第21話 村の名前が決まりました。
「アナグラムだ。B級冒険者。この村のことは知らなかった」
翌朝、冒険者たちが目を覚ました。
俺は事情を尋ねるために、エレナ、乙葉とともに警戒しながら質問をする。
ボルド国へ行く予定だったらしい。
受け答えに怪しいこともなかったので、むしろこっちが悪者側だ。
「アルス、処分はどうするんだ」
「俺を悪の親玉に仕立て上げるな。乙葉」
「アルスさん、侵入者は殺すって言ってませんでしたか?」
「エレナ、それは王城のときの話だ。ごっちゃになってる」
俺たちのコミカルで物騒な話は、冒険者たちを怖がらせた。
今はロープで縛っているから余計だろう。
だが、リーダー格と思われるアナグラムだけは違った。
堂々としていて、このまま人生が終わってもいい、みたいなことを言いだしそうな渋さもある。
年齢は俺よりも上だ。乙葉は一撃で倒したと言っていたが、明るいときなら違ったかもしれぬ、と言っていた。
つまり、かなり強いんだろうな。
「エレナ、ロープを解いてやってくれ」
「え、いいんですか?」
「ああ」
分離で、ロープがすりるとほどける。
冒険者たちは歓喜するも、アナグラムだけはスッと立ち上がり、俺たちを睨んだ。
武器は預からせてもらっている。
誤解はしたくないので、俺たちも事情は話した。
今この場所は四つの大国のどこかから狙われていることを。
「納得いかないかもしれんが、危害を加えるつもりはなかった。見てわかる通り、子供もいるんだ。できるだけ、穏便に済ませたい」
虫のいい話かもしれない。
武器も取り上げ、ロープで縛っていた。
相手からすれば激怒してもおかしくないだろうが、揉めるほど馬鹿でもないだろう。四人の冒険者はすぐにでもここから立ち去りたい雰囲気だったが、アナグラムは堂々としていた。
「ボルド国に行っても、この村のことは話すな、そういうことか?」
「そうだ」
「虫のいい話だな。このあたりは誰の領地でもないんだろ? 俺たちは何の罪も犯していない、なのに、言うことを聞けと」
「そういうことだな」
アナグラムは冷静だった。逆の立場なら、俺ならすぐ逃げたくなるだろう。
「お、おいアナ、行こうぜ」
「そうだ。別に怪我もねえんだしよ」
「――条件がある」
仲間の言葉を聞かず、アナは堂々と声を上げた。
金か。
まあ当たり前だろうな。冒険者なんだから。
残念ながら金はない。金になりそうな刀は持っているが、これはあげることができない。
村に出させるわけにもいかないしな。
俺の横のエレナの表情が曇っていく。
結構容赦ないんだよな、この人。
「俺ともう一度戦ってくれないか」
「……え? 誰と?」
「昨日の女だ。そこの、黒づくめのやつだろ?」
そ、そんなんでいいの?
俺は乙葉をチラリと見る。
しかし、なぜかプイッとされた。
「乙葉、よろしく頼む」
「嫌じゃ」
「なんでだよ」
「こいつらは悪人ではない。私も悪人ではない。無用な戦いは好まぬ」
俺も違うんだけど! なんでだよ!
エレナにお願いしようとしたが、「うーん、でも乙葉さんの言っていることもわかります」みたいな表情をされた。表情だけで、ここまでわかるって凄い。
「ということなんですが」
「俺はこの条件以外、飲むつもりはない。でなければ、ボルド国でこの村のことを話す」
アナグラムは折れる気がないようだ。
というか、何でこの人覚悟ガンギマリなんだ……早死にするよ。
こういう顔してる人は、何を言っても無駄なんだよな。
しかし乙葉は一切動かない。
「だったら、俺が相手するのはどうだ」
「悪いが、俺はこの女と――」
「俺は、この女に負けたことが一度もない」
「冗談は……本当なのか?」
俺の言葉にアナグラムの眉がピクリ動く。
疑っていたが、すぐに本当だと気づく。
なぜ気づいたのか。それは――。
「アルス! 私が負けていたのは敵陣の中で戦っていからだ! まともな対戦なら、私が勝つ! 勝つ!!」
ぷんぷんと怒っている乙葉がいたからだ。
顔を真っ赤にさせて、まるで子どもみたいに。
こうなるとその次は……。
「あるじぃ、アルスがいじめる」
「よしよし、アルスさんは大悪党ですからね」
やっぱり、母娘モードの突入した。
こうなると長いんだ、あれ。
アナグラムは困惑していた。俺を倒した相手が、こんな情緒不安定なやつだっただなんて、みたいな顔している。
乙葉、今の状況のほうが失礼だぞ。
「アナグラム、どうする? それとも怖いか?」
「――なわけねえだろ」
だが覚悟は決まったようだ。
俺は、アナグラムに武器を返した。
エレナに止められたが、大丈夫だと伝えて。
めずらしく二刀流の使い手らしい。
俺は、八咫烏を地面に置く。
「お前、手加減するのか?」
「逆だ。俺は魔法使いだからな。敬意を持って、本気でやる」
アナグラムの考えていることはわからないが、本気で戦いたいと思っていることがわかった。
ならその気持ちは汲んでやらなきゃだめだ。




