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第13話 極楽極楽

 ボルド国、王座の間。


「どういうことだ。魔法手錠(・・・・)は奪われ、苦労して奪った八咫烏(やたがらす)まで盗られただと!? 貴様、ふざけてるのか!」


 現王であるペロドフは、怒り狂いながら片手に持っていたワインを投げつけた。

 片膝をついていたルフ騎士団長の顔面にぶち当たりと、まるで返り血のように顔面に降り注ぐ。


「け、決してふざけてなどはおりません……私も必死で抵抗し、国のために右腕を失ったのですから……!」


 ルフ騎士団長は、右腕に包帯を巻いていた。

 忍びの乙葉に切断されてしまったが、魔法使いを集結させて治癒してもらったものである。

 幸いにも切断面があまりにも綺麗だったこともあり、段々と動くようになってきていた。


「ふん、名誉の傷などとほざいておるらしいが、それすら怪しい。そもそも、お前が立案したのだろうが。魔法使いから魔法だけを抽出し、他国に販売すると。だが、なんだ。ふたを開けてみれば、それができたのは役立たずだけじゃないか! それに厄災の魔女も脱獄したらしいな!」


 サッと、腕を振る。

 すると兵士二人がルフ騎士団長の両腕を左右に掴んだ。


「な、なぜそれを!? お、おやめくださいペロドフ王様!?」

「お前にはほとほと愛想が尽きた。ここで終わらせてやろう」

「お、お待ちください! 作戦が、作戦があるのです!」

「作戦だと?」

「い、いま隣国の平和条約が破られているのは知っているでしょうか?」

「当たり前だろう。私を舐めているのか?」

「い、いえ! つ、つまりですよ! 逃げた二人は、まだどこかに潜伏しているということです! おそらく私の考えでは山の中にいると思われます。食べ物もなく、疲弊し、誰に頼ることもできず、ひもじい思いをしております。もちろん、奪った宝を持ってです!!」


 ルフ騎士団長のはち切れんばかりの声に、ペロドフは耳を塞ぐ。

 しかし、それが本当ならばまだこいつは使える。


「ならば証明してみせよ。逃げることは考えるなよ? それこそ、お前も地下牢獄で飼ってやるからな」

「も、もちろんでございます! 必ず、このボルド城にアルスを、そして厄災の魔女を持ち帰ります! ……あのにっくき、シノビの乙葉もついでに……ぶち殺してやる」

「ふむ、しかし山の中か。そう思うと笑えるな。あのアルスは、私がガキの頃に説教をしてきたのだよ。やれ使用人に強く当たるなだの、やれ口の効き方がなってないだの。――ふぉふぉっ、泥まみれで最低な暮らしをしているのは、誰だふぉふぉっ」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「いやっー、汗を流したあとの温泉は最高だ。そう思うだろ? ベル」

「がうがうがうっ」


 夜。ベルファルとの戦闘を終えて、温泉に入っていた。

 村ごと移動したので、温泉を繋げるのには少し時間はかかった。

 だが今は星空も見えるし、簡易脱衣所もしっかりつながったし、完璧だ。

 で、俺の隣で地面から溢れてる湯に直接あたってるのは、なんと先ほど真剣勝負したベルファルこと、ベル。ちなみにデカい。


「今度、お前も入れるような湯舟作ってやるよ」

「がう!」


 俺のことを主人と認めてくれたらしく、仲間と合わせて今は借りてきた犬のように大人しい。

 もちろん、全員が俺に懐いているわけじゃない。

 ベルファルにも個性があって、それぞれ、自分が好きだと思った村の人たちと仲良くし始めた。

 強くて忠誠心が高く、それでいてカワイイ。

 村人もまだ恐ろしいと思っているみたいだが、すぐに馴染むだろう。

 低級の魔物ならベルファルの匂いを感じ取っただけで逃げるだろうし、たとえ魔物が襲ってきても、ベルファルとの関係性をしっかり築いていれば助けてくれる。


 よってこの村は、一夜にして並の兵士を超える武力を手に入れた。



「アルスさん、お洋服こちらに置いといてもいいですか?」

「え? あ、ああありがとうアンネさん」

「はい。――とっても格好良かったです。村を救ってくださり、ありがとうございます」

「あ、いえいえ。娘さんにもよろしく言っといてください」

「……はい」 


 ベルファルとの戦闘を終えたあと、アンネさんは俺のことをめちゃくちゃ褒めてくれた。いやほんと、めちゃくちゃ。

 娘さんも俺のことを気に入ってくれたのか、アルス、凄い、アルス凄いと何度も言ってくれた。


 嬉しいが、防御魔法を展開していただけなので、そこまでか? という思いもある。


 しかし、


「……人から感謝されるのって、こんなに嬉しいもんなんだな」


 俺は、空を見上げながらしみじみ。


 今まで、たった一人で王城を守っていた。

 先代の約束を守るために、ずっと、孤独に戦ってきていた。


 でも今は大勢の味方がいる。


「あ、あの、アルスさん」


 次に聞こえてきたのは、エレナの声だ。

 脱衣所の壁をへだてている。あっちは、女湯。


「ん、どうした?」

「その……すいません。私、何もできなくて」

「ああ、そんなことか。いや、俺が勝手にやったことだからな。気にしなくていいよ」

「……私なら……ただ、殺すことしかできませんでした……アルスさんは、凄いです」


 相変わらず自己肯定感が低いんだな。

 この村ができたのはエレナのおかげなのに。


「分離魔法がなければ俺は村を守ることすら考えなかった。だから、ベルファルが仲間になったのはお前のおかげだ。というか、これから村にとって必要なのはエレナになると思うよ」


 こういっても納得はできないだろうな。

 ただ、本気でそう思ってる。俺と違って開拓に向いてるもんな。

 まあ、なんか失礼なので言わないが。


「そう言っていただけて嬉しいです。――ただ、戦うときは私も役に立ちますから」


 壁をくわだて、魔力が可視化されるほどオーラが溢れる。

 俺の治癒で傷は治せても魔力は回復していなかった。でも、温泉のおかげで戻ってきているみたいだ。


 ……ていうか、強くね? いや、強過ぎね?


 俺が今まで戦ってきた相手と対しても凄まじい魔力量だ。


 厄災って名前の意味も分かる気がする。


「頼りにしてるよ。そいや、夜ご飯なんだろうな」

「はい。あ、みんなで宴をしようと村長さんが言っていました。ベルちゃんが獲物をとってきてくれたみたいで、とびきりのお肉をたらふく食べられるそうですよ!」

「へえ、そりゃ楽しみだ」


 ひょんなことから始まった村への移住だが、これからもっと楽しくなりそうだ。


 ただ、ルフ騎士団長がずっと黙ってると思えないし、もう少し村を強固にしておくか。

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