラムは元気だ。

 しかし、もうやる気はないみたいだった。

 わかったのだろう。殺る気なら、追撃で死んでいる。


「……はあ、やっぱ俺って才能がねえな」

「いや、そんなことなかった。むしろすごいと思ったね。いい発想だったし、驚いた」


 戦いとは虚を突くこと。

 真正面から戦う必要なんてない。

 どれだけ相手を出し抜き、倒すかだ。


 その点、アナグラムの初撃は凄まじく驚いた。

 俺も、同じようなタイプだから素直に称賛する。


 歩み寄り、右手をかざす。


「アルスだ。アナグラム」

「……ありがとよ。約束だ。この村のことは話さない。なあ、一つ聞いていいか」

「ん、なんだ?」

「お前たちは冒険者の資格を取ったことはあるか? それだけの腕だ。便宜上、取得することもあったりしないか? 一体、俺を倒した相手がどれほどのもんかと――」

「ああ、俺はS級だよ」

「……嘘だろ?」

「そう。昨日の女、そこの女がA級だ」

「わ、私は上げてないだけだ!」


 乙葉が騒ぐも、またまた母娘モードに入る。

 アナグラムは、思い切り笑った。


「まさか、すべてを諦めたら夢が叶うとは思わなかった」


 え、夢……?

 まさか、空を飛んだのが?


 意外と子供っぽい人だったんだな。


「なあ、俺をこの村で雇ってくれないか」

「ん、え? 雇う?」

「冒険者としてだ。こいつら四人も腕利きなんだよ。衣食住の提供さえしてもらえれば金は後でもいい。敵が来る可能性があるんだろ? だったら戦えるやつはいたほうがいいはずだ」


 突然の言葉に困惑するも、アナグラムの言っていることは最もだ。

 なんせ、純粋な戦士がいない。


 俺とエレナは魔法使いだし、乙葉も真正面で戦うわけじゃない。

 その点、彼らは戦士みたいだしな。


「仲間に相談しなくていいのか?」

「あいつらも気に入ったみたいだ」


 後ろを見ると、村人たちとにこやかに挨拶している。

 どうやら、観戦しながら果物をもらっていたそうだ。

 さすが冒険者すぎる。村人も優しすぎる。


 エレナと乙葉にも相談した。

 エレナは少し不安がっていたが、村人を守れる可能性が上がるならいいと言ってくれた。


「アナグラム、これから頼むぜ。金は……結構待ってくれるか?」

「どうせ行くところもなかったんだ。構わない」


 ひょんなことから冒険者を雇うことになった。

 っても、当分は同じ村人のような扱いだが。


「な、なあ」

「ん、どうした?」


 するとアナグラムは、まるで少年のような目で恥ずかしそうに声をかけてきた。

 さっきまで堂々としていたのに、どうしたんだ。


「……どうだったかなと思ってさ。俺の……動き」

「動き? ああ、さっきのか。――かなりいい動きだった。俺にはない、しなやかさもあったし、発想も凄いと思った。今度俺も、使ってもいいかな?」


 八咫烏(やたがらす)を投げたら、相手も驚くだろうな。

 武器を拾っても使えないから安心だし。


 その場面を乙葉が見たらうるさいだろうけど。


 アナグラムは、めちゃくちゃ満面の笑みをした。

 何で子供みたいになるんだ。


「ありがとう。アルス」

「お、おう? どういたしまして」

「よし、みんな今日からこの”アルス村”で過ごすことになった! 困ったときは、俺たちが力になるぜ!」

「「「「おお!」」」」


 マジで冒険者って順応性が高いな。


 って今、”アルス村”って言った……?



 そしてそのことをきっかけに、村人達も含めてなぜかアルス村と言い始めた。


 子供まで言い始め、俺は困惑した。


 めちゃくちゃ嫌だったので、必死に考えることになった。


 すると、ふとリナちゃんが絵を描いていたことで思いつく。



「パレット村、はどうだろうか。今この村にはいろんな人がいる。それはまるで、絵の具みたいだなと思って」


 恥ずかしかったが、村人はみんな喜んでくれた。


 こうしてパレット村と正式に決定した。



「ジャワ村のほうが……」


 村長は、最後まで抵抗していた。

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