第12話 村人、アンネ視点。未来への希望
私の名前はアンネ。
山の集落に住む、冴えない普通の女性だ。
元々は冒険者をしていた。
自慢じゃないけれど、それなりに才能があったと思う。
魔物を倒していくうちに、いつしか俊敏のアンネと呼ばれ、多くの人に尊敬された。
やることは簡単だ。魔物を見つけ、攻撃を回避し、倒す。
その、繰り返し。
ちょうど、一番調子乗っているときだった。
ある人に、出会った。
「へえ、強いなアンタ」
私よりランクが下の、小生意気な冒険者の男性だ。
長槍を使って、圧倒的な火力で敵を倒すのが彼の特徴だった。
私より動きが遅いのに、その上から目線が気に食わなかった。
でも、神様のいたずらなのか、彼とは狩場でよく出会った。
ダンジョンのパーティーも一緒になったことがあるし、どっちがが苦しいときも、なぜかよくばったり会った。
だから当然のように、私たちは惹かれあった。
「絶対幸せにするからな」
彼の結婚の言葉は、私が想像していたよりも短かったけど、それでも凄く嬉しかった。
私たちはお互いに山や森、自然が好きだった。
狩りの途中でよく休ませてくれて、温泉があった村に移住すると決めたのは、ごく自然なことだった。
穏やかな日々の中に娘が生まれた。
私たちは、さらに幸せになった。
けれども、数年が経過してから問題が多々起きるようになった。
この村は四つの大国の真ん中にある。
どこの領地でもないこの場所は、四つの大国に守られており、数百年以上も安寧の日々を過ごしていた。
しかし、それが怪しくなってきたのだ。
詳しくは知らないけれど、とある会議で揉め事があったらしい。
森の中で何度か小競り合いのようなことがあった。
村が直接狙われることはなかったけれど、問題はすぐに起きた。
「魔物が、押し寄せてきている」
動物と同じで魔物だって人間がいると警戒する。
それが武装した兵士ならなおさらだ。
自分を狙ってきていると勘違いした魔物は、勝てないと知ると奥へ奥へ逃げ込む。
そこに私たちの村があった。
何度か被害があり、私たちは村を捨てる覚悟を決めた。
けれども、四つの大国の平和条約は想像以上も早くに破られ、どこも移民ができないような状況に陥った。
さらに最悪だったのは――。
「嘘、嘘だといって」
「みんなを守るため、一人で魔物の群れに突っ込んで……」
彼が、村のみんなを助けるために死んでしまったことだ。
私はすぐに武器を持って探しに行きたかった。それが、私たちの関係だったからだ。
お互いにピンチなときは助けあう。
でも、私にはもう、守るべき人がいた。
「まま、どこいくの」
彼は、言伝で「後は頼んだと伝えてくれ。幸せだった」と残した。
私は……剣を持つことはなかった。
ただ、必死に幸せになろうと頑張った。
けれども、森を出て二人で暮らすには厳しい世の中だ。
どうしたらいいのかわからないとき、二人の救世主のような存在が現れた。
アルスさんと、エレナさん。
二人はボルド国から抜け出してきたという。
元宮廷魔法使いで、エレナさんは、類まれな魔法を狙われ、ずっと逃げ続けているという。
敵に襲われ、もうダメだと思ったとき、颯爽と助けてくれたのだ。
それだけじゃなく、私たちの村を安全なところまで丸ごと移送してくれた。
そして、アルトさんは一人でベルファルに立ち向かった。
私は、ベルファルの恐ろしさを身に染みてわかっている。
狼鋼のような皮膚と強靭な牙を持ち、統率の取れた攻撃は、まるで熟練の兵士を思わせる。
何より体格が圧倒的なのだ。生半可な攻撃では弾き返され、押しつぶされてしまうこともめずらしくない。
……私も、現役時代に右腿に深い傷を負った。
命からがら逃げきれたけれど、それでも、あの恐怖はまだ身体に染みついている。
なのに――。
「……ありえない」
アルスさんは、結界の外で一人、まるで朝の散歩のように優雅にベルファルに声を掛けた。
俺が、遊んでやるよと挑発的ともとれる言葉を。
強い魔物ほど人語を理解する。
ベルファルは興奮し、四方八方から連続攻撃を仕掛けた。
けれどもアルスさんはただの一度の攻撃を食らうことがなかった。
何より驚いたのは、回避できない攻撃のみ、ごくごく小さい防御魔法を展開していたことだ。
普通は体を覆うか、熟練した魔法使いでも、前方にシールドを展開する。
恐れを知らないのだろうか。しかし、あれなら消費量はほんの少しで済む。
しかし、どうやって倒すのだろうか。
武器はエレナさんに渡してしまった。
魔法で敵を蹂躙する素振りもない。
回避、防御、回避、防御。
まるで、演舞のようだ。
ベルファルもやがて気づいたのか、攻撃を止める。
そして、一回りも違うベルファルが、一歩前に出た。
そうか、彼は待っていたんだ。
このときを。
「傷つけたりはしない。ただ、共存したいだけだ。お互いの為にな」
彼の言葉に激怒したベルファル、高く、おそろしいほど高く飛んだ。
そうか、あの体積ならばただの攻撃よりも遥かに凄まじい力となる。
踏みつぶされてしまえば、それだけでひとたまりもない。
避けなければ、確実に死ぬ。
なのに、アルスさんはその場に立ち止まっていた。
なぜ――。
「真っ向勝負は好きだ。――いいね」
悪戯っぽく笑みを浮かべ、前方にシールドを展開。
まさか、勝負するの!?
向こうが圧倒的な有利な状況で、あえて命をかけるだなんて。
ありえない、ありえない。
でもどこか、私は彼を思い出した。
ひかない。誰に対してもまっすぐで、それでいてカッコイイ――。
ベルファルはアルスさんを押しつぶそうとしたが、シールドに阻まれる。
しかし、やはり圧倒的な力だったらしい。
ベキベキと音が響き、まるでガラスが割れるような高音が聞こえてくる。
それでも――破れなかった。
アルスさんはベルファルを弾き返し、ベルファルはそのまま近くの巨木にぶち当たる。
怒った仲間のベルファルが突撃しようとするも、怒号のような唸り声が響く。
「そんな……認めた、の」
アルスさんは、ベルファルが主従関係を持つめずらしい魔物だと言っていた。
しかし、そんなことはあり得ないと思っていた。
聞いたこともなければ、仲間にしたという話も聞いたことがない。
違う。誰もできなかったんだ。
圧倒的な力を見せ、魔物に対して真っすぐに立ち向かえる勇気を持つ人が。
ベルファルは頭を下げ、アルスさんに忠誠を誓った。
残りのベルファルも。
アルスさんは私たちを見て、ニカッと笑みを浮かべる。
私は絶望していた。
どこへ行くこともできない。娘を守ることもできないと。
でも違う。彼のおかげで、エレナさんがいてくれたら、助かるかもしれない。
「ママ、あの人、パパに似てる」
「……そうだね」
そのためには私ももう一度剣を取ろう。
娘を、村を、守るために。助けてくれたアルスさんと、エレナさんのために。
それほど私の心の中には、未来の希望が生まれていた。
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