第11話 ベルファル
「村ごと移動? どういうことですか?」
アンネさんが手を挙げて質問してくる。
俺は、エレナを呼んだ。
「彼女と力を合わせれば、村ごとの移動が一日で終わるんですよ。なので、安心してください」
「え? ど、どういうことですか!?」
エレナは不安そうにしたが、やり方を説明する。
半信半疑ではなあったが、納得はしてくれた。
まずは村人を安心させるため、目の前で見せることにする。
「エレナ、分離魔法を使って根っこの部分から家を持ち上げてみてくれ」
え? と村人たちは不安そうにする。
エレナは両手をかざし、 俺の指示通り、今は使われていない家に手をかざした。
ぐぐぐと木製の家が持ち上がり、空に浮かぶ。
つまり、家を”分離”させた。
彼女の魔法は、くっついている、と認識している対象を離れさすことだ。
攻撃としても使えるみたいだが、むしろこっちが本当の使い道だろう。
詳しくは聞いていないが、民族魔法に近いように思えた。
「で、でもここから動かせませんよ!?」
「わかってる。ここからは俺の出番だ」
そこで俺が底に結界魔法を付与した。
重くて苦しいといった顔をしていたエレナの顔が、ふっと楽になる。
「――アルネさん、何をしたんですか!? 重さが、感じなくなりました」
「俺の結界魔法はありとあらゆるものを遮断する性質を持つ。今は、重さを遮断した。このまま持っていくこともできるが、一旦戻そう」
エレナは、こくりと頷く。
「ということで、この村をまるごと川の近くに移動させます。ちなみに既に整地はしておきました」
にこやかに答えると、村人たちからの反応がなかった。
……あれ、どうした? いくら近いとはいえ、ここから一歩も移動したない、とか?
「神業だ……」
「今のみたか!? 家が持ち上がったぞ!?」
「川の近くになれば、確かに生活環境が楽なるぞ!」
いや違った。喜んでくれているみたいだ。
ひとまず安心。
しかし、一方で不安そうな意見もあった。
「ただ、どれくらいかかるんだ?」
「そもそも、ベルファルが……」
もちろん、それに対しても考えている。
「今日中に終わりますよ。なあ、エレナ」
「ええと、この軽さなら確かに夕方までには終わりそうです。数も、そう多くないですし」
「そ、そうなのか!?」
「それに、ベルファルについては俺に任せてください」
ベルファルは統率の取れた魔物で、熟練の兵士ですら戦うのは至難の業だ。
もし失敗すれば村は破壊されてしまうだろう。
キチンと説明した上で、信頼して任せてくれると言った。
そうと決まればまずは村の大移動だ。
家具は一度分けてもらい、俺とエレナでまず家を移動させる。
早朝からの大仕事だったが、俺の計算通り、夜にはすべてが終わった。
「凄い。本当に村が丸ごと小川の近くに」
「それにアルスさん、どうやってこんな森を綺麗に整地したんですか!? まるで、広場じゃないか」
「さっき使った結界魔法ですよ。木を切り落とすのに使ったんです」
多くの人は、結界魔法がただ防御魔法だと思っている。
だが真の効力は耐久力だ。
側面を鋭利にして動かすだけで、非常によく斬れる魔法と変化する。
まあ、この辺りの使い方は珍しいと思うが。
流石に魔法を酷使しすぎたのか、エレナは疲れて息を切らしていた。
しかし、それでもよくやってくれた。
温泉についても、同じような手順で掘り進め、基盤はあったのですぐに開通した。
元々、底から組みあがっている単純なものだ。
今まで護衛しかしていなかった、案外、俺の魔法は村の建設に向いているのかもしれないな。
しかし急がなければならない。
なぜなら、昨晩撃退した奴らが戻ってきてないとなると、間違いなく第二陣がやってくるからだ。
むしろ、そっちが本丸だろう。
もっとゆっくりできるために頑張るとするか。
さて、その前に、
「エレナ、ここで待っててくれるか? ちょっと、先に用事を片付けてくる」
「どこ行くんです? もしかしてベルファルのところですか?」
「そう、夜行性だったはずだし、うろついてれば出てくるだろう」
「でも凄く危険だと聞きましたよ!? 村人の皆さんは、凄く怯えていますし……」
「だからこそだよ」
この作戦がうまくいけば、この村に立派な護衛ができるはずだ。
失敗すると俺が死ぬだけだし、すぐに迷惑はかからないだろう。
そう思っていたら、村人たちが声を上げた。
「ベ、ベルファルだ!!!」
急いで声が上げられた先へ向かうと、そこには、俺の予想よりも遥かに多い30頭以上のベルファルが村を囲っていた。
狼に似ている魔物だが、その大きさは桁違いだ。
体長は2メートル近くあり、手足が長く、柔軟性に優れている。
跳躍すると人間なんて優に飛び越えることができ、陣形なんて簡単に崩されてしまう。
ただ――。
ベルファルはプライドの高い生き物だ。
相手が自分より強いと認識すれば従順になってくれる。
しかし、傷つけさせることはできない。
昨晩倒した敵よりも難易度が高いだろう。
と、思っていたら、とんでもない敵が現れた。
「な、なんだあれは……」
「デカすぎるぞ」
「あんなの、見たことがない」
村人が驚くのも無理はなかった。
通常の二倍はあるであろうベルファルが現れたのだ。
明らかにボスだとわかる立ち振る舞いで、俺たちを睨んでいる。
目が充血し、普通ではないこともわかった。
かなり興奮している。
……いったい、何があったと言うんだ。
「きゃぁぁぁっ」
すると、横にいた通常のベルファルが村へ侵入しようとした。
しかし、目に見えない鏡のようなものではじかれる。
「こ、これは!?」
「防御魔法です。村の周りに展開しているので、ここにいたら大丈夫です」
しかし俺はスッと前に出る。
この中にいたら攻撃ができないからな。
おっと、忘れていた。
「エレナ、八咫烏を預かっててくれ」
「え、これがなくてどうするんですか!? あんなデカいのを相手に!?」
「傷つけるつもりはないからな。大丈夫。昨日の温泉のおかげで、魔力もかなり回復した」
さて、これが成功するかで今後が劇的に変わる。
ちょっと、頑張らないとな。
――――――――――――――
三十キロほど離れた森、黒づくめの忍び――乙葉が、樹上ですぅすぅと眠っていた。
「……アルス、待ってろよ。優しく殺してやるからな……」
すぅすぅ、すぅすぅ。
その距離は、アルスに着実に近づいていた。




