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第15話 殺す? 殺さない? あれ? それ?

 聞き間違いだろうか?


 今、アルスさんの名前を口にしたような。

 しかし普通、人を殺すことをここまでハキハキして話すだろうか? 洋菓子を食べて毒で死にそうになっていたし、もし追っ手なら私のことも知っているはず。

 流石に気のせいなはず。

 

 でも、念のため。


 もう一度尋ねておく。


「あ、あの乙葉ちゃん」

「私のことは、乙葉、とお呼びくださいませ! 主様!」


 やっぱり変な人だ。だけど、ここは情報を聞き出すために彼女の言葉に乗る。


「乙葉よ」

「ハッ! 私の命は主様のため、私の身体は主様のため!」


 重い。

 よくわからないけれど、主ってそんな偉いのかな。

 命を預かるって大変そうだ、主って。


「さっき、何て言ったの?」

「命を助けてくれたこと、それすなわち主。乙葉は、あなた様にお仕えします。ただし、乙葉には殺すべき相手がいます。任務を終えた後、必ず主様にお仕え致します。命には、命で!」


 結構巻き戻ったな。

 でも、やっぱり聞き間違いじゃない。

 殺すべき相手がいる、と言っている。


 もし彼女がアルスさんを追いかけてきた刺客ならば容赦しない。

 ただちに彼女を分離し、アルスさんの無事を守る。


 悪い人ではなさそうだけれど、私は、アルスさんを守ると決めた。


「……誰を、殺すの?」


 片膝をついたまま、乙葉さんが口を開こうとする。


 ア――ル――ス――。


 次の瞬間、私は両手を乙葉さんに向けた。



 分離(エレゼーション)


 私の認識の中でだけだが、人間は五つで繋がっている。


 頭部、両手、両足。

 当たり前だが、今までこれをやられて生き延びた人はいない。

 残酷な能力だなと感じる。今までは自分の身を守るために使ってきた。


 けれど、今日は人の為に使う。


 乙葉さんには見えないだろうけれど、私の手のひらから黒い霧が放たれる。

 これが魔力、私の想像を形にしてくれる。

 対象の魔力が高いと耐久力が優れていると同義なので、その分の力が必要だ。


 乙葉さんの手足に黒い霧が触れる、その瞬間。


「主様!」


 乙葉さんが目の前から瞬時に消え去った。

 いや、上空から声が聞こえる。


 ハッと見上げると、蜥蜴の魔物が私の頭上に降りてこようとしていた。

 乙葉さんは懐に隠していた短剣を取り出し、真っ二つにする。


 ――速い。


「大丈夫でございますか!?」


 ……強い。


 悪い人には見えないけれど、この速度は恐ろしい。

 もし私が殺そうとしているのがバレたら、彼女はすぐに逃げるだろう。


 いつ寝込みを襲われるかもわからない。


 手加減はしない。


 私は彼女を殺す。騙して殺す。嘘をついて殺す。


 ――その覚悟が、ある。


「ありがとうございます。こちらへ、来ていただけますか?」

「ハッ!」


 霧を纏わせる。いつでも五つに分離させる準備ができた。

 私の魔法は攻撃を想定して生まれたものじゃない。

 そのため、対象からすれば何も感じない。


 だからこそ、気づかれずに殺すことができる。



 ……ごめんなさい、乙葉さん。


 アルスさんは私を地獄から救ってくれた大切な人。

 その為なら、鬼にでも悪魔にでもなる。


「分離――」

「あれ、忍びの乙葉じゃねえか? お前、こんなところで何してんだ?」


 後ろから、声が聞こえた。

 優しく、それでいてしっかりした声色、アルスさんだ。


 乙葉さんの顔色が途端に変わり、険しくなる。

 瞬間、殺意が漲った。

 やっぱりそうだ。アルスさんを追いかけてきていた。

 しかしもうすでに捕えている。一歩も動かせずに、殺す。


「アル――ス!?」


 ほんの少し力を入れようかなと思った矢先、なぜか知らないけれど、乙葉さんの顔面が蒼白になった。

 歯をガクガク震わせ、恐ろしいものを見たかのように。


 ……え、なんで?


 アルスさんを殺しにきたのならば、普通は喜びか、怒りか、真剣な面持ちになるはず。なによりさっき凄まじい動きで魔物を倒していた。

 同じように動けばいいのに、それもしない。なぜかあわあわしている。


 振り返ってアルスさんを見てみたいけれど、分離は対象を見ておかなければ発動できない。よって、私は乙葉さんから目をそらすことはできなかった。


 しかし、一歩も動く気配がない。


「な、な、な、な、な、なんでそれ(・・)を持ってるんだぁ!?」


 ……それ(・・)


「あ、これ(・・)?」

「それだああああああああああああ、なんで、なんでだ!? し、しかもなんだそれ、もしかして使ったのか!?」

「あ、これもしかしてお前の? 使ってるよ。めちゃくちゃ。今日も使ったし、昨日も使った」


 それってなに!? これってなに!?

 

 二人にしかわからない単語が飛び交う中、うずうずして振り返りたくてたまらなくなる。というか、聞けばいい。聞けばいいけれど、分離の魔法に力を割いているため、集中力を切らしたくない。


「待てお前、それ(・・)血だらけじゃないか……」

「ああ、だってめちゃくちゃ使ったもんな。これ、最高だよな。気に入ったわ」


 使った……血……。

 私は一生懸命、乙葉さんの顔面から会話の流れを理解しようとした。でも、さっぱりわからない。

 段々、乙葉さんの顔面が白くなっていく。

 おそらくだが、血が上りすぎたのだろう。

 さっきまで毒素が身体を回っていたし、まだ全快じゃない。そこまで興奮したらそうなる。


「秘宝が……終わった……」


 突然、泡を吹いてその場で倒れる。


 ……やっぱ変な人だ。前言撤回、大丈夫な気がする。


 分離魔法、解除していいかな。


「エレナ、そいつ安全だから分離魔法解除していいよ」

「わかりました」


 アルスさんがそう言ってくれたので、私は魔法を解除した。

 でも、ハッと驚く。


 今まで分離魔法を使っているのかどうかは誰にも気づかれたことはない。

 なのに、アルスさんはわかったんだな。凄い。


 そして勢いよく振り返る。

 やっと答え合わせができるのだ。


「なんでここに乙葉が……さっぱりわからねえな」


 そしてそこには、八咫烏(やたがらす)を片手にいつものアルスさんがいた。


 ……一体、なんの話だったんだ……。


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