第18話 外壁作り
外壁を作ることが決定した。
いってしまえばただの壁ではあるが、外敵から身を守ることができるだけでなく、この上ない安心感になる。
また、見張り台を壁際に設置することで、さらに強固な守りを作ることにした。
そして、その一番の理由は――。
「ま、また魔物が来てる」
アンネさんの娘、リナちゃんが村の外を見ながら怯える。
年齢は八歳、わがままも言わないいい子だ。
村の外には、ベルファルよりも遥かに格下のリスの魔物がいた。
元々は安全な山だったが、四つの大国が戦場状態に陥りそうなことで、魔物の生態系がかわってきているらしい。
弱い魔物ほど生存本能が高い。安全な場所へ移動していたら、この村の近くにたどり着いたんだろう。
結界で保護しているものの、いるというだけで不安な気持ちはわかる。
蜂がぶんぶん体の周りをまわっていて、刺されないよ~と言われても怖い。そんな感じだろう。ただ蜂は刺してくるかも。
もちろん、声には出さないが村人の全員が思っている。
いや、二名はのぞいて。
厄災のエレナと忍びの乙葉は別だ。
「リナちゃんを怖がらせるなんて……魔物を分離してきます」
「主が行くならば、私もお供いたします。七代先まで根絶やしにしましょう」
「それはやりすぎだろ」
彼女たちが揃うと、俺がつっこみ役になってしまう。できれば、おいおい! と言われる側でありたい。
乙葉が毒で死にかけているところを、エレナが分離で助けたらしい。
恩義を感じ、主と認定したそうだ。
それで俺が感じたことは、こいつ、忍びじゃなかったのか? という疑問だ。
食べる前に気づかなかったんだろうか。
毒見役って、忍びの本領発揮なんじゃないのか?
いや、忍びにも種類がたくさんあるのか。
食の里、とかかもしれないしな。今の時代、決めつけは良くない。
っと、リナちゃんが怖がってるな。
しゃがみこみ、そっと頭を撫でる。
「大丈夫だよ。もうすぐ、見られることもなくから」
「ほんと?」
「約束する。だから、安心してくれ」
「……うん」
素直でいい子だな。
子供は国の宝。いや、村の宝だ。
すると、俺の行動を乙葉がじっと見ていた。
「なんだ」
「悪党とは思えぬ所作だと思っただけだ」
そういえば乙葉からすれば俺は悪党だった。
秘宝を盗まれ、取り返しにいったら、よくわからない結界野郎が立ちふさがってくる。しかも手加減しない。両腕を吹っ飛ばし、右目も吹っ飛ばしてくる。
うーん、申し訳ない。
「誤解してるみたいだな。自分を善人とまで言い切るつもりはないが、人は好きだよ」
「ほお……私にあれほどのことをしてか?」
「あれほど、とはなんですか?」
隣のエレナが、乙葉に疑問を投げかける。
そう言えばまだ話していないのだろうか。
だって仕方ないだろう。俺も仕事だ。殺すつもりで戦うのは当然だ。
しかし女性だと気づいて、やめた。
善人気どりではなく、ただ俺の中の決まりみたいなものだ。
反省はしている。
「アルスは、私の腕を――」
「乙葉、乙葉、再戦、再戦」
俺は、餌をぶら下げるように言った。
乙葉も……そうだな、と納得してくれる。
といっても、俺がやりすぎたのは彼女が強いからだ。
軽く傷つけるなんて不可能なほどに。
エレナはまだ気づいていないみたいだが、忍びの乙葉の本領発揮は夜だ。
まあ、そのうちみられるだろう。
主と呼ぶ人懐っこい子猫みたいな彼女が、とてつもなく牙を持つ狼なことに。
「乙葉ちゃん、私がいるから安心してね。もう傷つけさせないから」
「はい、主様」
いや、傷つけられそうになっているのは俺なんだが。
まあ仲良くしているのはいいことか。
まずは木材を集めることになった。
村人たちとも協力して、石と合わせて壁を作る。
「外壁って、木と石の壁かい?」
「耐久性は大丈夫なんだろうか……」
「火矢で燃えるんじゃないのか? アルスさん」
俺の言葉にただ従うわけでなく、みんなちゃんと考えてくれているみたいだ。
しかし、もちろん考えはある。
口頭で説明するよりは実際に見せたほうがいいだろうと思い、まずは不安を理解しながらもお願いした。
「八咫烏が、我が秘宝が、木を切るために……あぁあああああ!」
「これが一番効率早いんだから許してくれよ」
「はい、乙葉ちゃん。あっちで木材切ろうね」
「うう……あるじぃ」
いつからここは託児所になったんだ?
俺は八咫烏を使って木を、エレナは石を効率よく分離させ、乙葉は短剣で枝木をバタバタとなぎ倒していく。
村人たちは昔から斧をよく使っていたらしく、人海戦術で半日もあればかなりの数が集まった。
今度、村を拡大させていくことも視野に入れて、外壁を立てる場所は離れた場所にしておく。
幸い、この村の周りは誰の領地でもない。
「でもここからどうするんですか? 木材と石だけじゃ、壁を作るのには何日もかかる……」
村人が不安そうに声を上げた
最もな質問だ。
だから、俺は魔法を発動させた。
指鳴らすと、結界魔法が囲むように発動し、うっすらと光の壁が現れる。
「おお、これはなんだ!?」
「魔法、か!?」
「幻想的だ」
「これはただ光っているわけではありません。この結界にそって木を並べ、石を敷き詰めて土を張り付ければ、魔法すらも防ぐ強力な外壁となります。次にいつ敵が現れるかわかりませんので、みんなで一丸となって頑張りましょう!」
いつもは、こんな丁寧な言い方では話さない。
しかしここからは少し時間がかかる。最初は、みんなを鼓舞したほうがいいもんな。
俺の気持ちを汲んで入れたのか、村人たちもやる気に満ちた声を上げる。
「アルスさん、村人たちは喜んでますけど、結界魔法を常に展開しておくんですか? 魔力の消費が追い付かないと思うんですが」
魔法を扱えるエレナが、そのことに気づく。
しかし、それはもう解決している。
「その通りだ。でも、壁が設置できれば俺は必要ないよ」
「え、どういうことですか?」
「この下には、何が流れている?」
「――温泉、ですか!?」
「そう。実は、試しに結界を張りながらどうなるか調べてたんだ。温泉が結界の魔力を補充し、常に展開し続けていた。――つまりここは、誰も気づいていなかったが、どこの国よりも強固になる素質がある」
温泉だけでなく、地脈に魔力が流れている。
作物はすくすく育つし、集めてきた木も石も通常より遥かに質がいい。
村人たちは気づいていなかっただろうし、大国も睨み合ってるせいで知らなかったんだろうな。
いずれこの村はもっと発展する。
そうなれば俺も幸せに暮らせるだろうし、ここを拠点にのんびりしたいな。
もう、人の為だけに働くのは十分だしな。
それから七日間。
朝から晩まで壁作りに奮闘した。
村人たちだけならもっとかかっただろうが、俺の魔法や乙葉の尽力、エレナの魔法のおかげで何倍も速かった。
その辺の外壁なんかじゃ太刀打ちできない、魔法をも跳ね返す強固な壁が出来上がったのだ。
「すげぇ……俺たち、とんでもないものを作っちまったぞ」
「門まで……これで、夜は安心して眠れるな」
「凄い。――アルスさん、ありがとう」
俺だけの手柄ではないのに、みんな褒めてくれた。
その気持ちが、嬉しかった。
「えへへ、落ち着く。アルス、ありがとう」
「呼び捨てか? まあ、許すぜ。リナちゃん」
俺への信頼度も上がったみたいで、どうやらすべてうまくいく。
そして俺が思っていたより早く、この外壁はすぐに効力を発揮することになる。




